表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/758

81:極北凍土戦線2

 『神砕く蒼天の鉄槌』。仰々しい名前は付いているが、やり方は単純だ。グラシールによって王が守られていた場合の切り札。何の捻りもない方法だが、確かに効果はあるはずだ。


 作戦内容は本当に単純。神を墜とす巨砲を滑走路に装甲車を飛ばし、王城へと急降下させるというもの。装甲車にはありったけの爆薬を詰め込んでおき、城ごと壊滅させるのだ。


 たとえ王が寝室にこもりきりになって隠れていたとしても、城ごと破壊してしまえば寝室はただの箱だ。空中で振り回され、壁や天井、床に身体を打ち付けられて死ぬだろう。


 実行役ながら、いやだからこそ馬鹿げた作戦だと思う。ここまでまともな暗殺らしく計画を進めてきたのに、いきなり城を吹き飛ばすとかいう大立ち回りをすることになるとは。


「やっぱりね、王殺しは空から落ちてくるものなんだよ。レイくんの初仕事と一緒さ」


 アーツが俺のことをからかうように笑って言う。前王を殺すときに塔から飛び降りたのを言っているのだろうか。実際あの時はあれが最適だったのだ。


 人間、やはり頭の上というのは注意が向きにくいようで、あの親衛隊すら警戒が薄くなっていた。実際理にかなっているだろう。


 人は飛ぶことはできない。人に許された飛翔は落下のみだ。だからこそ上なのだ。人を超える、人の領域から出ようとする者を制すには、それに近づく必要がある。


 彼らは生から逸脱した存在だ。だから飛ぶことで近づくのだ、出来る限り死に近い、果てのない空域へと。


 各所で乗り継ぎつつ、魔導機関が爆発するギリギリの速さでニクスルに辿り着いた俺達は、休む暇なく砲台へと向かった。


 休息は十分に取った。ここからは休む暇なく勝利するまで戦うしかない。弾倉を交換し、装甲車に積んでおいた予備の弾倉をポケットにしまう。


 やはり近接戦闘に向いた武器がないのがかなり痛い。狙撃銃の先に刃を装着し、一応槍のような使い方ができるようにはしたがそれでもまだ厳しい。帰国したらすぐに鍛冶屋へ受け取りに行こう。


 砲台にはシャーロットが付いてきた兵士数人と一緒に俺達を待っていた。指示していおいた通りに装甲車は準備されており、すぐにでも打って出られるようになっていた。


「じゃあ二人とも頼んだよ」


 俺とシャーロットは装甲車の上に乗る。中には大量の爆薬が詰まっているため入ることはできない。上に乗って王城まで飛んで行くのだ。


 シャーロットに冷却してもらい、魔導機関を限界以上に励起させる。そしてエネルギー量が理論上の限界に達した瞬間、音すら追い越そうかという速度で砲身の上を駆けあがり始める。


 さすがは神をも殺そうかという巨砲だ。その大きさは目で見るよりその上を走った方が分かりやすい。歩けばどれくらいかかるだろうか。


 空へ射出され、刹那、雲を突き抜ける。いつの間に夜になっていたのか。空には星が瞬いていた。


『かなり高くまで飛び上がっているね。到着までは数分ある、束の間の休息を楽しむといい』


 超高速で飛ぶ鋼鉄の塊に掴まっているのだからそう落ち着くことはできないが、慣れてしまえば辺りを見回す余裕くらいはできてくる。


 普段より近い星は、別に大きく見えるなんてことはないけれど不思議といつもと違うように感じた。普段から星を見上げていればきっときちんと言葉にできるのだろうが、俺はそんな風流な趣味は持ち合わせていない。きっといつか、ここまで辿り着いた者が詠じてくれるだろう。


 グラシールと戦うことを考慮し少し厚着で来たが、ここまで昇るとかなり寒い。息も白くなり、手袋をしてなければ指先が凍えるところだった。


 アーツの話の通り、本当に氷晶鋼というのは凍り付かない。フードのファーの部分など既に凍ってしまっているのに、撃鉄も引き金も問題なく動く。実は魔法金属の一種だったりするのだろうか。


 だんだんと、『春』の領域が近づいてくる。この部分にだけは全く雲がかからず、綺麗な円形になっているためすぐに分かる。


「まだ上まで昇れそうだが、ここで打ち止めだ」


 王城の真上に達した瞬間、装甲車上部に設置した爆弾を起爆し装甲車を落下させる。


 この高さから落ちればかなりの威力になる。アーツが言うには『春』全域を吹き飛ばしてもおかしくないらしい。まるで宙の星が降ってくるようだ。


「『蒼天』じゃなくなっちゃいましたけどねーッ!!!!!!!」


 シャーロットの一言はほぼ悲鳴になってしまっていたが、ギリギリ聞き取ることが出来た。夜になってしまったが、この星空もなかなか悪くない。


「『神砕く星辰の鉄槌』ってとこか」


 冗談はさておき、そろそろ脱出のタイミングを慎重に窺わなければならない。シャーロットを抱え、雲を抜けたあたりで飛び降りる。


「いっきますよー!」


 炸裂したシャーロットの魔法が地面まで届き、そこから巨大な氷柱が生成される。氷柱から、ちょうど枝分かれのように細い氷のレールが飛び出し、俺はそこに着地する。


 レールは俺の足先30㎝程先で生成されていく。雲に届きそうなほどの氷柱を作ったあとで、魔力もかなり枯渇している。このスピードでの生成が限界らしい。


 正直シャーロットを抱えてレールの上を滑るのはかなり骨が折れるが、ここから落ちれば骨が折れるでは済まない。バランスを崩さないように必死で滑り続ける。


そうこうしているうちに装甲車が王城に直撃しようかというところまで落ちているのに気が付く。これで王と、そしてできればグラシールを倒せれば。


 しかし、事はそう上手くは運ばなかった。というよりむしろ予想より悪い。王城を貫くように飛び出してきた氷は装甲車を完全に飲み込み、沈黙させてしまったのだ。


 見えもしないのに、俺はグラシールがほくそ笑んだのが分かった。いかなる作戦を用いようとも、それを正面からねじ伏せるのが真の力なのだと。


「第二作戦大失敗です、ボクたちだけじゃ死んじゃいますー!」


 通話宝石を起動したシャーロットの悲痛な叫びが、静かな空に響き渡った。


またしても作戦が失敗してしまったレイたち、果たしてグラシールを倒す方法はあるのか!?

次回、81:極北凍土戦線3 お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ