68:シャーロット
策、なんて言うと大仰だが、事前に用意していたのが功を奏した。実はクレメンタインと話したときに有事の際に最悪脱出だけでもできるようにとシャーロットを転移させる宝石を預けてくれたのだ。
だが俺は魔力を通せないから発動はできず、部屋に入る前にハイネに任せたのだ。
「ふっふっふ。ボクの前に立ちふさがって無事だった者はいままでない。国を、クレメンタイン様を脅かす逆賊、覚悟してね!」
ふんすと胸を張り、高らかに宣言する。クレメンタインからかなりの実力だとは聞いていたが、これだけ言うのだから間違いないだろう。確かにシャーロットの中にある魔力は大海のように深く大きい。
「とりあえず行動を制限してくれればいい、足止めを頼む!」
「これは貸しだぜ、ですよ」
明るく笑ってばっちりウインクを決めると、内に秘められた魔力を解放していく。それは吹きすさぶ強風のように、威圧感となって溢れ出ていた。
「■■■■■■■ッ!」
布を無理矢理引き裂くノイズのような、理解の外にある音が聞こえる。久し振りに聞いた魔法言語。魔法使いなんてそうそういないうえ、一番身近な魔法使いは詠唱をしない。聞くのはハーグと戦った時以来か。
シャーロットの声に呼応して、周囲に巨大な氷塊がいくつも生成されていく。氷の弾丸、なんて生半可なものでは全くない。むしろ使えば人一人くらいならば容易に圧死させられるほどの質量がそこにはある。
「これぞボクの十八番、氷塊衛星【サテライト】!」
氷塊はぐるぐると高速でシャーロットの周りを回り始める。これでは迂闊に手が出せず、近づけば大質量に押しつぶされて死ぬ。攻守一体の強力な魔法だ。
実際女が伸ばしてくる布を全て弾き返し、攻撃を全く寄せ付けていない。氷塊の硬度もかなりのもののようで、布と衝突しても欠けたり割れたりしている様子はない。
「あの……今のうちに逃げてください。ボクこれ使うと動けないんで」
シャーロットはにへっと間の抜けた笑みを零す。なんだか申し訳ないが、彼女ならばどうにかしてくれるだろう。ハイネを守るように先行し、部屋を飛び出る。
先程の戦闘でいくらか音が響いたためか、かなりの人数がこちらに向かってくるのがわかる。相手の武装は基本的に銃。俺たち二人ではかなり分が悪い。こちらにもシャーロットが欲しかった。
「ハイネ、お前の刃で弾丸は防げるか?」
「直撃する弾だけなら行けます、私の後ろにッ!」
ハイネに防御を任せ、俺は攻撃を請け負う。ハイネ越しに弾丸を撃ち込み、敵の数を少しずつ減らしていく。できるだけ速く撃ち、できるだけ速く回転弾倉を交換する。
貴族の館にいる用心棒の集団なんかと戦う時には、どれだけ攻撃手段を途切れさせないかが重要になってくる。弾倉を交換する動作自体は慣れっこだ。だがそれでも増えていく敵の数には追い付かない。
「多いな。ファルスの皇都みたいだ」
ニクスロット王国の人口はどれほどのものなのか。明らかに盗賊の一団にしては多すぎる数の人間がここにはいる。一体ここを仕切っているのは何者なのか。
最終的にかなり強引に突破しつつ、砲の外まで転がるように出ていく。だが、ここまで来たのはいいがここから装甲車までが果てしなく長い。二人で走って脱出しようとすれば絶対にどちらは落とされる。
「ハイネ、掴まれ!」
敵の追撃の準備が済まないうちに、傷ついていない方、左の手を掴んで勢い良く回転し装甲車の方向へ投げ飛ばす。俺が回転し始めたところで思惑に気が付いてくれて助かった。ちゃんと空中で体勢を整えているから、雪に真っ逆さまなんてことはないだろう。
きっと装甲車を全速力でここまで走らせてくれるだろうから、それまでの間俺が耐えられれば助かる。
しかしまあ、耐えられるだろうか。身体補強を使えば飛来する弾丸を見切るのはそう難しい事ではないが、それを継続するのは難しい。集中力と体力の両方をすごい勢いで削られていくのはかなり堪える。
それに、防御手段がないのもかなり痛い。ナイフ一本ではさすがにあの強力な一射には耐えられない。せいぜい数発受け流せるかどうかといったところが関の山だろう。
生か死か。紙一重の戦いに挑もうと覚悟を決めたその時、妙に魔力が辺りに漂っていることに気が付く。これは……
「■■■■■■■」
俺と建物の間に巨大な氷壁がそびえ立つ。やはりこれはシャーロットの魔力だったか。助かった。そして無事でよかった。俺達を助けに来て何かあったとなったらクレメンタインに申し訳ない。それなら俺がその場で死んだ方がまだマシだ。
「ボクってば、またまたピンチに駆け付けちゃいましたね? まあボクは強いですし、どんどん頼ってくれていいですよ!」
初めて会った時から思っていたのだが、シャーロットは基本的にこういう調子なのか。内心蔑んだりするよりはよっぽど気持ちのいい性格をしているが、少々反応に困る。
「お前には助けられっぱなしだな。俺達とは関係ないっていうのに、悪い」
王女の付き人とはいえ、彼女はもともと俺達とは何の関係もないのだ。それをこうして助けてもらっているのだ。
「条約を結ぶためとはいえ、ニクスロット王国のために戦ってくれているとクレメンタイン様に伺いました。クレメンタイン様の住まうこの国を守ってくれる人は、クレメンタイン様を守ってくれる人と同義だから仲間ですよ」
羨ましいほど純粋に笑う。クレメンタインを信頼し、守らんとするその無垢な想いは俺が抱く前に失くしてしまったもののように思えた。俺も彼女のように生きればこうなれたのだろうか。
「あ、それと! ボクたち仲間なんですから、助けたぐらいで謝ったりするのはダメですよ」
思わず吹き出してしまう。いかにもシャーロットらしい話だ。いきなり笑い出した俺を見て困惑しているようだったが、俺自身もびっくりしていた。こんな風に吹き出すなんてしばらくぶりな気がする。
「了解だ。助かったよシャーロット」
謝罪がダメならと礼を言う。するとシャーロットも満面の笑みでそれに応えてくれる。悪くないものだ、こういう奴も。
タイミングよく、装甲車が雪を跳ね飛ばしながら到着する。よほど急いでくれたのか、ハッチも開けっ放しだ。
「じゃあ、撤退ですね」
「ん、そうだな」
連続投稿三日目です頑張ってます!
ちょっとしたご報告ですが現在挿絵を数種準備中です!
載せるときは活動報告にてお知らせしようと思います




