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729:確かな一歩

「明らかに良くなってると思うで。今回の一件で緊張感が変わったわ」


 緊張感。なるほど、上手い表現だ。皆の雰囲気の違いはそこか。皆どちらかに訪れるかもしれない死の恐怖を知ったことで、明らかに顔つきが変わっている。


 実際に戦場にいなかったデトルもそうだ。向こうにあまり殺意がなかったとはいえ、彼も一足早く実戦を経験しているし、今回のこともあって少しその実感というか、思うところがあったのだろう。


 身体が強張るほどでは良くないが、この程度の緊張感は大事だ。適度に集中できて、きっちいつもよりも攻撃を捌いたりだとかがしやすいだろう。実感できるかどうかはわからないが。これが自分でわかるようになったときには、もう一回り強くなれるかもしれないな。


 朝方何か相談していたし、多分今日も連携を仕掛けてくる。それが通るかどうか、じっくり眺めることとしよう。


 基本戦術は変わらず、ロプトの魔術の展開と位置取りの操作で戦闘を限りなく有利に動くようにする、それだけだ。あとはそれを押し通すだけの強さを見せつけるだけ。


「ルーチェルちゃん、いい動きやなぁ。俺の忠告無視したくなるんもわかるわ」


 【真】には悪いが、原因はそれだけではない気が……。それはそうと、彼の折角の忠告と保護を無視したという話は俺も聞いている。状況的に【真】を信用できなかったこと、動かないと気が済まなかったことは仕方がないことではあるが、あれでかなり状況は乱れた。何かの機会にきちんと教えておかなければ。


 とはいえ、犯人と戦っているときのルーチェルは相当冴えていたな。相手は自分たちが特に耐性のない精神系の魔術の使い手だというのに、ティモニともども操られることなく戦い続けていた。俺たちの到着から考えてあまり長い時間戦っていたわけではないだろうか、それでも簡単なことではない。


「そういえば、俺と戦った時にはすでに消耗してたよな。俺と合流するまでに何があったんだ?」


「あぁ、あれ。あれはちょっとな。結構キツめの嘘ついてたから、体力ゴリッゴリに削られてたんや」


 なるほど、嘘の度合いで体力を消耗するわけか。身体補強(フィジカル・シフト)と少し似た仕組みなのだな。魔術ですらない、俺たちの中に願わずとも宿った力というのは皆そういうものなのだろうか。実際身体を使えば疲れるし、それと同じなのかもしれない。


 それにしては、魔力喰いをしても全く疲労感はない。体質は体質でも、仕組みや起源が違うとかそういうことなのだろう。俺たちも時間の魔術と同じ、レアケースすぎてほとんどわかっていない。


「で、その嘘って?」


「敵はみんな君らより弱いって、あの子らに言ったんや。悪い方向に転がってもうたけどな」


 納得はできる。が、ちょっと無法ではないだろうか。もちろん限度はあるのだろうが、多くの敵の力を一挙に削れるということだろう。軍の中の一人の魔術師だけで成し遂げていいことではない。


 彼が「戦闘向きではない」ことの意味も、工作員として特殊部隊に所属している意味も、ようやく理解できた。やっていないからわからないが、彼がその気になれば、傷を与えたりすることもなく、俺のことを異様に弱くすることだってできるのかもしれない。


 魔術的な支援が受けられないことと引き換えのような形で魔術的攻撃や妨害を受けない体質だからこそ俺は戦えているのに、もしかしたらこいつは隠れた天敵かもしれない。


 その時になったらどうせ問答無用で妨害されそうだかから黙っておくとかそういう変な小細工は気にしないとして、もし急に身体が重くなったりしたらこいつを疑うとしよう。


「ん、俺の顔になんかついとる?」


 うっかりじっと見すぎてしまったようだ。いけないいけない。慌てて演習の様子に意識を戻すと、適当にティモニの方を指さす。


「お、見ろよ。何か起こりそうな感じだ」

次回、730:空歩 お楽しみに!

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