721:言い訳
「少し、汚いお話をさせてください」
俺と【真】がティモニとルーチェルを連れて演習場に戻ると、すぐに【影】に呼び出され、話の聞こえないところまで移動させられた。
【影】の話の内容はなんとなく想像がつく。この事件を限りなく穏便なものとして済ませるための言い訳、その口裏合わせとか、そういうことだろう。大きな交流事業においてその学生を狙った事件が起こったなど、そのまま世間に伝わればどうなるかわからない。
それこそ戦争が起こったっておかしくはない。それに、彼らにも余計な注目が集まることだってあるだろう。危険に晒された彼らに対して不誠実だとは思うが、ここは嘘をついてでもどうにか誤魔化すしかないだろう。
「この事件を、無かったことにさせてもらえないでしょうか」
「上手いこといくならな。とりあえず話を聞かせてくれ」
どこからも漏れない、完璧な言い訳があるのなら俺だってむしろそれに乗りたい。この一件は絶対にバレてはいけない。そんなにいい案があるのだろうか。
「この一件、全て演習ということにしてしまいましょう。幸い生徒の皆さんには心身ともに大きな損耗はありません。国ぐるみの演習という形で処理しませんか」
なるほど。俺も打ち合わせのうえで彼らを巻き込んだ実戦形式の演習ということにして、多少の違和感を押し流してしまえということか。話を聞いたところルーチェルは肩にいい一撃と入れられたということだが、そういうこともなんとかなる。
なにしろ実戦形式という名目がある。後出しのようで悪いが、一応一定程度の怪我は許容するという同意書を旅行前に書いてもらっている。肩に【魔弾】を一発受けた程度なら疑う余地もなくその範疇だ。
自分以外の意思で動いていた兵士たちに関しては、そういう演技をしてもらっていたと言って押し通すしかないだろう。軍事機密の特殊な魔術を使ったとか、そういうことにしておけばわざわざ細かく詮索はしてこないだろう。
他にいい案があるだろうか。俺に思いつくはずもない。今の話を聞いても特に違和感や抜け穴はないように思う。この話に乗るしか方法はないか。
「わかった、それでいこう。俺は基本話を合わせるから、うまいようにやってくれ」
咄嗟に考えたにしてはよく出来すぎている。俺は全く考えていなかったが、おそらくはこの事件が起こった時からどう処理するべきか考えていたのだろう。さすがは国の中枢にいながら同時に表舞台にも立ち続けるだけはある。
そうと決まれば説明は早い方がいい。【影】と二人で今回のことが全て俺たちの仕込みであったこと、実戦に限りなく近い形で練習するための嘘だったことを説明した。それこそが真っ赤な嘘だが。
「というわけだ。いつもよりも力が出せたんじゃないか?」
生徒たちの様子はほとんど見ていないが、実際ルーチェルたちもかなり張り合っていたようだし、こういう状況でもよく動けているのだろう。結果論ではあるが、実際いい経験になったのではないだろうか。
「訓練のためとはいえ、怖い思いをさせてしまいましたね。すみません」
【影】が深く頭を下げる。この状況なら、普通はここまで深刻に謝りはしないだろう。ここまで頭を下げるのは、ひとえに申し訳ないという気持ちが強いからだろう。真実は伝えられなくとも、可能な範囲で誠実である、か。つくづく、真面目な男だ。
完全に納得のいく説明では無かっただろうが、大筋は理解してくれたようで、どうにか誤魔化すことができた。これで一旦は安心だ。
もう疲れただろうと今日の訓練の中止を伝えると、全員を部屋に帰す。彼らの今日の仕事は終わりだが、俺はそうではない。残された仕事、黒幕への事情聴取が残っている。なんでこんなことになったのか、俺が絶対に暴いてやる。
次回、722:狂える精神 お楽しみに!




