第二十四話:『新たなる旅立ち』2
結局あの後、船を探したが中央行きの船が多くて見つからなかった。
南に向かいたいと港の人に聞くと、明日にはその船が来るという、その言葉を信じて翌日、また港に来ると見慣れない船が一隻入港していた。
「わぁ・・・!」
その船は、なんの変哲もない帆船に水車のようなものが付いているなんとも不思議な船であった。
人類が新天地を求めて海に出たのもはるか昔、外洋に出る船は帆で風を受け止め進むのが一般的だ。
だがこの船は水車みたいなものが付いている、これも魔石機関のような最新の技術なのだろうか、どうやって動くのかすごく気になってくる。
「これが南への定期船なのでしょうか?」
「多分そうじゃないかな?他に港に入ってる新しい船はなさそうだし。」
私達はいつでも乗船できるように、荷物は整えて持ってきてある。とはいっても冒険者なのだから抱えるほどの大荷物ではないから身軽ではあるけど。
「よし、じゃあ乗ろう乗ろう!船に当主の紋章もあるし、タダで乗れるわよね!」
「あぁもう、アルマったら忙しないですね・・・。」
アイシャを連れて夕霧も船に乗る、手頃な船員を捕まえて話を聞けば、きちんと南に向かう船のようで夕霧はほっと一安心した。
「さっき船員さんに部屋を聞いたら1等客室だって!一番いい部屋みたい!」
「わーい!」
南に行くには当然、目の前の海を渡る必要がある。なので2日や3日で到着するわけでもないし、個室で休めるのは大変ありがたい。
「わーっ、ふかふかのベッドだ!」
「あんまりはしゃぎまわったらダメですよ?」
案内された船室へ入る、一番いい客室とはいえ船なので若干狭く窓も小さいが、3人で宿泊するには丁度いいサイズだろう。
荷物をおいて、出港まで時間があるので甲板に出てみる。
出港前だけあって物資の積み込みなど慌ただしく船員たちが右往左往していた。
邪魔にならないように避けつつ、甲板から街を見る、大きな街だけあって喧騒を眺めるだけでも見てて飽きない。
この街にいたのはほんの数日だったが、色んな事が起きて中々忘れようにも忘れられない街になりそうだ。もっとも私が原因になった部分も否めないけど。
「もう西の地ともお別れかぁ。」
別れの挨拶はすでに済ませているので、見送りは断ってある。ゆったりと潮風に当たりながら出港までの間をのんびりと過ごす。
「あぁ、こんなところにいましたかアルマ。」
ふと声をかけられて振り向くと、夕霧がアイシャを連れてやってきていた。夕霧はアイシャを連れて船内を見回っていたらしく、巡り巡って最後に甲板に来たというわけだ。
「わー、いい眺め!」
「そうですね、港がよく見えます。」
アイシャちゃんは夕霧にすごくなついていて、こうして並んでると親子みたいな感じだ。夕霧は優しい性格だし、格闘技も教えこんだし、親子のような絆ができているのかもしれない。
なんにせよ、これから共に旅をする仲間として一緒に行動するし、私も彼女になにかしてあげられたらいいな。
___ゴーン!ゴーン!
突然けたたましく鐘が鳴る、どうやら出港準備ができたようで、その合図のようだ。
もうすぐ新たな旅立ちを迎えると思うとワクワクが止まらない、その反面、これから先の旅路は陸続きではないため、知り合いもいない孤立無援の不安もよぎる。
でもそれをひっくるめて全部、旅という文字で括る。自分の知らない土地を巡るのだ、そこに期待と不安がないはずがない、そのすべてを楽しめて、旅なのだと悟る。
そして船は大きく揺れて、岸壁を離れ動き出す。離れてしばらくして、あの巨大な水車のようなものが音を立てて動き出す。
「わぁなにあれ!ああやって動くの!?」
「あはは、いよいよお別れだっていうのにアルマは元気ですね。」
「そりゃもう、だって別れの挨拶は済ませてあるし、今生の別れってわけでもないでしょ?だから旅は明るく楽しまなきゃね!」
「やれやれ、その明るさは見習いたいものですね、ふふ。」
船は巨大な外輪を回して港を出る、風に頼らない動力だからとてもスムーズで早い船出だった。
そしてどんどん陸地を離れ、ついには街が見えなくなった。
「街、離れちゃいましたね。」
「うん、西の地では色々あったけど、新天地が楽しみねっ。」
「アイシャも、どこか別のところに行くのは初めてだからワクワクするね!」
「いいねいいね、一緒に楽しんでいきましょ!旅は楽しまないと!」
街が見えなくなったので、とりあえず部屋に戻る。が、船というのは密閉空間だけあって暇を弄ぶ、夕霧はともかくアルマとアイシャは暇を持て余しすぎてウズウズしだしている。
「二人共、少しは落ち着いたらどうですか・・・?」
「えー、暇すぎるし~!なにかしたいよ~!」
船は客船ではあるがそこまで大きいものではない、談話できるようなサロンはあれど、彼女たちがご希望のような体を動かせるような場所など当然あるはずもない。
「アイシャ暇だよ~。」
「ん~、あ、そうだっ!じゃあ・・・。」
アルマは自分の荷物から一冊の本を取り出す、それはアルマがよく見る、勇者の伝承をまとめた本だ。
アイシャを膝に乗せて、勇者に関するお勉強をするようだ。
「アイシャちゃんは勇者について、どこまで知ってるのかな?」
「んー、全然知らないや、みんな話題にすることもなかったし。」
「そうなんだ?演劇でも定番になるほど有名なのに。じゃあいちからお話しなきゃね。」
そういってアルマは勇者について話を始める。かつて魔王とその軍勢が魔界から今の我々のいる世界にやって来るところから話は始まる。
「・・・で、この魔王がやってきて世界はあと一歩で魔王の手に落ちるところだったのよ。」
「わーたいへん!」
「そこにさっそうと現れたのが勇者とその仲間たち!世界中を旅して魔王の軍勢を蹴散らして、最後に魔王を討ち取って世界は平和になったのよ。」
「勇者ってすごく強いんだね!」
勇者はこの世界を救った救世主という共通認識だ、悪を蹴散らし勝利をもたらしたという勇者の英雄譚は世界各地で語られ、吟遊詩人の歌になり、現在まで残る。
だが、勇者の共通像はあっても、その活躍は謎に包まれていることが多い。
確かに敵を打ち負かしたりなどの話は残っているが、戦い以外での勇者の話は食い違いが多く定かではない。
今のアイシャちゃんにこの話をしてもわからないし、よく知られているメジャーな話だけをする。
「・・・それで、勇者は仲間と魔王を倒すと、魔王の軍勢は恐れをなして魔界に逃げ帰り、世界は平和になって、勇者はお姫様と結婚して幸せになりました・・・ってありゃ?」
どうやらこんこんと語っていたら寝てしまったようだ、小さな体をそっと抱きかかえて、ベッドにゆっくり下ろす。
「まったく、ひとがせーっかく語ってるのに寝ちゃうなんて、ふふっ。」
「まぁまぁ、子供はそういうものですよ。」
もう一つあるベッドに二人で腰掛け寝顔を眺める、安らかなその寝顔は年相応で可愛いと、二人で笑い合うのであった。




