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第八話:『二人のおはなし』2

「さて、と・・・。」


昔の知り合いと再会したということでアルマを送り出したはいいものの、部屋に一人ぼっちは少し寂しくなる。


いっそ早めに寝てしまおうかと思ってしまうが、それはそれでアルマが戻ってきた時に寂しい思いをしてしまうのでは、と心配してしまい寝るに寝られなかった。


そんな感じでうんうん唸っているとドアがノックされる、アルマが忘れ物でもして戻ってきたのだろうか?


「どうしたんですか?何か忘れ物でも___」

「どうも、こんばんは。」


そこにいたのはアルマではなく、あの聖騎士さんのお付きの侍女さんだった。なんで訪ねてきたのかはわからないが、特に火急の用事というわけでもなさそうだ。


「あ、えーと・・・、どうかしましたか?」

「いえ、これといって用事はないのですが、少々あなたとお話をしてみたく訪ねました。」


「え?わ、私とですか?」

「はい、お嬢様から許可も頂いてますし、手ぶらというわけでもございません。」


彼女の手に持った酒瓶を見せる、どうやらワインやエールといった洋酒では無さそうだ。どういう理由があるのかは知らないが、普段見ない酒が気になり彼女を部屋に入れることにした。


「それで、何のお話が・・・ええと?」

「メイドのミィーシャです。そう警戒なさらないでください、お嬢様は懐かしい友人との再会でとても喜んでいらっしゃるので私は暇なのです。」


「はぁ・・・?」

「そういうことで、暇人同士お酒を交えて雑談でもと思いまして。」


そう言って彼女は持参してきた酒をグラスに注ぎ、毒は入ってないと言わんばかりに自らの分の酒を一気に呷り飲み干す。

それを見て私もグラスを手に取る、透明な水のような酒で、口をつけると覚えのある懐かしい味がする。


「これは・・・。」


懐かしい味を舌に感じ、酒を呷る。この味は間違いない、故郷の懐かしい酒の味だ。


「これは米酒じゃないですか。」

「えぇ、その通りです。懐かしい味じゃありませんか?」


こんな果てまで旅を続けてきて、まさか故郷のものをまた口にできるとは思わなかった。

あまりの驚きにあっという間に飲み干してグラスを空にしてしまう、酒には強いほうだと自負しているが、故郷の酒は度が強いので一気に飲むのは酔いが回るのが早くなるが、その事をすっかり忘れていた。


「これをどこで?」

「ふふ、数は少ないですが、この西の地で手に入る代物ですよ。」


「えぇっ、この辺で手に入るのですか!?」

「はい、東の地からの品物も海を超えて、この西の地にわずかながら入ってくるのです。」


「なるほど・・・、海の向こうからですか。」

「えぇ、西の地を超えた先の、遥か海の向こうは東の地ですね。」


思えば故郷を出て旅をしてきてずっと西に向かってきたが、振り返ってみると遠くまで来たものだと物思いに耽る。

そして遠くまで来たはずなのに不思議なことに逆に一番近くまで来てしまっている事に、世界とは面白い作りをしているなと少し笑いがこみ上げる。


酒を呷り、グラスを再び空にする。もし故郷にアルマを連れて行ったらどんな反応をするのだろうか、そんなことも酒が入っている事もあってか頭をよぎる。


「実は私も元は東の地の生まれなのです。だから同郷の夕霧様にこうして雑談が出来て嬉しく思います。」

「え?同じ生まれなのですか?・・・確かに顔つきは同郷のそれですが、名前は西の方の名前ではないですか?」


「このミィーシャという名前はお嬢様に頂いたものなのです、元の名前、本名は朝霧と言います。」

「朝霧ですか、私は夕霧なので面白い対比ですね・・・。」


お互いに朝と夕に立ち込める霧の事象が名前という、奇妙な名前の縁に少し運命を感じてしまう。

こういう名前の似た人なんて故郷ではありふれていたのに、何かを感じてしまうのは久しぶりに会ったからなのかそれとも・・・。


「それで、朝霧さんはどうして故郷を離れたのですか?」

「ミィーシャでいいですよ。私が故郷を離れたのは不可抗力なのです・・・。」


「・・・?」

「要するに、私は罪人として流刑にされたのです。」


故郷では重罪人は小舟に乗せられ沖合に追放される刑罰、いわゆる流刑に処されることもある。

小舟で海に放り出される実質遠回しな死刑なのだが、温情として数日分の食料と水は乗せられるため、運良く生き延び西の地まで流れ着いたらしい。


「そこでホリィさんに出会ったと?」

「そういう事になりますね、その時にこのミィーシャという名前も頂戴しました。」


そこだけ聞くとめでたしで終わる話だが、この話には続きがあるらしい。

彼女は神妙な面持ちで続きを語り始める、私はそれを酒を飲みながら聞くことにした、こうもおおらかな思考回路になるのは酒が回ってる証拠なのだろうか。


「・・・私はお嬢様に仕えながら、離れ離れになった家族を探しています。」

「家族、ですか・・・?」


重罪人として流刑されたのであれば、一族郎党も処刑されるか同じように追放されることもある。

故郷は最近まで戦乱につぐ戦乱で混迷を極めていた、なので敗戦国の重鎮などが極刑に処されることはよくあることだったので、私はそういうことだったのでは、と思っていたが違っていたようだ。


「家族といっても親と子ではなく、組織なのです。」

「組織・・・?私はてっきり先の戦乱で没落した国の重鎮なのではと思っていました。」


「そうですね、組織というのは金で動く傭兵で、戦後に私たちは捕縛され、バラバラになりました。」

「少し思い出してきました・・・、戦乱の時代に恐怖をもたらしたという傭兵忍衆、そしてその頭目朝霧・・・。」


戦乱の時、金さえ払えばどんな主義信条だろうと味方につくという傭兵忍衆という組織があった。

彼らが金で動いて和平相手も殺し、結果手打ちもできず国を滅ぼすまで戦いが続き、お互い余計な血がたくさん流れ犠牲も多くなった。


しかし時代の流れには逆らえず、戦乱が終わり平和な世の中になるとすべてが明らかにされ、彼らは犯罪人として捕まり沙汰が下されたというところまでは覚えている。


「流刑や追放は再び結束しないようにバラバラに行われます。故に家族は皆行方知れず、私は情報を集めて彼らを探しているのです。」

「・・・もし仮に忍衆を再集結できたとして、貴方は一体何をするつもりですか?」


戦乱を裏から操っていたと言われる忍衆が再び集結したとなれば、また再び混沌が襲ってくるかもしれない。

この人が望むのは追放した故郷への復讐か、それとも傭兵家業を復活して血を金に変えるのか、危険人物たちを再集結させるのは大変危険だ。


「・・・私が望むのは、今度こそ家族皆で真っ当な世界に生きて再出発を行えたら、というささやかなものですよ。」

「再出発・・・、ですか?」


再出発、それは意外な回答だった。復讐でも戦乱でもなく、もう一度やり直したいという願い、とても傭兵として命を金稼ぎの商品にしていた人の言葉には思えなかった。


「忍衆の世間での噂は知っています、私は本当は来たるべき平和のために傭兵としての忍衆は終わらせるつもりでした。」

「ならばなぜ戦乱を長引かせたのですか!金さえ払えば誰でも殺し戦乱を長引かせたのはあなた方でしょう、おかげで私は____」


「わかりませんか?我々忍衆は利用されたのですよ、戦争の責任の全部を押し付けられて。」

「・・・証拠はあるのですか。」


「いいえ、ただ信じて欲しいとしか言えません。」

「そう、ですか・・・少々荒っぽくなりすいません。」


酒が回っていたこともあり、少々乱暴になってしまった。本人は気にしてない様子だったが、失礼なことをしてしまったので謝罪する。

どうも酒が入ると感情的になってしまう、普段は自制しているが今日は故郷の酒に気が緩んで、多く飲んでしまっていた、すでに頭の回転もかなり鈍くなっている。


「なので私が夕霧様にお会いしたかったのは、旅先で家族、忍衆について何か聞いていないか聞きたかった、というのが本音です。」

「・・・残念ながら、ここに来るまでに忍衆の話については一切聞いてませんね・・・、力になれず申し訳ありません。」


彼女はそれを聞くと落胆し、顔をうつむけてしまう。そもそも忍衆が全員流刑になったとは限らないし、自分が知らないだけで処刑された可能性もある、気にしないでほしいと彼女は言うが、やはり寂しそうな顔をしていた。


「まだ死んだと決まったわけではありません、この酒と同じように、異国の地で偶然に巡り合わせることもあるかもしれませんし、だから諦めずこれからも探していけばいいじゃないですか。」

「・・・そうですね、ありがとうございます。私を救ってくれたお嬢様に報いるためにも、家族探しはまだまだ諦めません。」


ミィーシャは初めて笑顔を夕霧に向ける。その笑顔はとても優しい顔で、夕霧は彼女が本気でそう思っているのだなとわかり、ほっとする。


「夕霧様は夢や理想はありますか?」


「私の夢ですか、そうですね・・・。私の・・・夢は・・・。」


急激な眠気に襲われて視界が暗転し机に突伏する。どうやら酒が回りすぎたようだ。


私の抱いている夢や理想、それはたいそれたものでもなく、とてもささやかなものだった。

ぼんやりとそれを思い出しながらも、私は睡魔には抗えず深い眠りへと誘われていったのであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 過去が話題なのは同じなのに、前回の話が和やかな空気だったのに対し、今回は切ない雰囲気でした。 でも、この対比は結構おもしろいと思います。 故郷を遠く離れた地で、同じ霧の名を持つ同郷の者と…
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