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733:大樹と新芽

 潔いな。この局面で、まさか正面戦闘とは。もちろん有利に立ち回る策はあるのだろうが、それだけではどうにもならないという力の差を理解できているところも良い。この怪物相手にどう動く。


「え……?」


 困惑ののち、思わず笑ってしまった。そんなことがあるか。まさか無策での突撃が最後の戦いだなんて。ルーチェルとデトルを先頭に、後続の三人もそれぞれ魔術を構えている。研修旅行も今日で最後、こういうのもいいだろう。


 ただの突撃とはいえ、その戦いもかなり完成してきた。デトルとルーチェルの別方向からの攻撃と、それを防いだ隙を突いた魔術の差し込み。ロプトは同時に足下に魔術を撒いて【滅】の自由な行動を押さえ込んでいるし、ティモニは定期的に高速で立ち位置を変えることで意識を逸らしている。


 そんな激しい動きの中、逆に印象的なのが不動のオルフォーズだ。複雑な魔術の管理に注力しているのか、移動の素振りすら見せない。どう見ても明確な隙だが、【滅】がそこを突こうとすると的確に他のメンバーがカバーして行動させていない。今まで集団戦など教えていないはずなのに。


 想像以上の成長だ。リーンとシャーロットとか、その辺りと比べると劣るが、そこと比べても仕方がない。むしろ何も教えずここまで来られたのならば優秀な方だろう。小さな穴や戦術の幅なんかをこれから俺が補強してやればいい。


 とはいえ、現状でも決め手に欠けているのは事実だ。戦況は決して劣勢というわけではないが、この【滅】相手に一気に決めきれないのはよろしくない。彼を消耗させることは実質不可能。そのうえで、無理矢理にでも火力で押し切らなければならない。さもないと……。


「え、うわぁッ!?」


 特大の爆発を伴った打撃を受け流され、そのうえがっちりと拳を掴まれるデトル。こうなると彼の派手なフットワークも意味をなさない。そのまま演習場の壁の方まで放り投げられる。


 こうして連携の一角が欠けてしまえば攻勢の流れも崩れる。もう踏ん張るのは難しいだろう。


 ルーチェルは刀を弾き飛ばされ、ティモニは移動先で捕らえられ、ロプトの魔術を踏み抜いても表情ひとつ変えずに【滅】は進み続ける。ついにオルフォーズも動くがもう遅い。ロプトと同時に打撃をモロにもらい、演習場の床にその背中が完全につく。


 まあ、ここまで粘れれば頑張った方だろう。なにせ俺でも【滅】に勝てる気は全くしない。俺と彼の相性が特段悪いというのもあるが、それを抜きにしたって全く勝ち目が見えないのだから。


 こうして、どんなに策を弄しても、全力で挑んでも、どうにもならない相手がいるということが理解できたのはいい経験になっただろう。実戦の恐怖と併せて学んでくれれば、これ以降無茶な戦いをしたり、勝ち目のない戦いに身を投じることもなくなるだろう。


「君たちはまだ新芽のようなもの。その技術を、意気を育て、立派な大樹となる日を待っているぞ」


 さすがは地を司る力を引き継いだ男だ。なかなかいいことを言う。彼らが卒業して何年かしたらあるいは、五人で揃えば【滅】をなんとかできるくらいの力は手に入っているかもしれない。皆そのわかりやすさは別として、才能のある魔術師だ。きっと未来を支えてくれると俺は信じている。


 俺と違い、きちんと表舞台で頑張ってほしい。ふとそんな思いが湧いて出て、立ち上がっていた。この糧を、きちんと自分のものにしてやれるように、俺ができること。


「頑張ったな、上出来だ」

次回、734:帰る前に、話したいこと お楽しみに!

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