第二十六話:『ハーピィバザー』1
突如甲板に舞い降りたハーピィの集団は慣れた手付きで露店を設営を始め、そしてあっという間に出来上がったハーピィのバザーは大きな賑わいを見せる。
常連客と思わしき慣れた乗客は、このバザーを早速楽しんでいるようだ。
「あっという間に露店街ができちゃった。」
「ええ、それもかなり大きな規模ですごいですね。」
私も夕霧と二人並んでバザーに飛び込んで見て回る。
よくわからない道具や普通に見たらただの石ころや何かの葉っぱなど、多種多様千差万別に色んな物が露店に陳列されている。
まるで世界の縮図のようなこの露店は見ているだけでもとても楽しい。
そして品物の売買は金銭取引だけではなく物々交換など、取引方法も露店によって様々だ。
要はハーピィ達の欲しい物でお目当ての品物が手に入るかどうかが決まるらしい。
「どう?何かいいもの見つかった?」
「そうですね、いくつか興味を惹かれるものはありましたが・・・ちょっと見ても?」
夕霧の問いに快く頷く、夕霧の興味あるものは私も気になるし一緒に見てみることにした。
「いらっしゃーい!時間の許す限り見てってよ!」
ハーピィの店主に元気よく挨拶され、床に並べられた品物を見てみる。
このお店に並んでいるのは異国情緒あふれる変わった見た目の品々だ、見た目だけでは道具なのか装飾品の類なのか検討もつかない。
品物を眺めてる夕霧をよそに、適当に物を持ってみる。これは木でできた小箱だろうか?
何か道具をしまう物だとしても蓋や引き出しといった構造が見当たらない、もしくは見当違いで別の扱い方をするのだろうか?
「あぁ、違いますよアルマ、これはこうするんです。」
うんうん唸りながら使い方を考えていると、夕霧が小箱を取り上下を掴むと軽く捻る。
すると上側がくるくると回りだし、周囲を明るく照らしだした。どうやらランプの一種らしい。
「へー、こんなランプあるんだ!」
「前に旅の途中で一回見たことあったんです。かなり便利な魔法道具でしたが、魔法道具は魔力の補充が必要なので購入はしなかったんですよね。」
夕霧は長く旅をしているだけあって色んなものを知っている、こういう時の博識さは尊敬もするし、少し嫉妬もしてしまう。
旅をすることは私が長く憧れていた夢だったのもあって、夕霧の姿はまさに理想だ。
私も早く夕霧に追いつき、一人前の冒険者になりたいなといつも思ってしまう。
「じーっと見つめて、どうしました?」
「えっ?あぁ、ぼーっとしてただけ!なんでもないの。」
夕霧は一瞬きょとんとした顔になったが、すぐに微笑みを見せた。
そういう細かい仕草に私はドキッとしてしまう、こっちの顔が赤くなってしまいそうだ。
「ゆ、夕霧は何を見てるの・・・?」
「これですか?これは刀の手入れ道具ですよ。」
夕霧が手に持ってる道具箱はいくつかの薬瓶と、棒状の道具が収められていた。
普段刃物は砥石で研いだり手入れしているが、それ以上のものは全く知らないから新鮮だ。
「へぇー、それどう使うの?」
「そうですね、刀にまぶしたり塗ったり、色々ですよ。」
ジェスチャーで動きを実践してくれるが、いまいちピンとこない。まぁ知らないから無理もないけど。
「店主、これがほしいのですが。」
「その箱だね?じゃあ何かと物々交換しよう!」
夕霧がハーピィの店主に売買取引を持ちかけると、どうやら店主は物品交換がご希望なようだ。
いくつか手持ちの品を夕霧が提示する、店主が色々見ているが反応はどうやらよろしくないようだ。
「んー、欲しい物が特にないや!」
「そ、そうですか・・・、残念です。」
取引は失敗に終わってしまったようだ、ハーピィとの買い物はとても大変そうだ。
夕霧は少し残念そうにしていたが、すぐに切り替えて別のお店へ向かうことにした。
そして次のお店は何やらよくわからないものがいっぱいある、どう見ても私にはガラクタにしか見えない。
これでもお店の店番をやっていたのになあ、世界中の品物を見てきたと思ったけどまだまだ全然知らない世界が広がっているというのを思い知らされる。
交渉が終わったのか、夕霧が何か持って戻ってきた。どうやら金銭で取引できたらしい、通貨が使えたのは幸運だ。
そして夕霧が持っているのはよくわからない棒状の何かだ、木の枝にも鉄パイプにも剣にも見えないよくわからない品物だ・・・。
「なにそれ?そんなものどうするの・・・?」
私もよく知らない異国由来の使い方があるのだろうか、こんな変な見た目をして実はものすごい効果のあるアイテムなのかも。
だとしたらどんな効果があるのだろうか、瞬時に傷を癒やしたり?それとも神様に会えたりする神器とか・・・?
「あぁこれはですね・・・。」
夕霧はそれを持ったままどこかに行ってしまう、どこへ行くんだろう。
一緒についていくとそこはさっきの手入れ道具のお店だった、店主に夕霧は再び話しかける。
少しの会話の後、さっきのよくわからないものを渡して手入れ道具を手に入れた。
お目当ての手入れ道具を入手し、夕霧は満足そうな顔をして戻ってきた。
「おかえり、結局あれはなんだったの?」
「私もよく知らないんですけど、あれはそこの店主の好物らしくて、きっと交換してくれるだろうと言われたので・・・うわ、手に変な臭いが。」
なるほど、ただの交換品だったというわけだ。結局あれがどんな品物かわからなかったが考えるだけ無駄だろう。
夕霧がほしいものも手に入ったし。
その後しばらく露店をうろつくが特にめぼしいものは見当たらない、私には価値がわからないものばかりだったし、美術品とか大きなものもあったが、旅の邪魔になるから買わない。
そろそろ引き上げかな、と思った矢先にあるものが目に飛び込んでくる。
それは勇者の足跡という本だ。全3巻からなる勇者の冒険譚を綴った本で、勇者の冒険の始まりから魔王を倒し凱旋したその時までを書いている。
かなり事細かに書かれていて、どこでも見かけるくらいにはよく見る本だ。
印刷が普及する前でもその人気から大量に写本が出回っていて、これを書いた執筆者はよくわかっていないらしい、一説ではその細かさから勇者のパーティーのうちの誰かが書いたとも言われている。
そんなありふれた本になぜ目を奪われたかというと、この本には"4"と巻数が書かれているのだ。
全3巻で最後に魔王を倒し綺麗に終わっているのに、何故続きがあるのか、そして新刊だとしても何故今まで見かけなかったのか、とても疑問が残る。
仮にこれが誰かが作った偽物の続編だったとしても確かめなければなるまい、この突如現れた4巻目にとても気を引かれてしまった。
「すいません!この本ほしいのですけど・・・!」
問題はハーピィの露店ですんなり買えるのか、というところだ。店主次第で手に入るかどうかは先程見たばかりだ。
「これ?いいよ~!」
(やった・・・!)
店主のハーピィは二つ返事でOKしてくれた、ひとまずほっとしたがお代は何を要求されるのだろうか。
「あ、でも今欲しい物特に無いなあ・・・あらかた交換しちゃったし。」
早速暗雲が立ち込めてきた、これで手に入らなかったらどうしようと不安になる。
「そうだ!この後ダンス大会やるんだけど、そこで見事に踊ってくれたらあげる!」
「ダンス大会・・・?」
話を聞けば、ハーピィは元々楽器演奏と踊りが好きで、いつも露店を開かせてくれたらお礼に演奏会を開いているそうだ。
それが転じてこういった客船の船上では、客を交えたダンスパーティーになったそうだ。
二人一組で踊りハーピィたちがその踊りっぷりを評価するらしい、これで良い踊りを見せれば本をあげるということらしい
「夕霧!お願い一緒にダンス踊ってくれない・・・?」
「えぇっ!?私そういうこと全くやってないので自信があまりないのですが・・・。」
「お願いっ、あの本どうしても欲しくて・・・。」
「うぅ、そんな顔しないでください。わかりました頑張ってみます・・・。」
「やった!ありがとう夕霧!」
夕霧の了解も得て、さっそく夕霧の手を取りダンスの会場へ向かうのだった。
1年も間開けてしまいました・・・!おまたせしました!




