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70:西部決戦・毅

 明け方、俺たちは出撃した。リリィを除く特務のメンバーと、シャーロットによる精鋭部隊だ。できるだけ万全に近い状態で戦いに臨めるように、操縦はニクスルにいた者に頼むことにした。


 また、王都からは遅れてクレメンタインによる兵士団が派遣される。昨夜報告した時には既に王弟はおらず、少し出ると言い残して消えてしまったという。巨砲にいる多くの弟の配下を取り押さえるためには人員が必要になってくるから、俺達が作戦を達成しきったあたりで到着するように指示しておいた。


 今回俺はアーツと共に敵陣を強行突破する。先行してもらったシャーロットに露払いを任せ、全員で突入して【毒の女】と【剣の女】を特務のいずれかのメンバーで請け負う作戦だ。


 今のところの予定ではカイルが【毒の女】を、アーツが【剣の女】を相手することになっている。二人の情報はシャーロットができる限りを教えてくれた。精鋭としてある程度名が知れていたのが幸いした。


 こちらと言えばシャーロットが相手に力を知られているが、俺達に関してはほとんど情報が知られていない。そのアドバンテージをどれだけ活用できるかに勝敗が懸かっているといえる。


 前方を覗くと、氷塊やら氷柱が飛び交っているのが見えてくる。シャーロットがかなり派手にやっているようだ。装甲車や警備がなぎ倒されている。このまま単身で攻略してしまいそうな勢いだ。


 全速力で装甲車を飛ばし、シャーロットを追い抜いたあたりでハッチを開けて外へ出る。激突してもいいから速度を落とすな、なんて無茶な指示をしてしまったが、しっかり守ってくれている。


 ここまで速度を出せれば、戦い慣れないこの国の人間はおろか、俺でも中てるのが厳しくなってくる。ただ単純に速いだけ、というのも単純ゆえに厄介だ。


「さあレイくん、行くよ!」


 アーツの合図で飛び上がり、鎖で正面入り口まで投げ飛ばされる。浮遊中に拳銃で正面の見張りを落とし、入り口から内部の警備を排除しながら特務メンバーの到着を待つ。


 全員が到着すればとりあえず敵になるような強者はいない。一番負傷には強い俺を先頭に、敵をなぎ倒しながら中央へと進んでいく。


 こうして見ると、本当にデタラメであべこべなチームだ。だがそれでいて密接な連携で個々の弱点をカバーし長所を伸ばしているのだ。


 カイルの正確無比な射撃は敵の急所を的確に撃ち抜き、ハイネは確実に心臓を斬り潰す。俺もカイルほどではないが射撃はできるし、飛来する弾を見切って防ぐことが出来る。アーツの万能さは言うことがないし、キャスも戦闘が苦手ながらも防護魔術でサポートしてくれている。


「次の部屋に【毒の女】らしき敵影、先行するっす!」


 ニクスルでの敗戦がカイルに火をつけたか、いつもよりもその瞳に闘志を燃やして部屋に突入していった。ありったけの準備はした。カイルならきっとやってくれるはずだ。


「精鋭を離さないで置いておくとは、敵将はかなり愚鈍なようだね。これじゃあすぐに助けに入れちゃうじゃないか」


 しばらく走った部屋の前で急にアーツが立ち止まり、嬉しそうに笑う。ここに【剣の女】が待ち構えているのだろう。


 アーツが扉を蹴破る。


「こんにちは、ニクスロットのお嬢さん。本当の精鋭ってものを教えてあげよう」


 満面の笑みとともに放った傲慢ともいえる台詞を背中に聞きながら、俺達は先へと進む。シャーロットからはこれ以上の敵部隊の話は聞いていない。このままいけばかなり早くリリィを救出できそうだ。


 ニクスロットの民の魔力量のせいで判りにくかったが、先の方にひときわ大きな魔力があるのに気づく。あれがリリィだろう。


 感覚を総動員して、その部屋の様子を探る。カイルほどの精度ではないが、人数くらいは窺い知ることが出来る。


「三人いる。リリィ含めて」


 王弟が警護でも付けたか。並の相手ならば俺達の敵ではないが、念のためにと警戒は怠らない。


 狙撃銃で鍵を破壊し、飛び蹴りでドアを吹き飛ばしつつ中に入る。王の弟だろうが関係ない。こんなところでリリィは殺させはしない。


 全ての報われない人間を救うことはできないから。せめて目の前だけでも、手の届く場所にいるリリィには、俺と同じような道を歩ませたくないのだ。


 そして、俺もアーツのように誰かのために戦っていると、胸を張って言えるようになりたい。


「リリィを解放しろ」


 飛び行った部屋では、リリィが拘束されて寝かされていた。魔力を封じる腕輪を嵌められている。


 狙撃銃を王弟に、突入の瞬間に引き抜いた拳銃を一緒にいた黒マントに向ける。少しでも怪しい動きをしようものなら容赦なく急所を撃つ。


 これで俺達が罰せられるというのなら、俺はこの国を滅ぼそう。もし一人で戦うことになってでも。


 部屋の中に動きはない。ただ周囲の戦闘音が遠くの出来事のように響いてくるだけだ。俺の腕は震えもなく照準を合わせ続けている。


「レイ坊危ないッ!」


 『それ』に気付いたのは、キャスに突き飛ばされてからだった。俺の足元には竜の頭と形容できそうな大きな口が地面から湧き出ていた。


 俺の爪先を掠めるように、高速で口が閉じられる。キャスの判断があと一瞬遅ければ喰らわれていたかもしれない。


「陛下、今のうちに」


 男の声がして顔を上げると、王弟がリリィを抱えて奥へと向かっていた。


「待ちやがれ……!」


 握っていた狙撃銃で王弟の脚を撃つが、その弾丸も黒い獣に防がれてしまう。黒マントの男の仕業だろう。


「キャス、行ってくれ。リリィを頼んだ」


 王弟がどれくらいの実力の持ち主なのかはわからないが、ここはこうするのが最善だ。訳の分からない敵をキャスに任せることはできないし、俺やハイネのどちらかでは対応力に欠ける。


「ハイネ、とりあえず心臓を」


 これで済むのなら話は早い。心臓を潰されて生きていられる人間などいない。ごく少ない治癒魔術を究めた者でもなければ対応できまい。


「【静寂の一刈り(インビジブル・デッド)】ッ!」


 決まった。完全に。【毒の女】ように避ける暇もなく、確実に心臓を刈り取った。


「必殺技はこれでおしまいかい?」


 男はなんでもなかったかのように口を開いた。おかしい。絶対に決まったはずだ。


「嘘です……確かに心臓を抉ったはずなのに……」


「心臓? ああ、そんなものはとっくの昔に彼に与えてしまったよ」


 いつの間にか、男の傍には先程の獣が横たわっていた。三つの首を持ち、身体は黒く光も影もない。そこから発せられる魔力はすさまじく、魔獣の頂点に立つ存在だというのがわかった。


「さあ、異国の勇敢な戦士たち、続きを始めようじゃないか」

とうとう始まりました、西部決戦!

四話から五話くらいの長さになりそうです。

次回、70:西部決戦・蹌 お楽しみに!

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