第二十話:『明日が平和になるのなら』2
「それで、船に乗って商売に来てたんだ・・・?」
私達は驚きの再会の後、車に乗って港を出た。
あの船は話を聞くと定期便らしい、定期便を出して中央と西の地との物資の交易をおこなっているようだ。
西の地からは鉱石類の輸入をしているそうだが、高まる金属製品の需要に対して原料が足りないらしい。
父さんは輸入量を増やす交渉をするために定期便に乗ってこの西の都まで来た、ということのようだ。
「でも私たち、さっきお屋敷に行ったら出かけてて居ないって言われたんだけど?」
「おや?それは変だね、今日が会合の日のはずなんだ。」
「・・・つまり、あたしの売り込みは嘘ついて追い払ったってことか、商談があるならそう言えばいいのに、あの狸め。」
「あはは、君も商談に?よかったらついでだ、一緒に参加するかい?」
「うぇっ、いいのですか!?是非お願いします!」
「ああ構わないよ、これもなにかの縁だしね。それに、君の売り物も興味あるし。」
「売り物・・・、銃がですか?」
「あぁ、今や銃は軍にとっても標準装備だし、君の銃は娘も使ってるからね、良いものだと思う。」
父さんとアメリさんは商売の話で盛り上がってるみたいだ、父さんが見初めたものはだいたい利益が出るのよね。
夕霧はというと・・・、振り向いたら目があった。
どうやら私を見ていたみたいだ、目が合ったら少し照れくさそうにしてはにかんだ笑顔を見せてくれる。
たまに見せるそんな子供っぽい仕草が可愛いと思いつつ、車はすぐに貴族のお屋敷に到着する。
ついさっき来たばかりだが、今度はお出迎えに多数の給仕たちが外に出ていた。こういう光景を見ると昔を思い出すが、改めて父さんの影響力の大きさを思い知らされる。
そのまま挨拶を済ませてお屋敷の中に入る、そのまま応接間に案内されてすぐに屋敷の主、貴族様がやってくる。
「おまたせしましたキースタン殿、本日は・・・、おや、今日は大所帯ですね。」
「あなたが当主なの?なんだか随分若くてびっくりしたわ・・・。」
「えぇ、こんな見た目通りの若輩者ですが両親には先立たれてしまい親戚の類もいませんので、当主としてやっています。」
「彼は相当なやり手だよ、商売人の素質が十分ある、彼とは長く付き合っていきたいものだ。」
私かホリィ姉くらいの年齢に見える当主の姿にびっくりしたが、話を聞けば南部の安定した統治は彼の手腕によるものだとか、それを聞いたらできる人物なのだと理解できる。
その後、会談は始まって父さんと若き当主とで数々の議論を繰り広げる。
結果、これ以上の資源獲得量を増やすのは南部の生産量では限界で、北部の開拓は必要不可欠であること。
アメリさん率いる自警団と当主が率いてる私兵を持ってしても北部の盗賊や鉱山の所有問題の解決は難しいとのことだ。
さらにそれらを南部の港に運んで輸出しなければならず、北部から南部までの輸送距離の長さも相まってリスクが高い、その辺は私も経験したからよく分かる。
山越えでの輸送は量も少ないしがけ崩れも起きるので不安定で定期輸送は現実的ではないそうだ。
「うぅーむ、問題が山積みすぎるな・・・。」
「西の地は開拓の奨励でたくさんの人が入ってくるので、北部はもう制御しきれないくらいに治安は悪化しています。」
「それに、魔石機関によるエネルギー革命・・・、これによる魔石需要の拡大で、鉱山の所有を巡って争いも起きている、村同士の戦争は自警団でもどうしようもないな。」
状況の説明をしただけで北部の絶望的な状況に沈黙が走る、これの解決策を考えるには問題が多すぎる。
「・・・その問題、解決できるかもしれないわ。」
沈黙の中、アルマの一言で頭を抱えて悩んでいた全員が注目する、この状況をなんとかできるというのだから驚くのも無理はない。
「この状況を解決できる何かがあるというのですか?」
「えぇ、少なくとも希望にはなるはずよ。」
「まず、鉱山の所有問題で争ってるなら、貴族の貴方が召し抱えてしまえばいいのよ、そうすれば争いは起きないわ!」
「はは、何かと思えば、かたっぱしから私の所有にすればそれこそ村人から反発も起きるでしょう、彼らは鉱石を売って生計を立ててるんですよ?」
「いいえ、彼らが売ってるのは魔石だけよ。鉱石を買ってくれる商人がいないし、売れるまで時間がかかるから魔石しか掘ってないの。」
アルマは自ら見てきた鉱山の話をする、魔石以外見向きもされない鉱山の現状や村の生計を語る。
当主は北部の情報についてはアメリさんから聞いたこと以外あまり知らず、情報を聞いて感嘆の声を上げる。
「なるほど、そこまでは知らなかったよ。だがそれなら村から買い取るだけで良いんじゃないのかい?」
「それだと村同士の闘いは無くならないわ、彼らは石ころがほしいんじゃなくて、生きていくためのお金が必要なのよ。」
ならばこそ、鉱山は貴族が抱え、村人を採掘労働者として雇えばいい。そうすれば安定した収入も得られるようになるし、魔石を求めて鉱山の奪い合いもなくなる。
「さすが我が娘!・・・だが輸送の問題はどうする?」
「実はここに来るまでの道中にゴブリンの村が新しくできてて、がけ崩れの多いルートから安定した山道の道が新しくできてたの。」
身につけていたゴブリン製マントを見せながら、持っていた印の入った地図を見せる。
ここなら中央との交易拠点にもできるし宿場街としてもいい立地だと、父さんもすごく驚いていた。
「乗せてもらった商人さんも、戻ったら広めるって言ってたし、このルートはきっと主流になると思うわ!」
「確かに、危険な崖道を通らなくていいなら安定して輸送できそうだな!」
「じゃあ、治安はどうするんだ?自警団と私兵だけじゃ、村の問題が解決したとしてまかないきれんぞ?」
「そこはこれ、冒険者ギルドの出番よ!」
そう言って自分の冒険者ギルドの証を見せる、冒険者ギルドは需要が減ってかなり苦境に立たされている。
それに商人の警護や治安維持などは血の気の多い連中なら魅力的に見えるだろう。
「外部の人員に頼るのか、確かにこっちには冒険者ギルドはないし、場合によってはギルドも拡大できて影響力も得られるから美味しい話でもあるかもしれない、か。」
冒険者ギルドで試験を受けた時も、私が貴族の娘だと知るとすごい腰の引けた対応をしていたし、貴族とか地位のある人には弱いだろう、依頼をすれば彼らは喜んで受けるはずだ。
「どう?確実とまではいかないけど、これなら光明は見えてこない?」
「さすがキースタン家のご令嬢ですね、かなり現実的だし希望が見えるお話です。」
もしこれが全部うまく行けば、治安はぐっと良くなるだろう、そうすればこの西の地はより安全に、より平和になっていけるだろう。
「・・・ですが、この提案にはひとつ問題がありますね。」
「問題・・・?」
「それは、とてもお金がかかるということです、鉱山の買収、冒険者ギルドへの依頼、市場の設置など、どれも莫大な金額がかかります、今の我が家の財政でもとても・・・。」
確かに、鉱山を買うにしても、人員を雇うにしてもお金がかかるのは確かだ、北部の鉱山は多数あるし、大量の村人も雇うのはすごくお金がかかる。
「ですが、それも解決策はあるにはあるんです。」
「解決策・・・?どんな?」
「それは・・・、流通王や交易王とまで言われるキースタン家、その莫大な資金があればすぐにでも可能でしょう。」
「む、たしかに金額はすごく大きいが、ざっと見積もっても出せない額ではないな・・・。」
没落した貴族にはお金もなく自力ではどうにもできない。だからこの計画を遂行するにはキースタンの家の力が必要だと説く、だがそれは同時に他人の財布を使わせてほしいという無茶な相談でもある。
「なので、こちらからも提案があります。」
「ほう、それはどんな?」
そういうと彼は立ち上がり、私の前まで来ると跪いて手を取る。
「アルマさん、私と結婚してはいただけませんか?この地の平和のために、お願いします・・・!」
それは急なプロポーズだった。