726:集大成
信じてはいたが、少しだけ不安だった。もしティモニが、俺のことをすべて話しているとしたら。確かに言わないという約束ではあったが、それを本当に守るかどうかは俺の知り得るところではない。
前にもアーツが言っていた。する、しないの契約は、結局のところ破った方の一人勝ちだと。だから本当は逃れる余裕もないくらいの条件を押し付けるべきなのだ。だが、俺にはそれができなかった。
ティモニが話さないと断言できるだけの確信を持つことはできていない。それでも、一応俺も先生だ、彼女のことは信じている。信じていたい。
おそるおそる演習場に足を踏み入れたが、ティモニ以外の皆からの視線は変わらなかった。ティモニにしてもあまり変わった目で見てきているわけではないし、意外に驚いてはいないのかもしれない。
思えば、オルフォーズのモーデスト家もジェイムと親交があった、つまりは彼を殺し屋として雇っていたようだし、ティモニもそういうことには慣れているのかもしれない。
力のある貴族になればなるほど、その力を妬み、狙う敵も増えていく。そんな中で誰かを消さなければいけない場面も出てきたはずだ。彼女が具体的にいつまで家での教育に従っていたのかはわからないが、そういうことを聞く場面もあっただろう。
俺たちと同じように、彼ら貴族は依頼をする側という立場で、そして狙われるという立場で死と肉薄したところにいるのだ。俺と少し立っている場所が違うだけで、距離はあまり変わらない。
「今日は最終日だ。今までの成長を全部見せてみろ」
生徒たちの前に立って、声をかける。兵士の攻撃をモロに受けたルーチェルだけが念の為治療を受けたようで、襟のあたりから少し包帯がのぞいている。動きに支障が出ないといいのだが。他の皆は全く無傷なようだ。
図らずも実戦を経験した彼らにとって、翌日に再び戦うことができるというのは貴重な経験だ。一旦は演習だったという安心感があるとはいえ、それを知らされるまでは自分の命、そして相手の命のどちらかが潰えるかもしれないという恐怖とともにあったあの瞬間は、確実に彼らの糧になっている。
いつものように演習場の中に散らばって、おのおの魔術や武器を構える。この光景も随分と見慣れてしまって、どうにも俺が教師だということを忘れてしまいそうになる。さて、今日の戦いはどうなるだろうか。
5日目には彼らが連携の兆しを見せていたが、それに関してはあまり試せていない。6日目で個々の意識に多少の変化があっただろうが、一方で連携に関してはほとんど練習ができていないし、いきなり実践レベルまで持っていくのは難しいか。
とにもかくにも、彼らがこの旅行の間に身につけたものの全てが、ここに現れる。最初の一歩、一挙動からも彼らが今までとは違うと伝わってくる。もはやどの要素が彼を成長させたのかはわからないが、逞しくてなによりだ。
「や、お疲れさんです」
「もういいのか?」
初日と同じように、【真】が隣に座ってくる。昨日のような俺に比肩するほどの力は、今日は感じなかった。もしかしたら体質を使って元に戻したのかもしれない。あのままでも良かっただろうに、戻すということは何か不具合があるのだろう。
ここに来るからには、何か話があるのだろう。今日はいったい何だろう。
「今回の事件で、ちょっと考えたんや。聞いてくれんか?」
次回、727:カッコカリ お楽しみに!




