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712:穴と隙

「ガーブルグ帝国帝城付医療魔術師のペイパーです。命令に従い生徒さんを保護しにきました」


 言動におかしな部分はない。今まで操られていた兵士たちとは違い意思疎通ができるし、その内容にも違和感はない。だが、研究所で操った人間に喋らせたりすることが可能なのは既にわかっている。


 研究所で俺と【影】を案内していた研究員よりも覇気があるが、体力の問題もあるから簡単にはいえない。ずっと魔術の影響下にあった人間と、つい最近操られ始めた人間ではその動きも変わってくるはずだ。


 これだけでは根拠にならない。何か決定的な決め手を掴まないと。こういう戦い方は得意ではないが、やるしかないか。


「予定では演習場を本部とし、生徒たちを集合させるはずだが。あんたは今どこに向かっているんだ?」


 オルフォーズとロプトの目が丸くなる。やはり二人にはそのことが聞かされていなかったか。つまりこいつはそれを伝えずに、この二人を騙そうとしていたということ。やはりこいつは……。


「命令に変更がありましたので。レイさんは通話宝石を持ってらっしゃらないのでご存じないのでは?」


 確かに否定はできない。俺が兵士を打ち倒している間に何かしらの問題が起こり、演習場以外に生徒を集合させることになったとしてもおかしくはない。俺は知らない、という指摘に対して、俺は全く反論することができない。


 どうする。だんだん不安になってきた。俺を欺くための策だと思って接してきたが、本当に彼が二人を助けに来てくれた要員だとしたら。俺のこの疑念は悪になるのだろうか。味方を信じられない愚かな男と映るのだろうか。


 もし彼のいうことが本当だとしても嘘だとしても、少なくとも確実に言えるのは、通話宝石を持っていない、という事実は俺にとっての大きな穴になっているということだ。確実に突くことができる、見え透いた隙だ。


 どうしよう、どうしたらいい。オルフォーズとロプトにも、安心させてやるどころか不安を与えてしまった。ここで確実に事実を確認する方法。それはやはり、連絡するという以外ないだろう。


 彼は言った、命令の変更があったと。ならばその命令を出した大元に確認を取るのが一番だ。


「確かにそうだな。一応確認を取りたいから、あんたの通話宝石で特殊部隊と話させてくれ」


 さあ、ここでどう出てくる。本当に問題がないなら、素直に通話宝石を使わせてくれるはずだ。


 男は懐に手を入れる。何を取り出すつもりかと身構えたが、出てきたのは本当に通話宝石だった。俺の疑いすぎで、彼は本当に命令に従っていただけだったのかもしれない。だとしたら申し訳ないことをした。


 魔力を通して数秒後、応答があった。この声は……【滅】だろうか。


「俺だ、レイだ。急に悪い、実は命令の変更があったと連絡を受けてな。臨時本部はどこに変更されたんだ?」


 心臓が高鳴る。目の前に立つ男の表情は変わらない。本当に俺の方が間違っているとしたら。いや、これは俺にとっては必要なことだ。どんな結果であろうと、これを聞いたことに後悔はしない。


「臨時本部の変更? 何のことだ?」


 やはりそうか、確認してよかった。やはりこいつは操られているか、もしくは協力者。黒幕ということもありうる。ここまで表情を変えずに、堂々と嘘をつくことができたというところだけは評価してやろう。


 安心したのも束の間、目の前ではその表情のまま、男がナイフを振り上げていた。ついに正体を現したな。

次回、713:白兵戦 お楽しみに!

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