第十三話:『命を救うもの、奪うもの』2
アイシャちゃんが起きてきて、少し遅まきながらやっと1日が始まった。
どうやら誰かに呼んできてほしいと頼まれ、部屋に来たはいいものの、起きるのを待ってたら自分も寝てしまったらしい。
私と夕霧は再びアイシャちゃんの案内のもと、私達を呼んだ人のところへ案内してもらうことに。
どうやらここでは私達はちょっとした噂になってるらしい、いつもと違う人間の出入りはかなり珍しいみたいだ。
長い時間をここで過ごしている自警団の人たちは、西の地の向こう側のことには疎いようで度々珍しいものを見るような視線が飛んでくる。
ただそれは珍獣とかそういうものを見る目ではなく、異文化人を見たといった感じだ。
やはり地形を隔てると文化も変わるのだろうか、服装や顔つきもほとんど一緒だというのに、不思議なものだ。
頭に大きく布を巻いてる彼女も、私達が珍しいからよく会いに来るのだろうか、だとしたらそれはそれで嬉しい気持ちになる。
冒険者として憧れていた私が逆に憧れる側になったのだから、それは私が旅を続けてきた証でもあるし、とても嬉しいのだ。
「ところでこれから会いに行く人って、どんな人なの?」
「んとねー、ここで一番偉い人!」
一番偉い人ときたか、まぁ本来なら目覚めてすぐに挨拶に行くべきだったのだろうけど、色々と考えることが多くてすっかり忘れてしまっていた。
そしてアイシャちゃんが言うように、一番偉い人となると・・・、自警団をまとめている団長とかだろうか、だとすると厳格な人かもしれないし、どっちにしてもまず挨拶に行かなかった非礼は詫びないとかな・・・。
そんなことを思いつつ、呼び出したとされる人の部屋に通される。
部屋前に椅子に座った団員さんがいる、門番だろうか、やはりトップの人間がいるところは守りも厳重なようだ。
「やぁ、お嬢さん体の具合はどうだい?」
ドアを開けて中に入ろうとした瞬間にドアが開いて歓迎を受ける、何やら気だるそうな雰囲気の野暮ったい姿の女性だ。
「あの、えっと・・・?」
彼女は私が戸惑っているのもよそに、上から下まで舐めるように隅々まで観察される。とても珍しいものを見たと言った表情で、とても目が輝いている。
「わー、このマントすごい!ゴブリンしか編めないって言われる秘伝の布地じゃん!これほどの物をどこで・・・!?」
「おおそれに、この剣は東洋のだね!?こっちでもよく見かけるけど結構すごそうじゃない!」
「あ、あの・・・?」
「姐さん姐さん、客人が困ってるからそのへんにしておくれ。」
番兵さんが声をかけて、彼女ははっと正気に戻ると、赤面して頬を掻く。どうやら一度のめり込むと周りが見えづらくなるタイプの人のようだ。
「へ?・・・あぁごめんごめん、つい性格が出ちゃったよ。冒険者っていうのはあんまりここには来ないからさ、つい。」
「え、えーっと、それで私達に何か御用でしょうか・・・?」
「あぁ、珍しい冒険者ここに来たって聞いたから、この子に呼びに行かせたんだ。なんでも聖騎士様の知り合いなんだって?」
「えぇまぁ、ホリィ姉・・・聖騎士様とは古い付き合いがあって同行してます。」
「そうかそうか!ここ西の地は開拓者とか労働者は流れてくるけど、旅とかする人は全然来ないから、君たちの話を聞いた時に運が回ってきたなぁって思ったよ!とりあえず中に入ってちょうだいな!」
私達は彼女の勢いに乗せられたまま中に押し込まれるように連れ込まれる、とても忙しい人だ・・・。
「おっと、紹介が遅れたね。あたしはここで武器の研究をしてるアメリって言うんだ、よろしく!」
「武器の研究・・・ですか?偉い人と聞いていたので、てっきり自警団の団長かと・・・。」
一番偉い人と聞いていたから自警団を取りまとめているのかと思ったらそうではないようだ、自警団の団長ではなく研究者がトップとは少し意外だ。
「んー?確かに偉いといえば偉いのかなあたし。一応この自警団のスポンサーだしね、活動資金から兵器供与までぜーんぶあたしの懐から出てる。」
彼女は暗い部屋の壁際を手探りで探すと、スイッチを入れ部屋に明かりがつく、ランプの灯火とは比較にならない明るさだ。
「そして自警団の全てを一個人で援助する。それを可能にしてるのがこいつらさ。」
部屋には大量に散乱した設計図や兵器の模型、部品など様々なものが散らばっていた。
大砲や銃といったものがほとんどで、その圧倒的な量に目を丸くする、まるで兵器庫のようだ。
「まぁそのへんに適当に座ってよ、散らかってるのは気にしないで。」
「これはすごい・・・銃や大砲が大量に・・・。」
「あぁこれ全部試作品とかなんだ、ほとんどは失敗作だよ。」
「ということは、アメリさんは兵器開発者なんですか・・・?」
「ふふん、そういうこと。君たちを救ったのも、私が作った新兵器さ。」
そう言って1丁の銃を持ってくる、見た感じは普通のマスケット銃にみえるが、よく見ると構造が一般普及しているマスケットとは全然違うようだ。
「これ、普通のマスケットと少し違うような・・・?」
「お、分かるかい?こいつは速射できるマスケットなんだ。」
アメリは得意げな顔をして銃を操作すると、なんと銃身の根元部分が外れたのである。
普通、マスケット銃は単純に言ってしまえば一本の鉄の筒である、そこに点火用の装置が組み合わさってできるのが銃だ。
だがこの銃は根元の部分の銃身が分離して独立している、これなら装填時間も短くなるし早く撃てそうだ。
「どうだ、すごいだろ?こうやって取り外し出来るようにするのに結構大変だったんだよね~!」
「確かに、銃の装填には長い銃身が邪魔で一苦労するし、これなら装填も早そうですね。」
「ふふん、それだけじゃないぞ?取り外しできるということは、予め装填済みの物を予め用意しておけば、交換するだけで撃てるのさ!」
なるほど、あの時聞こえていた銃声の間隔が早かったのは連射できていたからなのか、あれ程の人数を殲滅できるその力には感服せざるをえない。
「自警団も人数不足でね、こうして少しでも火力が上がれば自警団の生存率も上げられるのさ。」
「え、結構な人数がいるように見えますけど、それでも不足なんですか・・・?」
「まあね、各地の村や交通の要所、色んな所を警備させてるから人数がいくらいても足りないし、実際に襲われてる通報から駆けつけるとなると、周辺から増援も呼ばなくちゃならなくなるから、どれだけいても足りないくらいさ。」
おそらくは軍隊も警備はしているだろうが、やはりそれでも手が足りていないのだろう、広大な西の地で全てを警備するのは難しいということか。
「おっと話がそれたね、君たちを呼んだのは武器作りのインスピレーションがほしいのさ。」
「インスピレーション・・・?」
「そう、この銃は我ながら素晴らしい性能してるとは思っているけど、個人で運用するには向いていないんだ。」
「そうなの・・・?全然そうには見えないけど・・・。」
「どっちにしても一発撃ってしまったら装填が必要になるし、装填済みの部分を携行するにしても大量には持ち運べないからな、もっと威力があって、装填が楽なものを作りたいのさ。」
そういって持っていた新型の銃を手渡す、たしかに冒険するとしてこんな重たいマスケット銃は持っていけない、火薬とか弾丸が尽きたら使いみちもないし、どちらにせよ旧来通り、剣やナイフといった刃物に頼るのが現実的だ。
「君らも、冒険するのに銃を持っていければ心強いだろう?」
「確かに、飛び道具があれば心強いとは思うかも・・・。」
「よし、じゃあ交渉成立だな!腕が鳴る~っ!」
こうして成り行きのままアルマと夕霧は銃作りの手伝いをすることになったのであった。