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第十話:『荒野を行く』1

私たちは朝日が昇り始めた早朝、街を出発した。

ホリィ姉は貴族が乗るような豪華な馬車に乗って各地を回っているようで、私たちもそれに同伴することになった。


本来は普通の荷馬車がよかったそうだが、教会の権威や面子もあるためこれを使ってほしいと懇願されたそうだ、馬も白馬を使ってる辺り相当なこだわりを感じずにはいられない。


そしてなによりホリィ姉らしいのは馬用の飼葉を無造作に屋根に積んでるし、馬車のドアを開けると豪華な内装に不釣り合いな木桶が中に転がってること、長旅になるとやはり馬の餌にも気を使うのだろう。


ましてやこの地域は赤錆びたような荒れ地が広がる不毛な土地だ、その辺の道草を食わせることもできないからこうして持ち運ぶしか無いのであろう、だがこうして豪華で格式高そうな馬車に、ぶっきらぼうに馬の餌や道具が積んであるところに笑いを禁じえない。


馬はご飯を食べないとでも思ってるのかしらね。とホリィ姉は言うが、おそらく西の地のことを知らないから、こんな馬車であちこち行けるのだろうと考えているのではなかろうか。


日が昇り薄闇が晴れて、大地に彩りが戻ったところで西の地を改めて見渡す。

赤い土の荒野が一面と広がり、大きな岩山が多数点在していて植物はほとんど生えておらず、なんとも殺風景な場所だ。


でも私にはとても興味深い新世界だ、この荒野の果てには何があるのだろうか、今からワクワクがとまらない。


「この西の地は元々不毛の地で、人はあまり住んでなかったのだけど、近年豊富な資源があることを突き止めた商人たちが、こぞって開拓者を呼び寄せて移民でごった返しているのは話したわよね?」

「うん、確かそれで治安も悪くなってるって事も言ってたわね。」


「この辺はまだ入口辺りだから治安はいい方なんだけど、これ以上先は駐留軍の影響も少なくなるから、気をつけないといけなくなるわ。」

「そんなにひどいの?」


話を詳しく聞いてみればかなりひどい状況みたいだ、駐留軍の数が足りてないのはまだしも、この地へ逃れてきた犯罪者たちが徒党を組み、物流にも相当な被害が出ているとか。

年々軍や警察の規模は拡大しているらしいが、それ以上に移民が流れてくるので対処できないらしい。


さらに移民たちが興した新村はどれも独立独歩の気風が強く、軍や警察と行った国家組織の介入を毛嫌いしているようで、ほとほと困り果てているんだとか。


「それで、そこが我々教会が付け入る隙になったわけ。」

「治安の悪化と教会がどう結びつくの?パンでも配って悪党を諌めるの?」


「教会を各村に建てて聖職者を駐留させるのよ、軍の代わりにね。」

「軍の代わり?確かに教会は武力には肯定的だけど、聖職者が治安維持を・・・?」


昨日の光景を見ても教会にいる人員は精々5、6名といったところだ、それだけの人数で軍や警察と同じように村を守れるのだろうか?


「なるほど、たしかに教会なら礼拝所とか必要になるわけですし、自然と各村に拠点ができますね。」

「そう、教会なら村人に無用な刺激は与えないし、そこから自衛のための訓練を施すの。」


「ちょっとちょっと、二人で納得しないでよ、私にも教えなさいよ!」

「要するに、教会を村々に設置して、村人を訓練して自分たちで襲撃者を撃退させるんですよ。」


今までの話を説明してもらうと、軍や警察を駐留するには人手も足りないし村の人達も毛嫌いするような人たちが居て中々手が出せない、それでいて悪党が跋扈して村を荒らしたりするから手がつけられない。


そこで教会が名乗りを上げたそうだ、教会ならそういう非協力的な村にも受け入れてもらえるし、食料や衣類などの施しで民心も掴みやすいというわけだ。


教会は勇者に同行した女僧侶を信仰対象の一部にしているので、武力行使には寛容だし、教会の行事に普通に武闘訓練があったりする。

そんな戦闘知識豊富な司祭や神父たちを村の教会に派遣、村人に訓練を施し自衛させる。なるほど村人がそのまま防衛力になるという点では確かにこれほどまでに強力なものはないだろう。


「でも、ただでさえ反発的なのに村人を訓練しても大丈夫なの?反乱とか?」

「その辺は懸念材料でもあるけど、とにかく今は西の地の治安安定を優先させたいのが国も教会も一致の見解ね。」


どうやら反乱が起きたならそのまま軍を派兵して鎮圧、駐屯するような流れを考えているらしい。

確かに民間人と正規兵では練度も規模も違うだろうけど、果たしてそううまくいくのだろうか?


まぁまだ起きてない懸念に固執してしまってもしょうがない、だからこそ割り切って考えているのだろう。


「移民がこれだけ西の地へ流れているのも、教会も商人達とは別口で、開拓者を送り込んでいるのもあるんだろうけどね。教会の信徒たちを開拓者として入植させれば色々と手間は省けるからね。」


「なるほどねー、西の地の裏事情ってなんだか複雑怪奇ね。」

「新天地ともなれば、やはり権力の手や目から遠ざかりますからね、手つかずのパイの奪い合いになりますよ。」


「そもそもとして、何で山脈で阻まれてるからってこの地には人が居なかったの?」


山脈という大きな壁があるのは事実だが、山脈の向こう側には交易都市や首都などがあり、栄華を極めているというのに、こちら側には開拓者を募るまでは人が居ないというのは少し不自然に思う。


「それは勇者の伝説でも語られてることじゃない。」

「ごめん、勇者のお話は詳しく書いてる本は読んでないや、絵本とかは読んだけど・・・。」


「えぇ、有名なエピソードなのに知らないの?演劇にもなるほどなのに、まぁいいわ、教えてあげる。」




昔、この西の地は他の土地と変わらず、緑豊かで穏やかな土地だったそうだ。

この地の鍛冶は文化として昔から発展しており、武に名を馳せる著名人たちも愛用していたと伝えられていたらしい。


勇者一行はその当時、魔王軍の重鎮を二人を討ち倒していて、魔王は勇者に対し、この西の地を滅ぼすとして降伏を迫った。


勇者は無辜の民を犠牲にしていいのかと大いに悩んだ、そこに天の女神から西の地の民からの声をテレパシーで送られる、それはどれも自分たちの犠牲は構わず、魔王を討ち倒して欲しいという西の地に住む民衆の総意だった。


かくして勇者は魔王に徹底抗戦の意思を伝えると、勇者の目の前で西の地を破壊し、焼き尽くし、魔王の恐ろしき力を見せ、大地は赤く染まり木々草花は枯れて不毛の地に代わり、民衆はことごとく斃れ、大地が隆起して山脈となり土地を分け隔てた。


勇者はこの虐殺を目の前にして必ずや魔王を討ち倒さんと改めて胸に誓い、旅を続けるのであった。




「・・・と、いうのが演劇、西の地の惨劇ね、結構有名な演目よ?」

「ふーん、なんだか悲しいお話ね。」


「その後に勇者は伝説の武器を集めに行くんだけど、それは別のお話。そういう事もあって、人は恐れてこの地に寄り付かなかったし、生き残った人たちの子孫だけがこの地に住んでいたって事になってるわね。」


「そこをどこの誰かが資源豊富なのを見つけて、開拓ラッシュになったのが今、と?」

「そう、どこの誰かは知らないけど、恐れ知らずよね。案外あんたたちみたいな冒険者なのかも。」


今の話を聞いて、窓の外の景色を見ると、また違った印象を受ける。

もしこの赤く染まった大地が西の地に住んでいた人々の血であったなら、今の状況を彼らはどう思うのだろうか。


こうしてのんびりと会話をしていると御者席にいるミィーシャが窓をノックする。

どうやら何かあったようだ。


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