第七話:『西陽』2
「わぁぁ、これが西の地なのね・・・!」
山脈を抜けて峠道から西の地の広大な大地が姿を表す、木々は少なく岩が隆起して山となし、赤い土が一面に広がる通称西陽の大地と呼ばれるほど真っ赤な土地、それが西の地を最初に見た光景だった。
なぜここまで大地が赤いのか・・・、それは諸説あるが西の土地が最も西にあるがために、夕陽の影響を強く受け大地が焼けるからという伝承もある。
だが本来は土に含まれる鉄分が多い土だからということらしい、実際この西の地には金属鉱脈が数多にあり豊富に産出されている。
そして荷馬車は終点の西の地の街にたどり着く。ここは荒野と森林の境目にある街で、緑がこれ以上の砂漠化を抑えているといった感じで天然の国境線ができていた。
無事に街についたので護衛の依頼は終わり、馬車に乗せてくれた商人さんと別れを告げる。長いようで短い旅路だったが、別れは少し寂しい気持ちになる。
「んーっ、とりあえず街についたし、宿とらなきゃね。」
「そうですね、後は周辺の地図も売ってればいいのですけど。」
宿を探しつつアルマと街を練り歩く、そういえばこうして二人きりで色々見て回るのは首都以来かもしれない、新天地でこうして二人でいられるのはちょっとだけ幸せかもしれない。
二人で買い物ついでに西の地について色々と聞いてまわる、やはりこの辺は鉱石がよく取れるからか金属製品もよく市場に並ぶ、とりわけ目を引いたのが銃も品物として並んでいる点だろう。
銃は本来高価な代物であるため入手しづらく、弾丸や火薬の費用もかかるために軍以外に普及していなかったのだが、この辺りだと普通に出回っているところが驚きである。
ただでさえ銃の導入が遅れている国もあるのに、西の地では銃の発祥の地だけあって、民間への普及も充実しているといったところだろうか。
もっと詳しく話を聞けば、新たな製法で火山から硫黄の他に、火薬の原料になるものが採れるらしい。私の知っている限りでは家畜小屋の壁から原料を採取していたので、西の地の新製法に少し興味が湧いてワクワクする。
「夕霧、そんなに銃が気になるなら買ってく?お値段もすごく手頃だし。」
「いえ、やめておきます、私は銃の扱いには慣れなくて。」
今までに様々な武器を扱ってきたが、銃器の扱いにはどうも慣れなかった。
弾丸も真っ直ぐ飛ぶわけでもないし、運要素が強いというのは武を修める身としては少々好ましくない。
もっとも学術的な意味では興味はある。このような一見短所だらけの武器が剣と魔法が支配する戦場を一変させた事実に変わりはないからだ。
「とりあえず、消耗品の補充をして、宿を探しましょう。」
「そうね、久々にベッドで寝れると思うと嬉しくなるわっ。」
その後、周辺の地図を買ったり各種必需品の補充などを行い、宿屋に向かって歩いていると何やら人が集まっている場面に出くわす。
ものすごい人数が集まっているようで何やらただ事ではなさそうだ。
「ん?なんだろうあの人だかり?」
アルマが興味津々に聴衆の中に飛び込んでいく。まるでこどもみたいな無邪気さは相変わらずだな、と思いながら私も後を追う。
人だかりに近づくと何やら音楽が聞こえてくる、大道芸人でも来ているのだろうか?
そうしている間にもアルマがどんどん人をかき分けて先に進んでいく、私は追いつくことが出来ず、ついにはアルマとはぐれてしまった。どうやったら人混みの中をあれだけ魚のようにすいすい進めるのか、一種の才能なのだろうか。
聴衆に挟まれ先に進むことも戻ることもできなくなったので、仕方なくここで音楽だけ聞いておくことにした、終わったら人だかりも散って動けるようになるだろう。
この音色はアコーディオンだろうか、静かな音色はどこか心が落ち着くような気分になれる、よくよく耳を澄ませてみると声も聞こえてくる、弾き語りなのだろうか?
しばらく聞いていると、音楽が鳴り止み静になる。これで終わったのかな?と思っていたがそうでもなく、今度は人が波となって前に行き始めた。
「うわわっ。」
真っ直ぐ進む人の波に抗えず、ずるずると運ばれていき前の方にどんどん進む、前に進むにつれ聞こえてくる声も鮮明になる。
おさないでくださいとか、人数分ありますって言っているようで、何かを配っているみたいだ。
段々と前に行くにつれて人々が整列し始めたのでなんとか人混みを脱出することができた、アルマがどこ行ったのかと辺りを見回し探してみると、アルマはなんと行列の先頭でパンとスープを配っていた。
「アルマ!給仕なんてして、何やってるんですか?」
「あぁ夕霧、ちょーっと、配り終えるまで待ってくれる?」
「あぁ・・・はい。」
彼女の何事もないかのような態度に拍子抜けして、おとなしく脇で終わるのを待つ。作業風景をぼんやり眺めていると、今はパンとスープの炊き出しを行っていて列に並んだ希望者に渡している、だから皆我先にと殺到していたのか。
それにしても配給待ちとはいえすごく列をなしている、それだけ食うに困っている人々がいるのか?
ここは国境に一番近い街で、規模もそこそこある。なのにこれだけの貧者がいるのは貧富の差が激しいのだろうか・・・。
「おまたせ夕霧、急にはぐれちゃってごめんね?」
「ん?あぁいえ全然気にしていませんよ、けど教会の奉仕活動に参加していたのは驚きました。」
アルマが戻ってきたので一旦考えるのを止める、あれこれ考えたところで今のところは情報不足だし何も見えてこないことを考えてもしょうがない。
「あぁ、それは見知った顔がいたからつい。」
「お知り合いですか?」
アルマが指したほうを見ると、いつか首都で見た、聖騎士と侍女がいて私に気づくとお辞儀をして挨拶をする。
なるほど確かに彼女にとってはこれ以上ない知り合いだ、私も一礼して挨拶をする。
「お久しぶりですね、大聖堂以来でしょうか。」
「どうも、またお会いできるとは思いませんでした。」
いつか大聖堂で出会った彼女、エルクラッド卿は教会の幹部クラスの地位にありながら、こうして各地を旅して教えの布教と貧民救済を率先して行っているそうだ。
先程の音楽も布教の工夫に流していたらしい、教会の教えが届いてない地域だとまず興味を持ってもらうために音楽を奏で講読を行い、最後に炊き出しを配るという流れで行っているそうだ。
「そんな餌で釣るような方法で信者増えるの?」
「まあっ、アルマは人聞きの悪い事言うのね、貧民救済は教会の役割よ?まぁ食事目的で話を聞きに来ているだけにしても、少しは影響があればいいのよ、教えなんてそんなものだからね。」
大聖堂で出会った時とは雰囲気も口調も違う、こっちが本来の彼女なのだろうか?
「ただそうねぇ、教会の教えが広まってないにしても、この辺の地域は貧富の差が激しいわね。」
鉱山で掘れる鉱石需要、職人が作る銃火器とか明るい面は多いこの土地だが、反面この土地特有の赤い土が作物が育たない土地にしていて、食料の大部分は輸入に頼るか赤い土の無い地域でほそぼそと作っているのが現状らしい。
「この地域の豊富な資源目当てに海越え山超え、色んな人々が流れ込んで急激な人口増加もあるし、山脈という要害があるおかげで犯罪者の逃亡先にもなるし、まさに混沌と称するしかない地域ね、ここは。」
人の統治の及ばない治外法権の新天地、それがこの西の地ということらしい、これからはもっと気を引き締めて用心しないといけなさそうだ。
「そういえばホリィ姉、私たちこの街に着いたばかりなんだけど、宿屋どこにあるか知らない?」
「・・・その呼び名で呼ばれるのは久しぶりね、けどその呼び名はあまり人前で呼ばないでよ?一応威厳があるんだから。」
「人前じゃなければいいのね、わかったわ!」
「まったくこの子は・・・、宿屋なら私たちもそこに滞在してるし、今から戻るところだから案内してあげる。」
こうして私たちは無事西の地にたどり着いたが、そこは治外法権の新天地だった、教会の聖騎士でありアルマの昔なじみホリィとも再会し、西の地への冒険がはじまろうとしていた。
2019/11/04 レビュー書いていただきました!小躍りしたいくらい感涙しています、ありがとうございました!
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