76:条約
俺達はヴィアージュと別れ、グラシールと合流してニクスルへと帰還した。その後一日の休憩をはさみ、王都へ戻った。
カイルやキャスは随分楽しそうにしていたが、俺はヴィアージュの言った新しい世界のことが気になって、なんだか街に出て遊ぶ気もしなかった。
未来視にも見ることのできない未来。それは世界の法則が変わってしまうからと言っていたが、俺はどうすればいいのだろうか。
だが、そんな先のことを考えても気が遠くなるだけだ。とりあえず、王に報告して条約を締結するのが何よりも大切だ。
まあ俺達が戦っていたのはシャーロットやグラシールが証明してくれるし、悪い印象は与えないだろう。実際命を懸けて戦った。
俺達が王の許に行っても意味がないため、キャスとアーツ、それからクレメンタイン陣営で王に報告に行くことになった。
俺とカイル、ハイネとリリィはどうにもこの手の話になると置いていかれがちだ。聞いてもよくわからないからどうすることもできないが。
さすがに二国間の条約を決めるというだけあって、かなり時間がかかっているようだ。来た時にだいたいの内容は同意が得られたようだが、細かいところを逐一決めるには時間がかかるだろう。
しかし任務外の特務の緊張感のなさというのは、もうそれは戦いの最中との変貌の仕方にびっくりするほどだ。アーツはふだんから全然変わらないが、アレは例外だろう。変人の揃った特務でも、さらに特異な変人だ。
貧民街だとみんながみんな殺気立っていて、発せられる殺意で息が詰まりそうだった。
温かな広い部屋で、リリィとハイネが遊んでいる様子はなんとも微笑ましい。顔立ちや髪色は全然似ていないが、仲良く遊んでいる様子はまるで姉妹だ。
二人は大人しい性格が似通っているから、もともと気は合うようだ。ハイネが懸念していたよりも、リリィはハイネに気を許している。キャスとハイネが特に仲良くなったわけでもなく、俺とハイネが少し話すようになっただけだが、実は周りの人間はあまり関係なかったのかもしれない。
そういう様子を見ると、幼いようでリリィも意外に中身はしっかりしているものだと気付かされる。俺がリリィくらいの大きさの頃は、生きることしか考えていなかったような気がする。
カイルは昔から親しんできたからかカードの扱いや駆け引きが上手く、勝てないことも結構ある。なんだか悔しくてついつい挑んでしまう。今のところ戦績は28:34。巻き返せなくもない数字だから余計に燃える。
そうして何時間経っただろうか。リリィとハイネが疲れて眠ってしまったしばらく後にアーツとキャスが帰ってきた。
「うーん、王様の石頭にも困ったもんだなぁ」
アーツの様子はいつもと大して変わらないが、キャスは目に見えて疲弊している。交渉にかなり手間取っているのだろうか。
「技術供与についての決まりを決めているんだけどね、王様すべての技術を外に出したがらないんだ」
確かに、こちらの技術は目を見張るものがあるが、その分不足している部分も多い。お互いにそれを補えるなら得だと思うのだが。
「本当に申し訳ありません。普段はもう少し融通の利く兄なんですが」
遅れてクレメンタインが部屋に入ってくる。シャーロットがすごく眠そうな顔をしている。なんだか亡者のようだ。目が虚ろ過ぎてかなり怖い。
交渉は本当に難航しているようだ。いつもと変わらない顔で立っている奴もいるが、交渉に当たっていた全員の顔から疲れが滲み出ている。
「これに関しては俺にちょっと考えがあるんだ。王はおそらくファルス皇国に似たやり方で、思考を制限されている」
最近一話が短くなってしまって申し訳ないです!
次回、EX:数多の旅路、お楽しみに!
(ごく短い話になります、おそらく二話同時更新です)




