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77:戴冠術式

 王がファルス皇国と似たやり方、つまり儀式魔術で思考を制限されている。アーツが言うには国王との交渉が上手くいかないのはそれが原因なのだという。


 しかし、歴史のある国というのはみんなこんななのだろうか。確かに伝統的なものや儀礼的なものが受け継がれてきたのは分かるが、それにしてもいろいろと利用されているようだ。


「まあ実際アイラでも憲兵団の入団式で永続的な身体強化と魔力許容量増加の魔術を付呪したりしてるしね。儀式魔術自体は便利なものだけど、こう使われると困っちゃうよね」


 まさかアイラでも使われていたとは。確かにアイラ王国もかなり歴史のある国だし、憲兵団は建国当時からあったらしい。こういうのは意外に知らないところに潜んでいるのかもしれないと思って、少し恐ろしくなった。


「王女さま、何か王家で代々行われている儀式とかないかな?」


「ふむ、生まれて100年を祝う式典と、戴冠式くらいですね。あ、あと結婚式もそれに含まれますかね」


 誕生100年を祝う式典、大陸では考えられないものだ。見た目が俺達とあまり変わらないせいでつい忘れてしまうが、彼女たちはみんな俺達よりかなり年上だ。シャーロットの歳は聞いていないが、クレメンタインに関しては完全に俺の数倍生きている。


 さて、もしアーツの仮定が正しいとして、王の思考を制限するのにもっとも有効なのは……。


「戴冠式だね、そうだろうアーツ?」


「きっとね」


 この国の王族三人の性格がはっきりしていたおかげで頭の中を整理しやすかった。閉鎖的な長男、敵対的な次男、友好的な妹。この差から言って弟妹は術式の影響を受けていない。


 だとすればクレメンタインから聞いた儀式の中で王しかしないのは戴冠式だけだ。もちろんクレメンタインがこうなるように制御されている可能性もあるが、それは今損になっていないから可能性程度に留めておくのがいい。


 それに、どこで王が術式に嵌ったかというのはそう重要という訳でもない。今一番知る必要があるのは、王が本当に何かしらの術にかかっているのかということだ。


「よくそこまで気が付いた。人間というのは心底恐ろしい」


 急に響いた声に驚いてそちらを向けば、グラシールが壁にもたれかかっていた。やはり王は……。


「代々、王は戴冠の際にこの国の神秘性を守るよう思考を制限される。条約が上手く決定しないのもそのためだ」


 案外すんなりと答えが出てほっとする。こうしていろいろ情報をくれるあたり、グラシールもクレメンタインと同じで意外と協力的なのかもしれない。


「さすがは守り手たるグラシール様。解呪の方法などご存知でないですか?」


 クレメンタインが少し進み出てグラシールに問う。この国の切り札的存在なのであろうグラシールは、さすがに王族とその周辺とは顔見知りのようだ。


 いつからこのようなものが存在していたのか。グラシールは2000年以上生きているらしいが、ここまでくるとさすがに知識量も桁が違う。


 儀式魔術、儀式魔法というのは厄介なもので、そのほとんどが付呪の一方通行だけだ。俺が触れれば解呪されるとか、そういう簡単なものではない。


「儀式自体は王冠をどんな方法であれ被ればいいという簡単なものだが、王冠が魔法の強度を数倍に増させている。諦めるしかないだろうよ」


 儀式自体は大したものでなくとも、礼装の方がその存在を補強しているということか。新人魔術師が低威力の魔術を杖などで強化するのに近い。


「ご協力ありがとう、グラシール。それを考慮したうえで条約の内容を決めることにしよう」

次回、77:魔力喰らいの剣 お楽しみに!

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