711:サイレント・キル
屋根の上を駆け回り、異変を探す。これだけ場をかき乱したのだ、向こうの手駒も減っているはずだし、そろそろ決定的な動きをしてくるはず。
ちらりと窓から城内を見て気づいたこと。それは、まともな動きをしている人間が増えてきたということ。規則的に動く操られた兵士たちと違い、明らかに人間の動きをしている兵士たちだ。いや、城の巡回をしている兵士たちとは服装が少し違うな。
場内にいるということは帝国所属の魔術師なのだろうが、軍とは所属が違うのかもしれない。それにしてもあの服、どこかで見たことが……。
「あ」
わかった。何か既視感があると思ったら、あれは医者だ。ユニに話を聞きに行った時もああいう格好の人間が部屋の前に立っていた。軍以外からも人を出して、生徒たちを探してくれているのか。
再び辺りを見回すと、オルフォーズとロプトが医官の制服の男に連れてられているのが目に入る。あの二人は無事保護されたのか。よかった。とはいえ、未だに異変は全く見つからない。ここまでやれば何かしらおかしなことがあるはずなのに……。
違う。何を考えている、俺は。異変なんて、もう既に起こっているだろう。どんな緊急事態であろうと、後方で控えていることが仕事の医官がわざわざ前線に出てくる必要はない。出てくるべきではない。
よく思い出せ。さっきオルフォーズとロプトはどこにいた。彼らがいたのは演習場とはまるで遠い通路。それに彼らが気付かないわけはないと思うが、理由があるのだと説明されれば大人しくついていくはずだ。
もし本当に二人が保護されているならば、俺があそこに行くのは完全に無駄足になる。だが、その可能性は低い。
そもそも、まだ演習場に到着していないのならば、優先的に保護すべきだ。それはわかっているけれど、動けない。俺がやればそれですべて解決するのだ。教師としての俺は捨てると、ついさっき決めたばかりなのに。
どうしてもその姿を見てしまうと決心が揺らぐ。俺ならば今、最短で彼らを助けられるのに。覚悟を決めろ、俺。
屋根から飛び降り、壊さないように気を付けながら、それでも最速で窓を開ける。まずは目の前のことからだ。アーツにも言われた、俺は強いと。だからこそ任されているこの仕事、ならば俺も少し欲張らせてもらおう。
教師の仕事も、特務分室としての仕事も、どちらもこなす。俺にはそれが許されているはずだ。たとえ許されていないとしても、やりとげる。それしか俺に残された道はない。
「「先生!?」」
「遅くなったな、無事だったか。……ところで、そいつは?」
できるだけ警戒の意思が漏れないように尋ねる。もし黒幕に関係する人間ならば何かしら動いてくるはず。もしそうならば、二人に気付かれる間もなく、静かに殺してやる。さあ、どう出てくる。
次回、712:穴と隙 お楽しみに!




