703:帝城の異変
「集いし凝風よッ!」
弾丸のように凝縮された風が兵士に突き刺さり、炸裂して吹き飛んでいく。危ない、もう少し遅かったらもう一撃魔術を、今度は至近距離で撃ち込まれるところだった。
「ありがとうございます、ティモニさん」
隣の部屋だから、騒ぎを聞きつけてきてくれたのだろう。死にはしなかっただろうが、絶対に痛かったはずだ。来てくれてよかった。
「なにこいつ。ただのヘンタイ兵士ってワケでもなさそうね」
私にも全くわからない。わかっているのは、ただ今この城に異変が起こっているということ。何かがこの城の中で起こっている。今、先生や他のみんなはどうしているのだろう。無事だといいけれど。
「この人、意識がなさそうでした。なんだか……」
「操り人形、みたい?」
頷く。眠っているまま、身体を無理やり動かされているように見えた。かなり痛い一撃を叩き込んだはずなのに、全く反応せずに反撃してきたことからも、それは確かだろう。あの兵士は痛みを全く感じていなかった。
その証拠に、攻撃を受けても未だに起き上がってくる。死にたくはないが、これ以上やると……。
いや、襲われているのは私たちだ。今のところは大丈夫だけど、この人のせいで命の危険に瀕している。ならば、それと同等にやり返しても、私たちが責められる謂れはない。それこそ、最悪……。
「ルー……? 何笑ってるの……?」
いけない、まただ。この状況でうっかり忘れるところだった、今は隣にティモニさんがいる。間違っても私の欲のままに動いてはいけない。それでも、それでも。
今がどんな状況であっても示したい、私の価値を。魔力がなくても戦えると、戦術化の生徒であるに値する、強さを持っていると。先生の授業のおかげで、いつも協力してくれるみんなのおかげで、こんなに成長できたのだと示したい。
そして、魔術師じゃなくても魔術師を倒せると、誰よりも私自身に証明したい。撃たれた肩はまだ痛むけれど、それでもこんな機会はまたとない。
だって、先生は優しいから。先生は私たちを危険から遠ざけようとしている。私は他の人よりも少し耳がいいから聞こえてしまった。先生と、あの怪しい兵士が話しているところを、その会話を、少しだけど盗み聞きしてしまった。
あのとき、先生は責められていた。私たちを戦いの中に放り込まないことに。アイラ王国の方針としてそういうことはしないことになっているみたいだけれど、先生はそれが間違っていると思っているらしい。
それに関しては私も同意だけれど、どうやら先生は私たちを守るために泣く泣く方針に従っているらしい。だから、もしかしたら。
「私たち、この異変をどうにかできるんでしょうか……?」
「んなワケないでしょ! ほら逃げるよ!」
本当にそうなのだろうか。あの兵士の動きは、普段戦っているみんなとは比べ物にならない。多分操られているから、思うように動けないのだと思う。それならば、私にだって十分勝機はある、はずだ。
「ほら! 刀仕舞って!」
「でも、演習場はあっちです……」
指をさす。あの兵士の向こう側にいかないと、演習場には行けない。確かにあの人だけが操られているのならば逃げるのがいいだろう。でも、そうでないなら人のいる演習場に行く方が安全だ。
……といえば、理屈は通る。せめて一人だけでも、私の力で、といってももう助けられてしまったけれど。それでも、先生の手を借りずに一人くらいは倒してみたい。
どうやらティモニさんも覚悟を決めてくれたようだ。視線が少し、いつもの演習中と同じような表情に変わる。よし、いける。上がりそうになる口角を必死に抑えて、刀を構える。
が、兵士は力を失ったように倒れる。魔力が切れたのかと思ったが、そうではない。兵士の背後には……。
「お、二人とも無事やな。ずいぶん探したで」
次回、704:忠告 お楽しみに!




