714:本気競り合い
「お前らは出てくるなよ。自分を守るのに専念しろ」
この状況での援護は正直足手纏いだ。本気だとは言ったが、それは全力が出しきれるということではない。今より状況を悪くされるのは御免だ。
生徒に見られているから過剰な身体補強や魔力喰いは使えない。この状況でどれだけ敵が捌けるか。俺としても未知数だ。だからこそ、本気。この状況で出せる力を全て出し切る。
幸い兵士が現れたのは一方向から。俺を試しているのか、それとも何か他の思惑があるのか。それはわからないが、とりあえずは乗ってやろう。奴らを倒さないことには何も始まらない。
兵士たちは皆操られている。そう思っていたが、必ずしも操られているというわけでもないらしい。自分の意思で参加したであろう者も何人か見受けられる。
こういう鍔迫り合いみたいな感覚は久しぶりだ。戦況が、とかではない。信念の名の下に力をぶつけ合うこの感じ。懐かしい。
駆け出す。注意すべきは敵の魔術によって操られている兵士の方。物理的に動きを奪うか、おそらく魔術との接触点となっている意識を奪うか、そのどちらかでしか制圧できない。小突いただけでは起き上がってくるのが何とも面倒だ。
ならばやるべきことはただ一つ。全員同じように処理する、それだけのことだ。刀は防御と打撃のために使う。斬りはしない。
十数人ほどいる兵士たちの、特に前方の何人かが【魔弾】を放つ。そういえば、この国では魔力を通すだけで魔術が起動するよう軍刀に細工をされているのだった。普通に撃つよりも少し早いな。
だが、問題はない。数回刀を振れば全て叩き落とせる。【魔弾】を切り伏せた勢いのままさらに加速し、敵集団の中ほどまで入り込む。とりあえずは先頭集団だ。無様に背中を晒して、これでは懇願されるよりも死に近い。
ああ、本当に。本当にここに生徒たちがいることに感謝すべきだ。これはいわゆるハイというやつ。命の懸かったこの状況におかしくなってしまっている。
刀の峰で首を、柄の先でこめかみを叩く。これで先頭は壊滅だ。あとは俺のすぐそばにいる後続がどう動いてくるか。
こういうとき、さすがだなと思う。俺に急激な接近を許したとき、自分の意思で動いている兵士たちは慌て、軍刀をめちゃくちゃに振り上げ始める。しかし操られている兵士たちは冷静に距離を取るか、迂回して生徒たちの方へ向かおうとする。
これが自分に危険が及ばないことによる強さか。ここまで冷静でいられるのならば、俺も誰かに操ってもらってもいいかもしれない。もっとも、あまり冷静でも動きが読みやすくていけないが。
やぶれかぶれになった兵士たちの軍刀を弾き飛ばし、蹴りを入れて壁に叩きつける。意識こそ奪えていないが相当の衝撃だ。これでしばらくは動けまい。
続いてオルフォーズたちの方に走り始めた兵士たちを後方から気絶させ、そして最後に俺と距離を取ろうとした兵士たちに追撃を加え、気絶させる。少々の焦りはあったが、まあこんなものか。
次にいつ攻撃が来るかわからない。早めにこいつから情報を取っておかないと。
「なあ、俺はマジでやってるんだ。早く首領の名前と場所を言え」
生徒たちの手前、あまり手荒なことはできない。早いところ彼らを誰かに引き取ってもらいたいのだが。男は何か関心があるのか、それとも俺を見たくないのか、窓の方を見ている。そうしてしばらく沈黙は続いた。
「俺たちのリーダーは……」
男が笑いながら口を開く。その笑顔に嫌な予感がして彼の視線を追うと、その先にあったのは。
「まさか、時間稼ぎ……!?」
時計塔だ。帝都に設置されている大きな時計塔が、この廊下からは見える。時計を眺めながら、俺を拘束していたのだ。何かがなされる、その時刻まで。
「俺たちのリーダーは、ガーブルグ帝国特殊部隊工作員、【真】だ」
次回、715:【真】相 お楽しみに!




