731:反撃の一矢
「お、これはいったやろ!」
俺も【真】に同意だ。あの距離、そしてあの威力。踏んでから気付いた時点でもう避けることはできない。どうあっても巻き込まれることは確実だ。
それにしても、少し威力が高すぎはしないだろうか。演習場の中では保護魔術によって実質的な威力は軽減されるとはいえ、多少の負傷はありうる威力だ。
爆発の、その中心跡。【破】は下半身を黒い布で覆われることで難を逃れていた。なるほど、ここまで読んでいたということか。つまりは、【破】の支援をこっそり【縛】がしていたということにも皆気付いていたということだろう。
「どうにも空中での機動力が高すぎたからね。変だと思ったんだ」
心底嬉しそうな声。ロプトだ。そういえば、爆発の余波に紛れて身を隠したのか、どこかに消えている。目を演習場の各所に巡らせて、やっと見つけた。意外と単純な場所、【縛】の背後だ。
ぱた、と音が鳴る。ロプトが【縛】の背中を軽く叩いた音だ。それと同時に、【縛】の身体に魔力が走り、その動きが停止する。なるほど、考えたな。自分の掌に感圧式の魔術を仕込んでおいて、爆発と同時に魔力を消したのだ。
ティモニがする予定だったことと同じ、魔力を急速に薄めて気配を消す作戦。魔力と気配は違うものだが位置の判断に使う基準としては同質のものだ。派手に動いているところから一気にその量を、動きを落とされてしまえば、その判別は一気に難しくなる。
「どこまで続くんや……?」
そう、思っていた。【破】に爆発を浴びせて、それで決着だと、成長を示したと、それで終わりだと思っていた。だが俺は、俺たちは、彼らの実力と執念を見誤っていたのかもしれない。この一瞬の混乱で、一撃を見舞われたという衝撃を利用して、彼らは特殊部隊の全員に一矢報いろうとしているのかもしれない。
そして、その野望はすでに手の届くところにあると彼らが証明してしまった。なにせ五人のうち二人に、もう一撃入れているのだから。そしてなにより小狡いのが、攻撃と同時に行動を阻害しているという部分。
【破】に施された足の保護は、布で強く巻きつけて保護するというもの。解かなければ簡単には動けない。そしてその布を動かすことができる【縛】をロプトが痺れさせた。この二人の行動は簡単に奪われてしまった。
「かかか! 狡い! だがいいぞッ!!」
足を拘束されて動けないというのに、【破】は満足そうだった。彼女もまた、こいつらの成長を待ち望んでいたのだ。
だが、大事なのはここから。比較的連携の濃いこの二人を潰せたことはいいが、あとの三人はもう連鎖的に潰すことはできない。どんどん警戒心も、その準備も整ってくる。畳み掛けるなら今しかない。どう動いてくるのか。
「聖なる素よ!」
オルフォーズが【魔弾】を放つ。右手の五指から一発ずつ、それを三回。計十五発の【魔弾】が【静】に向かって飛んでいく。だが、ああ見えてかなりしなやかな動きをする【静】のことだ、あの程度では倒しきれない。
「え……?」
そもそもオルフォーズの魔術は【静】に向かって飛んではいない。着弾したのは彼女の周囲の地面。まさか……。
この数日間。ロプトが使ってきたのは感圧式の魔術。だからこそ【縛】をどうにかして動かしてやろうと考えていたはずなのに。ここまで考えていたのか、それとも今日戦うにあたって思いついたのか。
感圧式だけでなく、魔力感知式のものも用意していたのだ。これならば遠隔で魔術を起動することもできる。感圧式の魔術への警戒が高まっているこのときならば、防御に一瞬の遅れが生じる。
想像以上だ。これならば、本当に……。
次回、732:最後の壁 お楽しみに!




