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90:アイラ王国へ

 たくさんの荷物と共に、俺達はニクスロット王国を後にした。俺の傷はまだ完治ではないが、かなり良くなった。到着する頃にはヴィアージュともやり合える程度にはなっているだろう。


 相変わらずニクスロットの船はびっくりするほど速かったが、大陸領からアイラに向かう帆船は随分のんびりだった。高速移動に慣れてしまったせいでゆっくりとした道行きに少し違和感を覚えるが、これはこれで悪くない。


 昼間はハイネやリリィ、カイルが海に入って遊んでいることも多いが、俺はさすがに混ざれない。動けるようになったとはいえ、身体にはしっかり傷が残っているのだ。こんな状態で海に入ったら傷が痛んで仕方ない。


 せいぜい船に繋いだ小舟に乗って足を水につけるくらいだ。ひんやりしていて気持ちがいい。小舟に積んである果物を食べたりしながらのんびりするのも悪くない。


 たまにカイルが魚を獲ってきて、それを捌いてやることもある。俺は普段特に料理はしないが、こういうこともあろうかと大陸領の宿の主人に教えてもらったのだ。


 大きな魚はさすがに船員の手を借りないと厳しいが、小さなものや貝などはそれなりに食べられるように加工できるようになった。


みんな保存食ばかりで飽き飽きしているようで、船員に魚を分けに行くと両手を挙げて喜ばれる。海と近い仕事でも、彼らは忙しくしているから釣りやらなんやらをする暇がないらしい。


殺し屋が貴族街で仕事をしていても彼らと同じ食事ができないのと同じ、いや俺達と一緒にされては可哀想だ。彼らが命を運ぶ仕事なら、俺たちは命を刈り取る仕事だ。


 アイラ王国への航海は、嵐などに遭うこともなく、少し穏やか過ぎるくらいに終わった。あれだけの戦いがあったのだ、天気とも戦わなければならないとなったら堪らない。どんな英雄であろうと休みは必要だ。ただの人間の俺にはもう少し必要だろう。


 王国に着くと、鉄道で王都に向かう。冬はニクスロット王国にいる間に越してしまっていて、極北の孤島と比べればかなり暖かかった。普段の服でもそれなりに暑く感じる。


 リリィは帰ったらすぐシーナに手紙を書くと張り切っていた。数カ月国を離れていたせいで連絡もできなかったし、すぐに送ってやるといいと思う。シーナもきっと喜んでくれるはずだ。


 王都に到着すると、全員部屋に荷物を置きそれぞれ自分のやるべきことを始める。リリィはキャスに見てもらいながら手紙を書き、ハイネは貰った置物をどこに置こうかと試行錯誤している。


 アーツはシャーロットのガラクタ類に何か貴重なものが混じっていないか一つ一つ調べている。カイルはお土産を持って生家に一度帰ったようだ。俺も鍛冶屋に行って刀を受け取らなければ。


 お土産に氷晶鋼でできたコマを持って、鍛冶屋に向かう。10日くらいかかると言っていたからもうとっくに出来上がっているだろう。


「親父、久し振りだな。刀は出来上がってるか?」


「よう兄ちゃん、随分遅いお帰りじゃねェか。前のより丈夫で良く切れる一振り、用意してあるぜ」


 店の奥にしまってあった刀を渡される。大きさ、重さ、全てこの前のままなのに、言う通り強度と切れ味は増しているように思える。


 この前みたいなことがないように、これからはちょくちょく修理してもらいに来よう。これまでも修理を欠かしていたわけではないが、出来るときにやっておかないと後が辛い。


「ああそれと、同じものをもう一振り頼む。常に予備は置いておきたいんだ」


 これから何が起こるかわからないが、より厳しい戦いになった時に刀がないから戦えないなど洒落にならない。今回もリーンに助けられただけだ。


「兄ちゃん、あんた本当に大丈夫か? 昔よりいい顔色だが、とんでもねェ事に首突っ込んでる気がしてならねェよ。命は大事にしろよな」


 親父はそう言って俺の肩をばしばし叩く。顔色が良くなった、か。以前より厳しい戦いの中に身を置いて顔色が良くなる、嬉しいような嬉しくないような。


 コマと代金を置いて鍛冶屋を出る。氷晶鋼なんてこの大陸にはないから、かなり喜んでもらえた。やっぱり腰に刀が提がっていると安心する。


「レイくん、一緒に謁見に行こうよ」


 帰るなり、俺はアーツに声をかけられる。ずいぶんな誘いだ。さすがに王城内へ入ったことはないから興味があるが、俺なんかが行って大丈夫なのだろうか。


 きっとニクスロット王国についての報告なのだろうが、俺が行って何が変わるとも思えない。むしろこんな身なりだし、行くだけ逆効果ではないだろうか。


「レイくんは前王暗殺の立役者なんだから、邪険に扱われはしないさ。それに、一度くらい会っておくべきだよ。だって……」


「国王とのコネか? んなもんは──」


「彼とは、いずれ戦うことになるからね」


 俺の言葉が途中で途切れる。国王と戦うと言ったか、アーツは。こいつは一体何を企んでいるのだ。アーツの口角が、妖しげに持ち上がる。

第二章『極北凍土戦線』完結です!

四カ月と少しの間、お付き合いいただきありがとうございました

次回、90:運命の日(n)から第三章『廻転遡上時空』に入ります

レイたちが新たに立ち向かう脅威とはいったい……!?

お楽しみに!

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