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691:呪縛

 何かを言おうとしたユニが、急に喉を押さえて苦しみ出す。いや、苦しんでいるというのは少し違う。戸惑っているのだ。


「は、話せません……」


 ユニの目は大きく見開かれ、その驚きがよくわかる。魔力の支配から解放されてもなお、何らかの力によってその言葉を止められているのか。


 だが彼に魔術がかけられているような様子はない。そもそも口止めができるのであれば、もっと自然にその行動を操作したり、もっと言えば殺すことだってできるはずだ。こんなあからさまな方法を選んだ理由は何だ。


「どうして……こんな魔術知りません……」


 咄嗟にユニは筆談に切り替えようとしたが、それでもダメだった。決定的なことを書こうとした途端に、手が硬直する。


 ユニだけにこの術がかけられているのか、それとも魔力を浴びた人間全員が少なからず影響を受けているのか。捜査の遅延を狙った前者ならばまだしも、後者ならばまた手がかりを得られないまま犯人の逃走を許してしまうことになる。


 とにかくこの呪縛が魔術的なものであるのならば、すぐにでもこれを解除しないと。たいていの魔術は俺の力で解除できるが、それもあくまで魔術がどこにかかっているのかわかればの話。


 きっと丁寧に治療をしたのだろう、ユニからは例の魔力を微塵も感じない。これでは魔術の解除どころか、特定すらもできるわけがない。


 ふと、俺の脳裏に嫌な予感が走る。これがもし、魔力での支配によって脳の髄に植え付けられた、魔術ですらないただの支配だとしたら。もう彼は、今までの彼ではないのかもしれない。


 しかし、そんな懸念を彼に直接伝えられるわけもなく。とりあえずは、犯人以外にどうにか情報がないか探ってみるしかないだろう。


「研究所にいるときはどんな感じだったんだ? 意識があったとかどれくらい動けたかとか、覚えてたら教えてくれ」


「意識は……うっすらありました。長い夢を見てるみたいな。でもずっとぼんやりした感じで、思い出せる限り、何かを考えることすらしていませんでした」


 やはり思考力を奪って意のままに操っていたということだろうか。精神に作用する魔術については正直対策が要らないせいであまり詳しくないから、このあたりは専門家に任せるのが一番だろう。


 どれくらい役に立つかはわからないが、「ストレイ」でも紹介しておくか。気絶と支配、やっていることは全然違うが、同じ精神感応系ならば通じる部分があるかもしれない。彼らにも仕事を作ってやらないと肩身が狭そうだし。


「帝国は、これからどうなってしまうのでしょうか」


「俺にもわからない。だが少なくとも、今回の事件の犯人が捕まらない限りはこの空気は続くだろうな」


 もともと大きな事件を起こした人間ではあるが、今回の一件で完全に犯人はガーブルグ帝国を怒らせた。もはや隠すことのできない規模の事件になってしまった以上、極秘の捜査ではなく国を挙げた包囲網が敷かれることになるだろう。


 そうなれば、少なからず国はピリつく。 この緊張感のある空気は犯人が捕まり、そして事件の全貌が明らかになるまでは終わらない。世界最大の国であるガーブルグが内部から揺らぐというのは、それだけ大きな事件ということだ。


 ユニが話せればもう少し事件の解決も早かったろうに、なんらかの方法で伝えることを阻害されているのだから仕方がない。他の方法を探すしかないか。あまり長居しても生徒たちに変に思われるだろうし、そろそろ戻らないと。


「じゃ、とりあえず行くよ。また様子を見にくる」


「お役に立てずすみません。また、お待ちしてますね」


 部屋を出る。外には俺が出ていくのを待っていたのか、黒い服の男が軽く頭を下げて部屋に入っていった。少し気になって耳をそば立ててみると、話の内容的にどうやら医者らしい。珍しい格好をしているものだ。


 黒い服の男が気になって、余計に時間を使ってしまった。俺は早足で演習場に向かった。

次回、692:リタイア お楽しみに!

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