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第十四話:『勇者を駆逐する者』2

あれから更に数日、ここまで長いこと一つの場所に滞在するのは初めてかもしれない。


私達はずっと客人でいるのは気が引けたので、銃の完成を見つつホリィ姉の手伝いで子どもたちの世話を行っていた。


そして肝心の銃はというと、少しずつだが要望に近いものはできつつあった。

ただ装弾数の問題と装填器具の問題はまだ暗礁に乗り上げたままであり、この2点が再重要問題である。


発火装置はというと、速射銃に使っていた新装置、雷管を小型化できたのでこれを使用するらしい。


これは砕いて砂状にした魔石を金属製のキャップに封じ込め、火打ち石の代わりにハンマーになった撃鉄がこれを叩き、火薬に引火するというものだった。


この新しい発火装置は確実に引火するし射撃までの時間差も無いことからとても優秀で、難航していたキャップの小型化は良いことだと言えよう。



そして問題になっている装弾数と装填器具、これはどちらも無茶なのは承知でアメリさんに要求しているものだ。


銃というものは、一発撃ったらまた一発装填するという単発なのが常識だ、銃のそれ自体はただの鉄の筒で発火装置と組み合わさることで初めて銃となる。


それ故に弾数を増やすとなるとかなり手を加えねばならない、装填速度を早める手段は数多く研究されてきたが、根本となる装弾数の改良はまだ前人未到の領域である。


装填装置に関しても、弾丸を押し込むのに付属の槊杖を使用する、これで弾丸を押し込まないと威力が出ないからだ。


だが槊杖は銃とは別部品なので、紛失してしまうのは致命的になるかもしれない。それを考えると銃と一体化している方が何かと都合が良いのだ。


そんな夢のような銃が出来るかどうかはさておき、この拠点で過ごすうちに西の地がどんなところかの詳しい情報も集まってきた。


西の地は作物の育たない荒野が続くと思っていたが、これはどうも北部の方だけらしい。南の方は緑生い茂る豊かな穀倉地帯になっていて北部の食糧事情を担う生命線になっているとか。


南部はさらに貿易港も備え、貴族や富裕層なども南部側に居を構えているらしく、西の地の中心地と言えるだろう。

それ故に北部との軋轢や対立は日を追うごとに蓄積し、北部への治安がおろそかになっている一因になっていると思われる。


このまま対立が進めばいずれ何らかの拍子に南北で戦争が起きるかもしれない、そうなれば今の比にならないくらいの犠牲者が出るだろう、これは由々しき事態だがたかだか冒険者に出来ることはなにもない。


せめて最悪の事態を回避できるように、偉い人たちが頑張っていることを願うばかりだ。


「暗い顔してどうしたのお姉ちゃん?」


ふと気がつけばアイシャちゃんが私の顔を覗き込んでいた、自分では気が付かなかったが暗い顔をしていたらしい、子供にそんな顔見せていたとは少し気をつけなければ。


「お姉ちゃんお姉ちゃん!今日の授業早く教えてよ~!」

「あぁもうそんな時間?じゃあ用意するわね。」


私は銃の完成を待ってる間算数を教えていた、元々父親に付き従い商売のいろはを学んでいたので簡単な計算くらい教えるのは訳もないことである。


数字の計算は需要があるのか、噂を聞きつけ子供だけじゃなく、いつしか非番の大人まで私の授業に参加するという人気っぷりになっていた、そのことから自警団の人たちからは先生、なんて呼ばれ始めて少し複雑な気持ちになる。


私より全然年上の人に敬われるとやっぱり少し戸惑ってしまう、元々敬われるような性格じゃないと自分では思っているから余計にそう思う。


まぁ、それを夕霧に話したら笑われてしまったのだが。


いつものように螺旋状の中央通路を抜けて、一番下にある子供部屋へ向かう。この道ももう慣れたもので最初は迷路のように感じたこの山岳要塞も今では細部まで把握しきっている。


「やぁ待ってたよアルマ!」

「・・・アメリさん、珍しく顔を見せたかと思えば待ち伏せ?」


部屋にはアメリさんが待っていて、相変わらず目の下に真っ青な隈を作り、やつれた笑顔を見せる、つくづく研究者な性格をしているなぁと思う。


「今度は完璧よ!絶対アルマちゃんが満足する物ができたと思うよ!」

「ほんと~?そう言ってこの前も得体のしれない銃だったし・・・。」


「得体が知れないとは失敬な、あの機構を作るのは苦労したんだぞ!?」

「でも、そのおかげで装填するのに、普通の銃の3倍の時間かかるのは流石に駄目だと思うわ。」


「そう言われるとぐうの音も出ない・・・だが今回は大丈夫だ、今までの失敗を積み重ねて出来た最高傑作だぞ!さぁ今日の授業は中止だ早速試験に行こう!」


アメリさんが授業の中止を言い出すと、ブーイングの嵐が巻き起こる、流石に皆楽しみにしていただけあって抗議の声を上げ始める。


「えっとー、じゃあ銃の試験は授業が終わった後にでもゆっくりとしよっか。」

「えぇー、今すぐ性能を披露したいのにー!」


「アメリさんは急ぎすぎだよ、とりあえず寝てそのやつれた顔を戻してからにしてほしいかな。」

「むむぅ、多勢に無勢じゃ仕方がない・・・授業が終わるまで横になってるとしようか・・・。」


アメリさんはその場で地面に倒れるように寝転がると、すぐに寝息を立てて寝始める、どこでもすぐに眠れるのもやはり才能なのだろうか、少し羨ましい。


「さて、それじゃあ授業しよっか。」

寝ているアメリさんをよそに私はいつもどおりに算数を教え始めるのだった。





「・・・んぉ~、なんだかすごく寝た気がする・・・。」

「あぁアメリさん起きた?」


彼女は伸びをしてけだるげに周囲を見渡す、ここは子供部屋ではなくアメリの部屋だ、なんで?といった表情になりぼへーっとした顔で私に問いかける、まるで状況がつかめていない様子で面白おかしかった。


「・・・なんで私は部屋に戻ってるんだ?」

「なんでも何も、まるっと一日寝てたから部屋まで背負って運んだのよ。」


「ぁ~、そりゃ悪いことしたねえ・・・っとそうだ!早速銃を見てほしいんだ!」


思い出したかのように銃を取り出し、机に置く。それはやっぱり奇妙な見た目で期待できそうにないなぁと正直思った。


「ふっふっふ、この銃が広がれば剣や弓はすぐに駆逐されるだろう、新しい時代はすぐそこまで来ているのだよ!」

「そのセリフ毎回言ってない?」


「そうだっけか?まぁとりあえず手に持ってその感触を教えてくれ。」

「なんかまた失敗しそうな感じだけど、大丈夫かしら・・・。」


できあがったそれを手に持ってみる、少し重たいがこれくらいの重量なら片手でも扱えそうだ、この前の試作品は両手でも扱うのが難しいくらい重たかったのにこれはすごい。


グリップの上には撃鉄があり、親指で起こせると説明される。かなり重たく親指で撃鉄を起こすのは少し苦労するが、片手の動作範囲内でできるのは嬉しいことだ。


「後は引き金を引くだけさ、どうだ簡単だろう?」


そして引き金を引き、撃鉄がガチンと大きな音を立てて元の位置に戻る、とても扱いやすく見違えていいものになっている。


「・・・驚いた、今まで奇抜なものばかりだったのにすごいじゃない!」

「何か引っかかるような言い方だけど、まぁ一応ありがとうと言っておくよ。」


変な見た目だがかなり実用的になっていると言えるだろう、撃鉄を起こした時に回転する筒状のものが少し気になるくらいだ。


「時に、勇者は伝説の剣をこの西の地で作ってもらい、それを使って魔王を倒したって伝わってたはずだよな?」

「まぁ勇者の伝説の剣に関しては諸説あるけどね・・・で、それがどうかしたの?」


「いやなに、その銃が成功したら、まるで勇者の伝説そのまんまの展開だなーって少し思ったのさ、新時代の勇者の伝説って感じでね。」

「つまりアメリさんが勇者の剣を作る鍛冶屋で、私が勇者?」


「ははは、そういうことだな!まぁ今のこのご時世、魔王も居なければ大きな争いもない平和な時代だけど、勇者を駆逐するより受け継いだってことにしたら儲けも増えて浸透も早くなるかなーってね。」

「へぇー、少しは考えが丸くなったんじゃない?」


「まぁ、勇者はビッグネームだしな、潰すより利用できたらその方がいいと思うし。それより動作確認が出来たら早く装填してぶっ放してくれ、装弾数も6発入れられるぞ!」


興奮した様子でアメリさんは催促する、どうやら筒状の装置に空いてる穴に装填するようだ、私は手順を教えてもらい、火薬と弾丸を用意するのであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 数日でかなり進歩しましたねー。本来なら年単位で時間がかかるようなものだろうに。 これが量産されると本格的に戦いが、戦争そのものが変わっていきますね。 まあそれはいいとしても、周りに変な影響を…
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