683:事故
「いや、まさかあんなところに着地するなんて……」
「魔術を撒いてるのは構わないけど……なんであんなに妨害に特化したのばっかりなのよ! まだ微妙に痺れるんだけど!!」
訓練中に起きた事故、それは魔力の調整のために着地したティモニがたまたまロプトの魔術を踏みつけたことで起こった。【縛】をどうにか仕留めようと躍起になって魔術を盛りに盛っていたらしい。
おかげでティモニはご立腹、夕食の世話をすることを条件に許してもらったようで、珍しくロプトがティモニにパンを食べさせている。ロプトが人に何かしてやるところなんてほとんど見ないから新鮮だ。
それにしても、行動阻害につながる魔術をここまで一箇所に設置するとは。ロプトの反骨心は見上げたものがあるが、こういう方向に作用してもいいものだろうか。
ロプトの魔術で動けなくなったティモニはそのまま一時訓練を離脱、手の空いた【破】がロプトの担当に追加で入ることになったが、あれはひどかった。大人気ないというか、まさに蹂躙という言葉を体現したような戦闘になっていた。
包帯まみれのティモニとロプトだったが、一方であまり不満げではなかった。訓練そのものには彼らなりに満足しているらしい。むしろそうでないとここに連れてきた俺の方が困ってしまうのだが。
「一箇所の魔術だけで仕留めるのではなく、罠を多く撒いた方が有効なんじゃないのか?」
「そうなんだけどさぁ、撒けば撒くほど僕も動きにくくなるんだよね」
「た、確かにそれは本末転倒ですね……」
技術の向上、潜在能力の引き出し、いろいろ益だといえる影響は少しずつ見えてきたが、何よりもこの時間が大きな変化な気がする。現状の力ではどうあっても届かない相手に、一矢報いるためにはどうすべきか。自分の持てる全てを総動員して、どうにか辿り着いてやろうという心意気。今まで少し足りていなかった。
そのために飯時にも作戦会議なんて、いかにも学生という感じだ。俺は学生なんてやったことがないからわからないが、きっとこれが目指すべき姿のはず。
「せ、先生は【影】さんに勝てるんですか……?」
「確実にとは言えないな。勝てたとしても無傷じゃ無理だ」
彼の魔術と速度に追随できる身体補強・天火を使えば有利に動くことはできるだろう。あとは時間帯も大事だ。朝方とか夕方とか、とにかく影が伸びがちな時間帯だとまずい。どこにでも逃げられてしまうし、どこからでも攻撃が来る可能性がある。特に彼個人の軍刀を持ち出されたら恐ろしい。
「ルーチェルさんはいけそうな感じじゃないですか? あの細い刀使い始めてから、すごい調子いいじゃないですか!」
「でも、ルーにしてはパワーが足りない感じもするよね、そこんトコどうなの?」
「確かに、使いやすいけどちょっと軽いかもしれません……。でも、この軽さも結構気に入ってるんです」
確かに、重さから来る一撃の勢いは多少失われている。【破】にあれだけ追い回されながらもルーチェルの戦況をそこまで見ているとは、【破】にはもう少し力を入れてもらってもいいのかもしれない。
ルーチェルに何を求めるか。一撃の鋭さも突風のような素早さもどちらも彼女の強みだ。可能であれば両方を活かせるようにしてやりたいが、ガーブルグの軍刀よりも少し重いものといえば……。
あれならば、前に鍛冶屋でもらった刀ならばいけるかもしれない。多少の調整は必要だろうが、少なくとも靭くていい刀だ。多少いじってもその強さは変わらないはずだ。アイラに戻ったら提案してみよう。
「おうおう、お主ら、よく食っておるか?」
次回、684:クールビューティー お楽しみに!




