表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/53

第十八話:『大空へ手を伸ばし』2

「・・・じゃあ、気球に乗ってみませんか?」


こっちの大人たちは会話が弾み、ついには気球に乗らせてもらうことになった。


私は小さい頃に両親に一度だけ乗せてもらったことがあるが、まだ子供だったので背が小さくて外の景色はろくに見れなかったから、乗り心地はあんまりよく覚えていない。


正直言うと、私も気球に乗るのは楽しみだ、山も超えた遥か上の景色は一度見てみたい。


彼は外に出ると気球の準備を始める、巨大な袋状の布と気球のゴンドラをつなげたり、一人での作業はとても忙しそうだ。


「あれ、よく見たらガス気球じゃないんだ?」

「ん?お嬢ちゃん気球に詳しいんだね、これはその通り熱気球さ。」


「へぇ~、私の見たことある気球はガス気球ばっかりだから、熱気球は初めて見るかも。」

「はは、まぁ熱気球は人気無いからねえ、すすで真っ黒になるとか、気球に火が燃え移って危ないとか、色々あるからね。」


でもそう語る彼の表情は自信有りげに、何か秘策があると言った感じで自慢げだ。


「でもこれを使えばそんな問題も解決できるのさ!」


彼はそう言ってゴンドラに見たこと無い機械を取り付ける、これは一体なんだろうか?

取り付けてる場所的には気球に熱を送る燃焼装置なのだろうけど、初めて見る奇抜な形で首をひねる。


「おお、こりゃ魔石機関の小さい版か!?」

「よくお気づきで、その通りこれは私なりに改良した魔石機関です。」


魔石機関は初めて聞くことなので、アメリさんに聞いてみると、いつしかアイシャちゃんが話してくれた雷灯の原理の事だった。


詳しい原理はアメリさんが懇切丁寧に教えてくれたけど、複雑すぎてよくわからない。

簡単な解釈だと、魔法陣にはマナを魔力に変換する力があるらしいので、その原理を使い、魔石を発動させて恩恵を得ているということのようだ。


要するに、アイアンスパイダーを倒した時のような事がメカニズムのようだ、そう解釈しておくことにしよう。


「この装置で、炎石を使えば煙も出ないし、出力をどうにか調整できれば熱気球でも思う存分飛ぶことができると思うんです。」

「今はまだ無理なのか?」


「そうですね、付けたり消したりして調整するのがやっと、ですかね・・・でも、いずれどうにかできるよう今は改良研究中です。」


そう言って魔石機関を起動すると、炎石から火が上がり始める。

そのまま熱せられた空気はどんどんと気球の中に入っていき膨らみ始めていく。


「後は空気が充満するのを待つだけですね。」

「どれくらいかかるんだ?」


「そんなにはかかりませんよ、それに係留ロープでつないであるので勝手に飛び上がることもありませんし。」


気球は無事に膨張を続けて立派な球形に姿を変える、巨大に膨れ上がった気球の大きさには少し感銘を受ける。


「すいませんが、これから重りを積むので、手伝ってもらえませんか?」

「重りですか?」


「えぇ、高く飛びすぎるといけないので、その調整用に乗せるんです。この辺りは崖や谷といった地形が多いので、風に流されて変なところに着陸したら困っちゃいますからね。」


天高く飛べないのは残念だが、それでも気球から見る景色はきっとすごくいいものだろう、重りは結構な量を使うらしく周囲の土を袋に詰めた土嚢を使うようだ、みんなで手分けして土を詰め込むところから始める。



「ふー、こんなものかな。」


細かな調節が必要だから大小様々な土嚢を用意した、これまた袋に詰め込むのが重労働で腰が痛い。


「た、たいへん!たいへんだよー!気球が勝手に・・・!」


アイシャちゃんが叫びながら走ってくる、気球・・・?何のことだろう?と、上を見ると気球が空に飛び上がっているではないか。


「あの、気球がどんどん上に飛んでるんですけど、大丈夫なんですか!?」

「えぇっ!?・・・おかしいな、気球は係留ロープでつないでるはずなんだけど。」


ゆっくりと上昇する気球のゴンドラからは垂れ下がる一本のロープが見える、どうやらうっかりロープを掛け忘れていたか、何かしらの影響で外れたのだろう。


「ロープ、外れてるみたいだな・・・。」

「あちゃあ・・・、ま、まぁ、そのうち燃料が尽きて自然と降りてきますよ・・・。」


熱気球は当然、熱した空気を使ってるから、暖めるものがなければ、中の空気は冷えてやがて地面に降りてくる。

それに気球は自力で動けないので、風が吹かない限り動くこともなく、その場に降りてくるというわけだ。


一時はどうなるかと焦ったが、ただプカプカ浮いてるだけなら大した事故じゃなくてほっとした。

・・・ただ気球に乗れそうにないのが少し残念だが。


「あの中には子どもたちが乗ってるんだよ~っ!一緒にかくれんぼして遊んでたら乗っちゃったみたいで・・・!」

「な、なんだってっ!?」


子供がいると言われ、慌てて急いで気球の真下まで戻り、大声で呼びかける。

するとすぐにゴンドラから返事が返ってきた、どうやら本当にあの中に乗っているようだ。


「お父さん助けてぇーっ!」


無人ならともかく、中に人が乗っているとなると話は変わってくる。もし風でも吹いてどこかに飛ばされでもしたら、子供だけではとても危険だ。


だが今は、安全に気球が降りてくれることを地上から見上げて祈ることしかできない。どんどん上に昇っていく気球には誰も手出しできないのだから。


「まずいぞ、風が出てきた・・・。」


悪い予想はだいたい当たるもので、少しずつ風が吹いてきて気球が流され始めたようだ。

このままだと遠くに流されて見失うかもしれない、それだけは避けなければならない。


「走って追うには限界があるわ、馬車で追いかけましょう!」


馬の世話をしていたホリィ姉たちも合流して、皆で移動し始めた気球を追いかける。幸い空は雲ひとつ無い天気なので、上昇し続けて雲の中に入って見失うということが無いのが唯一の救いだろうか。


「しっかしあれ、いつになったら降りてくるのかしら・・・。」

「燃料の炎石は投入量が少なくても、かなり持続時間があるんです。まだ準備のつもりで火力は低くめにしてたので上昇速度は遅めなんですが、このままだと・・・。」


このまま降りてくるまで眺めてることしかできないのだろうか、気球はともかくとして中に乗ってる子どもたちが心配だ、なにかの拍子でゴンドラの外にでも投げ出されたら最悪の事態になるかもしれない。


そうでなくても飛行する鳥のようなモンスターも現れるかもしれないし、幼い子供だけではとても危険である。まだ低空を飛んでるうちに乗り移れそうな所があればいいのだが。


「お姉ちゃん、あそこ!頑張れば飛び移れそうだよ!」


アイシャちゃんが指差した場所には低めだが崖があった、気球との距離は少し不安だが助走をつけて飛び出せば乗り移れるかもしれない。


「よし、じゃあ私が行くわ。」

「無茶ですよアルマ!あの距離を飛ぶのは下手すると落ちかねません!」


「どんどん気球は空に昇っていくし、ここでなんとか飛び移らないと手遅れになるかもしれないわ。」

「なら私が!」


「夕霧はもし飛び移るのに失敗したときのために下にいてちょうだい、夕霧なら私が落ちてもキャッチしてくれるって信じてるし。」

「・・・わかりました、ですがくれぐれも気をつけてくださいね。」


作戦が決まり、馬車を走らせて崖に先回りする。風もだんだん強くなってきて少し高いこの崖でも強風を感じられるくらいだ。


「・・・来た。」


気球が風に流されてゆっくりと飛んでくる、気球との間は結構あるし、ゴンドラも風で揺れているためタイミングを間違えば真っ逆さまだろう。


慎重にタイミングをはかり、助走をつける。走り出したら後はもう勢い任せだ、全身全霊を込めて崖に向けて走る。


「はあああああああっ!・・・てやあっ!」


崖っぷちを蹴り上げ、体が宙に舞う。後少し、もう少しでゴンドラに手が届く、思いっきり手を伸ばし掴もうとする。


・・・だが伸ばした手は残酷にも虚を掴み、空に浮かぶことが許されない人体は、地面へ向かって落ちていく。


「うわああああぁぁっ・・・!」


アルマは大空へ手を伸ばし、そのまま引力に任せて落下するのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 気球ですかー。銃の件もそうだけど、なろうの作品だと転生者や転移者による技術の発展はよくあるけど、こういう現地人によって徐々に進歩していく系はあまり見ないので新鮮な気がし…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ