718:掴んで離すな
「お前のダチ……?」
「学校辞めてからの付き合いで、城で勤め始めたのもおんなじ時期。信じてたんやけどなぁ……」
それで、そいつを自分の手で捕まえるために俺を遠ざけようとしたということか。それにしても、随分と大それたことをしたものだ。危うく犯人だと思い込んでしまうところだった。
「俺、冷静じゃあらへんかった。レイさんにブン殴られてハッキリしたわ。事件が済んだら受けるべき裁きは受ける、今は協力してくれへんか?」
「裁かれるかは結果が出てから決めろ。犯人が捕まって、生徒たちが助かれば何も問題はない」
立場上、おれは彼の行動に憤るべきだ。無闇に事件をかき乱し、俺との戦闘で体力と時間を無駄に使った。明らかな妨害行為だ。それでも、とても責める気にはなれなかった。
何かのために大きな流れに逆らう。そんな経験は俺にもある。異界との戦いで俺もやったことだ。国同士の危機に自分を貫こうとした【真】と、世界の危機に自分を貫こうとした俺、迷惑の度合いでいえば大した差はない、というか俺の方が大きい。
「とにかく状況確認だ。お前の友達の居場所はわかってるのか?」
「多分2階上の医務室の付近にいるはずや。この戦闘の間に動いてないといいけど…」
なんとなく部屋の位置には覚えがある。俺の打撃のせいで痛そうな【真】の身体を軽く叩いて気合を入れてやると、部屋から出て黒幕のもとへと走る。
俺の隣を必死に走る【真】の表情は、沈んでいるようで、それでいて晴れやかだった。そんな顔を見て、なんとなく理解した。こいつには、友達を殺すだけの覚悟がすでにできているのだと。
俺にそれができるだろうか。正義に悖るから、主張が違うから、それが命令だから、友と呼べるだけの人間を殺せるだろうか。考えるまでもなく、きっと無理だ。
最終的にはできるかもしれない。どうしてもやらなくてはいけないから、泣く泣くそれを為すかもしれない。そのときだって、こんな決意は持てないはずだ。何がいったい、彼を……。
「俺は嘘がつけへん。だから、あいつにも正直に接してきた。なのに……」
ぼそりと口を開く。なるほどな。軽薄そうに見えて、彼はその実嘘がつけない。誰かを裏切ることも、騙すこともできない。誰よりも誠実に在らなければいけない。
そんな生き方をしてきた彼が、裏切られたのだ。その悲しみの深さは俺には想像もできない。彼がここまで決意を固められた理由はそれか。確かに納得には値するが、真似したいとは到底思えない。
その前に友達を殺すなんて機会が来ないのが一番だが。とはいえ俺たちはそういう職業、手にかけろと言われた誰かが見知った人間であるなんて機会はこれからもあるだろう。これから、いくらでも。
だからこそ、改めて思う。俺は生徒たちをきちんと幸せの範疇で生きられるようにしてやらなければと。かといって夢も否定できない。親衛隊になりたいのならばその手助けをしてやりたい。
「難しいもんだな」
気付けばそんな言葉が零れていた。教師というのは思っているより何倍も、思っていないところで難しい。
「この気持ち、俺の手の中にあるうちに全部終わらせたいんや。離したら、もう二度と掴めへん」
俺の呟きも都合のいいように解釈してくれてよかった。多分それは、戦いの始まりを予感していたからだ。予感ではなく、目の前から襲ってくる現実として、そろそろ俺たちの視界に入るであろうことが、その気配でわかった。
張り詰めた空気、強い魔力のうねりと床を踏みしめる足の音。これが聞こえてくるということは、とりあえずは間に合ったということでいいのだろうか。
「ティモニ、ルーチェル、探したぞ……!」
次回、 719:待ちに待った お楽しみに!




