739:大特訓
オルフォーズとティモニ、二人の支えによって研究室の面々は自信と勢いを取り戻したかに見えた。が、それも長続きはしなかった。ロプトが魔力の抜けた魔導具のように力なく机に突っ伏している。
「アンタ、なんでココ入学できたの……?」
ティモニも相当に呆れている。彼ら曰く、魔術師ならば誰でも知っているであろう基礎すらわかっていないらしい。ロプトに関する情報は研究室に入ってもらう時に受け取ったが、入試の成績はどんなものだったか。
印象にあまり残っていないということは、良くも悪くもあまり突出した成績ではないはずだ。つまり実技も筆記もそれなりの成績をとっていたということだろう。それが急に筆記だけできなくなるとは思えないが……。
「いやぁ。僕、運だけはいいからね」
口を開ける皆を尻目に、黙って研究室を出る。そのまま生徒たちの様々な情報が収められている部屋まで行くと、ロプトの入試についての情報を探す。
大量の紙の束があるが、入試は最近のこと。部屋のわかりやすい場所に置いてあってすぐに見つけることができた。再度、注意深く成績を見直す必要がある。
あった。やはり以前抱いた印象の通り、ロプトは実技、筆記ともに問題のない成績だ。強いて言えば実技は結構上位なのに対し、筆記は許容範囲内ではあるがそれなりに低い。今回大事なのはこの筆記試験の方だ。
「マジか……」
そんな呟きを絞り出すしかなかった。筆記試験の記録、こんなことがあり得ていいのか。記述式の問題はほぼ全て間違っているが、選択肢の存在する問題は全て正解している。だからこそこの成績。こうやってその天才性を隠していたわけか。
運がいいと言っても限度があるだろう。魔術の実力はかなり高かったとはいえ、入学できたのはこの運のおかげだ。選択式の問題も記述式のものと同じくらいの正答率だったら確実に落ちていた。ロプトらしいといえばらしいが、それにしてもなかなか狂っている。
研究室に戻ると、見たことのない顔をしながらロプトが再び机に向かっていた。まさかこんなに狼狽した姿をこんなところで見ることになるとは。ルーチェルに色々と口を出しつつ、ティモニが笑い転げている。
「え、これって理屈あったの……?」
「逆にこの術式と魔力の処理を感覚でやっていることが信じられないな。確かに天才というのも頷ける」
オルフォーズが認めるのだから相当なのだろう。とはいえ勉強に関しては入試でロプトよりも点数が低かったデトルの方が順調そうだ。ここから運だけで乗り切れるとも限らないし、しっかり勉強はしてもらおう。
「せんせぇ〜もう試験の問題盗んできてよ〜」
ここまで嫌がられると少しかわいそうになってしまう。それでも不正には加担するつもりはないが。ここまで違うと面白いな、ルーチェルとは完全に逆だ。
自分ができないことについての理論を学んでいるルーチェルと、自分が感覚でできてしまうことの理論について学ぶことに苦労しているロプト。面白がる分にはいいが、それはそれとしてこのままではまずい。何かいい方法はないだろうか。
「これは、徹底的に鍛える必要があるな……」
オルフォーズが少し俯く。何を考えているのだろう。しばらくして顔を上げたオルフォーズは、力強く俺の目の前まで歩いてくる。
「先生、合宿をしましょう」
次回、740:勉強合宿 お楽しみに!




