700:また会う日まで
「こうしてお話するのは久しぶりですね。遠方からの護衛で助かりました」
「そうだな。お前から見て、あいつらはどうだ?」
【影】からは少し評価を聞く事ができたが、他の隊員からは聞けていない。特に必要以上に気を遣ってくるようなやつはいないが、【静】ならば余計信用できる。もしかしたら普段は言いにくいことも教えてくれるかもしれない。
ユニの警護のために部屋から出て、帝城の城壁から屋根に飛び移る。ユニを乗せた鈍行の馬車はその直後に城を出た。帝都を出るまで、あの馬車が襲撃されないように守ればいい。行商やらの馬車に紛れているから狙い撃ちされる可能性は低いと思いたいが、相手は研究所全体を潰しにかかった凶悪犯だ。安心はできない。
「そうですね、才能ある子達だと思います。それこそ、当時の私たち以上に」
話によれば彼らも相当学生、この国では予備役という制度らしいが、その時に戦果を上げたと聞いている。もちろんこれは【真】の言っていた「制度」の賜物だが、それにしたってなかなかできる芸当ではない。
そんな彼らにここまで褒められるとなると、もう少し褒めてやってもいいのかもしれないという気もしてくる。
「特にルーチェルさん、なんだか昔の私たちを見てるみたいで、応援したくなっちゃいますね。動きも魔術を使えないとは思えない速さですし」
「それは俺も思うよ。俺たちと比べると少し足りないけど、学生が身体強化魔術を使ったにしちゃ出来過ぎなくらい動けてる」
俺のように何かを隠しているのか、もしくは自分の力に気づく事ができていないのか、どちらにせよ、彼女の身体は俺たち、というか一般的な魔術師の身体とは少し違うのだろう。正体は全くわからないが、なにかしら、常人以上の力を引き出す事ができているというのは確かだ。
馬車が走るのについて屋根の上を行く。帝都の一部は迷宮のように道が立体的に入り組んでいるが、屋根の上ならば追跡は簡単だ。少々目立つが、それは相手も同じこと。地上で追うのが難しければ襲撃者も屋根を使わざるを得ない。
すぐに俺も動けるように身体補強の準備はしている。が、襲撃者の姿はおろか、怪しい気配すら感じない。ユニは敵にとってはもはやどうでもいい存在なのだろうか。
実際どういう魔術なのかはわからないが、敵はユニの証言を完全に封じている。よくよく考えてみれば、話せない証人をわざわざリスクを冒してまで消す必要はないのかもしれない。だとすれば、今後も証言が出なければまたしても敵の完全勝利だ。
そう思うと気が沈むが、まずはユニが安全に帝都を出られることを幸運に思うこととしよう。帝都を出たところで俺たちも地上に降りる。【静】もすでに変声の準備はできているようだ。
「帝都を出たらなかなか追いにくい。が、ここからは我々の保護もない。心して往けよ」
「わがまま、聞いてくださってありがとうございます。ここからはうまいこと一人でやっていくつもりです。レイさんも、お世話になりました」
「ああ、達者でな。もう会うこともないかもしれないが」
犯人から逃れるためにも、退職金を使って一度身を隠すらしい。俺もそれが賢明だとは思うが、それはつまり関わりがあった人からも身を隠すということ。もう会えないかもしれないと思うと、仕方がないと分かっていても少し寂しい気持ちはある。
「そんなこと、ないですよ」
随分と優しい気休めを言ってくれるものだ。少し照れ臭くなって目を逸らす。
が、そんな気持ちはすぐに霧散した。再び彼に顔を向けた、その瞬間だ。彼の顔は優しさではなく、強い確信に満ちていた。俺の言葉を、強い確信で否定していた。彼にはいったい、何が見えているのだろう。
「僕が僕である限り、レイさんがレイさんである限り、僕らはまた出会いますよ」
次回、701:帝都事変 お楽しみに!




