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第十九話:『逆さまの空』1

「あう・・・、う、ぁ・・・?」


アルマが飛び移るのに失敗して、地面に真っ逆さま・・・、だったのだが途中で衝撃とともに落下が止まる。


まるで浮いているように宙にとどまっている、一体何があったのだろうか?


「一体何が起きたの・・・?」


ふと足元を見ると、係留ロープの先端のフックが奇跡的にブーツの靴紐に引っかかっていた、しっかりと食い込んでブーツが脱げなければ外れることはなさそうだ。


「こ、これは、何とか助かった・・・のかな?」


真下を見ると遠くに地面が見える、落ちたらひとたまりもなかっただろう。


しかし私が助かっても状況はあまり変わっていない、この状態じゃ私も動けないし気球を下ろすのは難しい。

むしろこれでは私が増えた分、悪化しているのではないか?などと逆さまになった頭で考えていると、また私を呼ぶ声が聞こえてくる。


「お姉ちゃん大丈夫!?」


さっきの崖があるところからアイシャちゃんが叫んでいる、私がジャンプしてからそこまでまだ距離は離れてないようだ。


「今から飛ぶから受け止めて!」

「えっ!?飛ぶって?!えっ・・・!っちょっと!?」


急な事に困惑したが、考える暇もなく、彼女は後ろに下がって助走をつけている。角度も変わって距離も短いが大丈夫だろうか。


「とりゃあーーーっ!」


アイシャちゃんは驚くほどのジャンプで飛ぶが、やっぱり私と同じで距離が足りない・・・。

このままでは落ちるだけ、だが私がジャンプした時とは状況が違う。


「もうっ、むちゃして怪我したらどうするのよっ・・・!」


そう、私がいるからキャッチできるのだ、彼女の手を掴んで何とか食い止める。まるで大道芸でもやっているかのようだ。


「ありがとお姉ちゃん・・・!」

「まったくもう・・・、アイシャちゃん、このまま上に登って気球の魔石機関を止めて、そうすれば気球はだんだん降りていくから!」


「わかった!」

「気をつけるのよ!」


アイシャちゃんを持ち上げて体を登らせる、そのまま係留ロープを登りゴンドラの中に彼女が入る。

子どもたちをあやす声が聞こえてくる、アイシャちゃんが助けに来て安心したのだろう、私も姿が見えないが声を聞いてホッとする。


「アイシャちゃん!炎が出てる装置があるでしょ!?それが魔石機関だよ!」


姿が見えないから色々不安になり声をかける、私は逆さまに吊られてゴンドラがごとごとと揺れるのを眺めることしかできない・・・。


「うぇ~!止め方わかんないよぉ!おねえちゃーん!!」

「えぇっ・・・!止め方・・・。」


そういえばすっかり失念していたが、魔石機関なんて初めてみたんだし止め方なんて分かるはずもなかった。

こんな簡単なことも気づかなかったとは、つくずく私は考え無しだった・・・。


「えぇと・・・、とにかくばーんってかんじでどーんってやればいいのよ・・・!」


わからないなら気合でどうにかなるだろう!母さんもわからないものは、とりあえず叩けば動くか止まるかするぞ、と毎回言っていたし。


「わかった!やってみる!」


自分で言っておいてなんだが、本当にわかったのだろうか・・・?

しばらくして、ゴンドラからガンガン音が聞こえてくる。もしかしたら装置が壊れるかもしれないけど、人命優先だし、しょうがないよね・・・?


「あーもー!どうすれば止まるのーっ!」


どうやら悪戦苦闘してるみたいだ、止め方聞ければいいのだが、もう気球は天高く飛んでいて追いかけてきてる馬車も小さく見える。

こんなことなら予め止め方、聞いておくべきだったかもしれない・・・。


「うわわぁっ・・・!?」


アイシャちゃんが急に叫んだかと思えば、ここからでも見えるくらい火柱が立っているのがわかる。

止めようとして逆に火力を上げてしまったようだ、気球が急上昇をはじめる。


「ちょっ、アイシャちゃん逆!逆っ!」

「そんな事言われてもわかんないよ~~!!」


そんな会話をして慌てふためいていると、急に炎が消えて、火の音も聞こえなくなる。


「あっ!お姉ちゃん止まったよ!」

「ホント!?よかったぁ・・・。」


魔石が燃え尽きたのか、アイシャちゃんが止めたのかわからないけど、火が止まれば後は空気が冷えるのを待って、地面に着陸するのを待つだけだ。


ほっとして、ふと気がついたように周囲を見る。

そこには雄大な荒野と、森と、山が一面に広がっていた、これが遥か上空から見た気球の景色なのか・・・。


逆さまで吊るされてなければ、もっと感動できただろうこの景色をゆっくり眺めて目に焼き付ける。

夕霧や皆も、本来ならこの景色を見られただろうに少し残念だ。


「わぁ~!お姉ちゃん大変だよーっ!」

「ええっ、アイシャちゃんどうしたのっ!?」


「前に谷、谷があるよ!!どうしようっ!?」

「谷!?うそでしょ!?」


身体を捩って進行方向を見る、するとどうだろうか、大きな谷底がまるで巨人の口のように大きく広がっているではないか。


しかも運が悪いことに、このままの速度でゆっくり降りていけば、あの谷底に呑まれるのは間違いないだろう。今日は厄日かなんなのか、一難去ってまた一難である。


でもこの状態でできることはほぼなにもないだろう、せっかく火を消したのにまた付けたらそれこそ地上に降りられなくなるかもしれない。

かといってあのとても深そうな谷底に落ちてしまえば救助も絶望的だろう。


「・・・なら、こうするしかないわよね。」


自分の右腰に付いているホルスターから落とさないように慎重にピストルを取り出す、こうなったら道は1つ、気球を急降下させて止めるしかない。


「アイシャちゃん!子どもたちとしっかり何かに捕まってて!今から気球を落とすわ!」

「わかった・・・!」


ゆっくりと撃鉄を起こし、両手でしっかりと構える。逆さまの体勢で狙いにくいが、気球の袋に当たれば良いのだ、慎重に的を狙う。


(お願いだから、ゴンドラには当たらないでよね・・・!)


狙いすまし、引き金を引くと白煙が吹き上がり、轟音とともに弾丸が気球を貫く。

気球全体ががくんと揺れて、落ちる速度が上がる。思惑通りうまく行った・・・!


熱気球は熱した空気で空を飛ぶ、ならば無理やり穴を開ければ、溜まっている熱い空気が抜けて落ちる速度が上がるのだ。


(よし、うまく行った・・・!)


高度を見つつ、続けて2発、3発と撃ち穴の数を増やして落下速度をゆっくり上げていく、シリンダーの6発全部叩き込む頃には、気球はなんとか谷底のギリギリ手前に落着しそうだ。


「アイシャちゃん、ゴンドラが地上に近づいたら子供たちを抱えて飛び降りれるっ?!」

「ええっ?!」


「多分、谷底ギリギリ手前に落ちると思うけど、それだと降りるのが間に合わないかもしれないし、安全な高度になったら飛び降りて!」

「う、うん!何とかやってみる・・・!」


気球はだんだん降りてきていよいよ地面が近づいてきた。

幸いなことに森を抜けて、拓けた荒野な場所に出たので木に刺さって大怪我ということはなさそうだ。


「アイシャちゃん!今!」

「・・・たぁーっ!」


一瞬、子供を抱えて飛び降りるアイシャちゃんが見えた。よかった、これであの子達は安全だ。


そして気球は地面に落ちて、私も係留ロープに繋がれているので地面に叩きつけらる。

衝撃と痛みが走るも、気球は無事長旅を終えて、母なる大地に帰還を果たしたのであった。


予測通りに気球は、崖ギリギリの距離でとまる。後少し遅れていたらと思うと、ゾッとしてしまう。


後は係留ロープのフックを外すだけだが・・・外れない!


どうやらあまりにもかっちりとはまりすぎているようだ、力任せにフックを引っ張ってもびくともしない。

靴紐を解いてる時間もないしロープを切断してしまおう・・・、とナイフを探して体中を探るが、ナイフがない、どうやら逆さまになった時に落としてしまったようだ。


もたもたしていると、また風が強くなり、気球が風を受けてしまい地面を這いずるように移動を再開する。


「うぁ・・・!くっ、この・・・!」


気球と一緒に私も引きずられる、必死にその辺の岩にしがみつくも、風の力が強く無力だ。

このままだと気球と一緒に真っ逆さまだ、何か手を考えねば、どうすればいい・・・。


この体制ではレイピアも抜けない、こうしている間にもズルズルと引っ張られ、気球の袋の部分がついに谷底に呑まれてしまった。


「お、落ちる、もうダメ・・・!」


眼前には底知れぬ闇が広がる谷底が見えるようだった。

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