第二十四話:『新たなる旅立ち』1
一夜明けて朝、港は街よりひと足早く目覚める。
外への出入り口である港は、毎朝早くから人や物が出入りする。まだ眠りについている街中とは逆に、朝早くから喧騒に包まれ活気づいていた。
「よし、じゃあここでお別れね。」
出会いもあれば別れもある、ホリィ姉は西の地の現状報告のため、一度本国に戻るとのことだ。
忘れがちだがホリィ姉は聖騎士として、高い地位をもっている。だからこういう報告義務はこまめにしないといけないらしい。
「ホリィ姉、元気でね。旅ができて楽しかったよ!」
「ふふ、私こそ久々にあなたに出会えてよかったわ、今度出会う時はもっと成長してるといいわね。」
ホリィ姉は微笑み、頬を撫でる。その手は柔らかく、そして少しさみしげに感じた。
「お嬢様、馬車の積み込みも終わりました。」
「そう、ご苦労様ねミィーシャ。・・・じゃ、そろそろ行くわね。二人共元気で!」
別れの挨拶を済ませると、ホリィ姉は背を向けて船に乗り込んでいく。その様子を見送ると、出港準備の邪魔にならないよう、その場を後にする。
宿に戻り、私達も荷物をまとめる。そろそろ私達も旅を再開する頃合いだ。
西の地では色々あったけど、どれも私にとっていい経験になった。銃や魔石機関、人間の知恵の結晶ともいえる最先端の技術に触れて学べる事ができたのも貴重な経験だ。
「お、そろそろ出るのかい?」
声がして、振り返るとそこにアメリさんがいた。
アメリさんもまた、この西の都に残って拳銃の改良と量産を行うそうだ、父さんの目に留まって支援を受けられると大喜びしていた。
「はい、そろそろ旅を再開しようかなって思って。」
「そうか、お前たちには随分助けられたよ、この銃ができたのもテストに付き合ってくれたおかげだしな。・・・あぁそうだ、これはお礼ってほどじゃないが餞別だ、持っていってくれ。」
そう言って小さな巾着袋を渡される、開けて中を見てみると銃のパーツと弾丸、火薬など一式入っていた。
「どうだ、試作した先行量産品だ、3丁組める分入れておいたぞ。」
「わぁいいんですか?ありがとう!」
「なぁに、ちょっとしたお礼さ、機械っていうものはいつかは絶対壊れるし、修理は必要だからな。遠慮なく持っていってくれ。」
これだけ大量の予備パーツがあれば、どこか部品が壊れても恙無く修理できるだろう。元々単純構造で頑丈なこの銃なら長持ちしそうだ。
「あぁ、それともう一つ頼まれてくれないか?アイシャのことなんだがな。」
「アイシャちゃん?」
アイシャちゃんは自警団の基地で育った孤児だ、だから私達が旅に出るならアイシャちゃんともお別れになる。
「もしよければ、アイシャも旅に連れて行ってあげてくれないか?迷惑になるならいいんだがな。」
「アイシャちゃんを?でもあの子はまだ子供ですよ?」
「まあな、言いたいことはわかるがあの子だって、そろそろ外の世界を見ていくべきだと私は思うんだ。」
「外の世界を・・・。」
「あの子が親を失ってこの方、この西の地でずっと暮らしてきたが、あの子はもっと色んな所を見て大きく成長してほしいとおもうんだ。」
「そうですね・・・、私はアルマが良ければ構いませんよ。」
「ならもちろん、私もOKよ!旅の仲間が増えるのは嬉しいしね!」
「わーい!お姉ちゃんたちありがとー!」
「わわ、アイシャちゃん!?聞いてたの!?」
突然飛び出して抱きついてきたアイシャちゃんを受け止めつつ、話を聞くとどうやら自分から旅に出たいとアメリさんに相談していたらしい。
「連れて行ってもらえるか不安だったけど、アイシャも旅がしたいって思ったから、一緒に行けて嬉しい!」
「改めてこれからよろしくね、アイシャちゃん!」
旅は出会いもあれば別れもあるが、変わらないものもある。これからはアイシャちゃんを含めた3人で旅をすることになり、賑やかなものになるのが嬉しく思う。
「それで、次はどこへ行くんだ?」
「次、次かぁ・・・。」
ここは西の果て、となれば向かうは北か南か東か・・・。
とは思ったものの、東だと一旦戻ることになるし、行くなら北か南だろう、まずはどっちか決めないといけない。
「うーん、行くなら北か南だけど、どっちにしようか?」
二人に早速意見を求めてみる、二人はお互いに顔を見合わせ、首を傾げ考え始める。
「アイシャは南に行きたーい!」
「私は北へ行ってみたいですね。」
こういう時に限って、狙ったように意見が割れる。結局北に行くべきか南に行くべきか私が決めないとダメなようだ。
せっかく整えた荷物をひっくり返し、中から一冊の本を取り出す、いつもの勇者のことを書いた本だ。
何回も読み返しているので内容はほぼ覚えている、記憶を頼りにページを捲り、内容を確かめ本を閉じる。
「・・・よし、南に行きましょ!」
荷物を戻しながら進路を決める、行き先は南だ。
「わーい!」
「どうして南に決めたんですか?」
「ふと思い出したことがあってね、南の方には勇者にまつわるものが色々あって。」
南の塔に住む不老不死の魔女、古代遺跡の宝など、南の方は勇者の冒険記録が数多く本に記されている。
これなら行ってみたくなるのが人情というもの、というわけで南へ向かうことにしたのだ。
「ふふ、アルマはホントに勇者が好きですね。」
「特に目的もないんだし、それならそういうところ見に行くのもいいんじゃない?」
「そうですね、アルマに私は付いていきますよ。」
「アイシャも行くー!」
「じゃ、南にけってーい!」
「それで、どう南に行くんですか?」
「あ、それならいいものが・・・。」
また荷物をひっくり返し、中から紙を取り出す。それは当主から騒動のお詫びにともらったものだった。
「じゃーん、船の乗船券!当主が保有してる船ならどれも乗っていいっていうお達しが書いてあるから、これで南まで行きましょ!」
当主が所有している船ならタダで乗り放題だから、南に向かう船も一つくらいはあるだろう。
後は都合よく南行きの船が港に泊まっていればいいのだが、さらに当主の所有する船であればタダ乗りできる。
「よし、じゃあ早速港に行って船探しましょ!」
「おう、見送りには後で行くから、行ってこい。」
「・・・行ってきます!」
「ん、しっかりな。」
アメリさんがアイシャちゃんを撫でる、そのアメリさんの顔はどこかさみしげであり誇らしくも見えた。
再び港へ戻る、朝とは違い今は昼時なので、港は幾分か落ち着いていて閑散としていた。
ここで南に向かう船を探さなければ、まぁ大量に船が並んでるし、適当に探せば見つかるだろう。
そんな折、猛烈な速度で近づいてくる人影が。なんだろうと思ったが正体はすぐに分かった。
「おぉ娘よ・・・!もう行ってしまうのか~~!?せめて後10年は一緒にいていいんだぞ!?」
「もう父さんっ!いつまで子離れできないのよ!」
相変わらず子離れできず、泣きじゃくりながら父さんがしがみついてくる。まるで子供みたいな姿に一緒に来た母さんも呆れた様子だ。
「まったく、いつまでしがみついてんだい、この子供おやじめ!」
「ふえぇ、寂しいこと言うなよ母さん~。」
この子煩悩さえなければすごい親なのだが・・・。人間誰しも欠点というものはあるんだなと思い知らされる。
それはさておき、父さんたちにも南へ向かうことを告げる、ついでにそのための船を探していることも。
「娘のためなら!船だろうがなんだろうが出すぞ!」
「父さんは過保護なんだよ、黙ってな!」
小人みたいに縮こまる父さんを尻目に、船を探す。
南へ向かう船は果たして見つかるのだろうか・・・。