719:待ちに待った
────レイおよび【真】到着よりも数刻前、帝城の廊下にて。
「あ……あ……」
いけないとわかっていたけれど、声が出てしまった。声が出てしまったことへの絶望と失望で、また声が漏れた。一言目を発してしまった時点でもう全て変わってしまったのだから、二言目を押し留める必要などないのだけれど。
目の前には、兵士の首根っこを掴みなにやら魔術を使っている男が。男の手から解き放たれ、立ち上がった兵士はものも言わずに歩いていく。その様子はどう見ても、私たちが戦った兵士と同じものだ。
それが意味すること。それは目の前にいるこの男が犯人だということだろう。この帝城で起こっている想像の全ての大元がこの男だということ。そんな危険な相手に、私は自ら居場所を知らせるなんてことをしてしまった。
同時に訪れる後悔。あの男、【真】さんはおそらく私たちの敵ではなかった。こうしてほぼ確実に黒幕であろう男が目の前にいるのだから。
兵士は私たちを攻撃してきたし、確実にこの事件の標的ではあるのだろう。となれば、その元締めであるこの男もまた私たちを狙っていると考えていいだろう。ティモニさんを庇うようにして少し前に出る。
どうにか今まで交戦をせずに済んだが、ここまで彼女を連れてきたのは私だ。まず撃たれるとしたら、それは私であるべきだ。私が立っていられるうちは、ティモニさんに攻撃させはしない。
「あれ、君らなんでここにいるの、おかしいな。……ああ、手筈通りに進めてくれ」
男はなにか連絡している。つまりは協力者がいるということか。もしかしてそれが【真】さんという可能性も。いや、今はそんなことを考えている暇はない。ティモニさんを守らないと。
「正直君たちがどうなろうとどうでもいいんだけどね。暴れられても困るし一応消えてもらおうか」
悪寒がする。人の命を奪う理由が、そんなものでいいのか。強い恨みとか憎しみとか、自分が生きるためとか、正義のためとか。そんなものではなく、「一応」だなんて。花を一輪摘むくらいの、そんな勢いで人は死んでいいのか。
演習とも、操られていた兵士とも違う。これが本当の人殺しだ。痛いからとかじゃない。これだから先生は私たちを戦いから遠ざけていたんだ。戦いの道なんてものは、正気の沙汰じゃない。どこかおかしくなってしまった人が歩む修羅の道なのだ。
でも、でもこうでなければ意味がない。ここでこそ、私の価値が示せる。もし、魔術を使う魔術師に、魔術を使えない私が、真っ向勝負の殺し合いで勝つことができたとすれば。私は、この魔術師よりも価値があると、そういえるのではないか。
ずっと昔から考えてきたことだ。それを試す機会が、やっと訪れた。
「自由の剥落、そして永劫の操束を」
精神魔術への対処法、授業で習った。防護魔術を使って対抗するのが一番だが、それができないのならば原始的な方法を使うしかない。
魔術を受けたのは私ではない。すぐ後ろではティモニさんが身体を硬直させている。つまりかかっているのはティモニさんの方。耳元で素早く手を叩き、その意識を引き戻す。
「あ……危なかった。ありがと、ルー」
「いえ」
軍刀を抜く。私の価値とかそれ以前に、殺す気でやらないとこちらが死ぬ。踏み込み、刀を打ち込む。が、その一撃は容易く物理障壁で受けられてしまう。ティモニさんの風弾も同じだ。的確な防御で防がれる。
さすがは人を殺してきて、それでも死ななかっただけある。私たちがすべきはこの男の撃破だが、もう一つ。そのときに隙を作らせてはいけない。
先生は言っていた。自分が攻撃するときは、どんなに隙があるといっても相手が動いてくることを想定しろと。攻撃しているときが最も危険な状態だと。だから、反撃されるなんてことがあってはいけない。
防護魔術の展開に時間と魔力を使わせ、得意の精神魔術を使わせない。それだけで私たちの生存率は飛躍的に上がる。こいつはあくまで生身の人間だ。一発入れればこちらが勝てる。
「舐めるなよ、ガキ共ッ!」
次回、720:剣士の本領 お楽しみに!




