第一話:『旅立ち、その前に』1
アルマ・キースタンは私の一人娘である。
妻との間にできた待望の子供で大事に育ててきたのだが、それがいけなかったのかかなりやんちゃな性格に育ってしまったようだった。
色んな物に興味を持ち一度気になりだしたらわかるまで突き詰める、その方向が家業に向いてくれればよかったのだがいつも違う方向に向いて頭を抱えてしまう。
「アルマ、今なんて言った・・・?」
「だから、私は冒険者になりたいのよ父さん!」
どうやら聞き間違いではなかったようだ、眉間にシワを寄せて深い溜め息が出る、書類を机から一旦除けて娘を向き合う。
冒険者と言えば聞こえはいいが実際はその日の食い扶持にも困るゴロツキ集団というのが実情だ。
親としてはそういった道に踏み外すのはいい顔はできないし推奨もしたくはない。
「アルマ、落ち着いて聞きなさい?冒険者はゴロ____」
「どうせゴロツキ集団って思ってるんでしょ、私はそういうのにはならないから大丈夫!」
「どこからその自信は出てくるんだ、いいかい?冒険者は___」
「いいじゃないか、やらせてあげなよ。」
書斎のドアを開けて妻が入ってくる、妻にも娘にも話を遮られてしまった。
「おいまさかお前までアルマに味方するのか?家を出ていくのかもしれないのに・・・。」
妻は各地の闘技場に出向いては相手を倒し賞金を稼いでいた元剣闘士だ。
厳密には冒険者とは違うが各地を旅していたというところは似ているだろうか、娘が冒険者になりたいと思ったのはひょっとして妻の影響かもしれないな・・・。
「もうこの子も年頃の女の子だ、旅の1つや2つ良いんじゃないのかい?」
「母さん!母さんならわかってくれると思った!」
「おっとアルマ、喜んでる所悪いけど・・・冒険者になるっていうなら条件があるよ。」
妻がはしゃいでるアルマの口に人差し指を当てて口をふさぐ、そしてそのまま黙ったアルマはそのまま椅子に座らされる。
「冒険者になって冒険するっていうのならまずは仲間が必要だね、平和な世の中って言ってもまだまだ治安は悪いところは悪いんだ、だから共に旅する仲間を見つけること、これが条件だ。」
「じゃあ、旅する仲間を見つければ冒険者になっていいの?!」
「おっとそんじょそこらの奴じゃ駄目だぞ、腕の立つ信頼できる人じゃないとな?もちろん金で雇うなんてもってのほかだよ!」
そうかその手があったか!と内心とても感心した、無理難題を出せば条件達成できずにそのうち飽きて諦めるということか。
「な、なら私からも条件を出そう、旅に出るなら資金が必要だろうし私のお店で働いて給料を貯蓄することだ。」
いずれアルマには家業を継がせる予定だったし、元々手伝いはさせていたが目利きや交渉といったことはまだやらせていない。
将来は我が家を引っ張る立場なのだから社交界に出ても恥じることのない淑女にするのが私の理想だ。
「よーしわかったわ!父さんと母さんの条件をクリアして冒険者になってやるんだから!」
アルマは意気込んで部屋を飛び出ていった、嵐が過ぎ去った部屋の中で椅子に深く座り込んで大きなため息を一つ。
「しかしお前もうまくやるもんだなぁ、無理難題の条件を出して諦めさせようだなんて思っても見なかったよ。」
「え?私は真面目にあの子に条件出したつもりだよ?」
「えぇ、お前本気で言ってたのか・・・?」
「あぁ、あの子ならきっといい人を見つけ出してくる、そう信じてるからね。」
やっぱり、女というのはよくわからないなぁ・・・。