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5:邂逅・その2

「申し訳ないっす、遅くなりました!」


 そこにいたのは茶髪の好青年だった。イッカを撃ったであろう、煙を吐き出している銃と爽やかな笑顔がどうにも不釣り合いだ。


「迎えのところ悪いが、あいつに止めだけ────」


「ま、待ってほしいっす!!」


 あの女、イッカは俺の顔をしっかりと見ている。親衛隊の力を使って追い回されたら、いくらアーツに罪を帳消しにしてもらっても逃げきれない。あいつだけでも消しておかないと。


「民衆の誘導を終えた団員がここに来てるっす! あんな人数相手にできないっすよ!」


 他の団員との戦闘なんて、もうやっていられない。この男の実力はともかく、親衛隊を複数人を相手にしては逃げられないだろう。


 男に言われるがまま路地に入ると、イッカではない声が響いてくる。本当に団員が集まっているようだ。素直に着いてきてよかった。悠長にイッカを殺していれば、俺も死んでいただろう。


「ここまで来れば平気っすかね。申し遅れました、僕はカイル・ベルナール。特務分室の斥候っす」


 やはり戦うことを強行しなくてよかった。斥候というからには戦闘能力に大きく長けているというわけではないだろう。この男を道連れにするところだった。


「アーツさんからは聞いてると思うっすけど、一応簡単な説明だけするっすよ」


 のんびりと歩くカイルからは先ほどまでの緊張感が嘘のように抜けている。それでいて、入り組んだ路地を手慣れた動きで通り抜けていくあたりは訓練された兵士らしさが伺える。獣道を抜けていく動物のようだ。


「まず僕たちのお仕事っすけど、ざっくり言えば王家の依頼だったり、皆さんのために頑張る簡単なお仕事っす」


 簡単なお仕事、なんて触れ込みが事実だった試しはないが、今更逃げられない。逃げるとしてもキャスのやつから報酬金を受け取ってからだ。


「アーツは『国の狗じゃない』なんて言ってた気がするが、王家の依頼も受けるんだな」


「それは、僕たちに独自に動く権限が与えられてるからっすね。王家の依頼も受けるっすけど、アーツさんの指示で柔軟に動くとも多いんす」


 なるほど、アイラ王国軍の中でも治安維持にあたる遊撃隊の名を関してはいるが、比較的独立性の高い組織ということか。それが国王殺しに関わっているというのだから、こうして権限を与えたのは間違いだろう。


「で、俺をスカウトした理由とかは。知ってるか?」


 ひとつ、心当たりがある。アーツの発言からしても、この件に関わっている人間の顔はおぼろげに浮かんでくる。とはいえ、わざわざ俺を引っ張ってくる理由がわからない。魔術を消すという特異性はあるが、それがどれほど役に立つか。


「詳しくは知らないっすけど、親衛隊にも勝る戦力を集めたいとかなんとからしいっす。今までとは違う力が欲しいとかで」


「……そんなに仲悪いのか?」


「王家との距離は変わらないのに、特務は自由にやらせてもらってるっすからね。忠誠心の強い親衛隊には好かれてないんすよ」


 親衛隊に敵視までされて、それでも潰されないのは王家と繋がりがあるからなのだろう。となれば確かに所属するのもアリなのかもしれない。罪を帳消しにするついでに、親衛隊からも守ってもらえる、なんてこともあるはずだ。


「なあ、カイル……」


 さっきの狙撃について聞こうとして、やめる。カイルがおもむろに指輪やピアスをつけはじめたからだ。その姿はまるでギルド、各地の商店や繁華街を牛耳るごろつき集団のようだ。


 しかし、その格好は妙に様になっている。カイルの姿に気を取られていたが、ここは王都でも最大の繁華街。カイルのような装いの男はちらほら見受けられる。


「おいテメェ、この前ウチのメンバーに手ェ出したガキだな?」


 そのうちの、特にいかにもという男。頭を刈り上げ口には葉巻を咥えている。赤いスーツを着ているから、多分王都南部ギルドのメンバーだろう。まさかこんなのに難癖をつけられるとは。


「『ウチ』にちょっかい出したんだ、それくらい覚悟の上だろ」


 先ほどまでの朗らかな口調とは違う。彼にとってはこれがこの街での立ち振る舞い方ということなのだろう。それ自体は構わないが、おかげでただ挨拶して、さようならというわけにはいかなそうだ。


 思った通り、男が大きく腕を振り上げる。が、そこからが早かった。カイルは大柄な男の顎に拳を叩き込むと、鳩尾を蹴って路上に転がす。軽業師のような見事な動きだ。


 カイルはそのまま軽く目配せすると、先に向かって歩き出す。着いてこいという無言の合図なのはすぐにわかった。地面に倒れてなお悪態をつく男を放って、カイルについて歩く。


「僕の生まれた街なんすけど、どうにもああいう人が多くて。ご迷惑をおかけしたっす」


 街を抜け、アクセサリーを外したカイルが言う。ウチ、だなんて言っていたからそうかとは思っていたが。俺もあのテのギルドメンバーとやり合ったことはあるからわかるが、普段の数倍わらわらと湧いて出て、面倒だった覚えがある。


 それと日々戦っていたと考えると、カイルの身のこなしも納得かもしれない。だがあの動き、それだけでどうにかなるものだろうか。


「お前、ずいぶんいい動きするよな。なんかこう、コツとかあるのか?」


「コツ……っていうと大袈裟っすけど、空間把握に長けた魔力をしてるっすから、そのおかげで動きやすいのはあるかもしれないっすね」


 なるほど、そういうことか。人が生まれつき持つ魔力の指向性、魔力特性が空間把握に向いているというなら話はわかる。相手の数や位置、予備動作が正確に把握できれば動きも磨かれるはずだ。


 おそらく姿を消しているイッカを発見できたのもそういうことだろう。炎の壁越しであろうとも、透明になっていようとも、そこに彼女がいるという事実は揺るがない。であれば狙撃も可能なはず。彼の魔力に助けられたというわけだ。


 そんな話をしていると、カイルが立ち止まる。一見普通の民家だが、彼が立ち止まったとうことは、そういうことだろう。


「ようこそ、僕らの特務分室へ!」

新天地、特務分室。そこで出会う新たな仲間は……


次回、6:邂逅・その3、4 お楽しみに!

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― 新着の感想 ―
[良い点] カイルさん、しゃべり口調がすごく親し気で仲良くなれそうな予感!(*'ω'*) 空間把握という能力も索敵とか、すごく便利そう! 特務分室はこういう特殊能力を持った人たちがいて、それぞれの得意…
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