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669:キデンス州

「ここがキデンス州、王都よりも衛兵の人が多いんですね」


「うわ、急に喋った……!?」


 列車から降りてすぐ人語を取り戻したデトルから、ティモニが距離を取る。俺も驚いた。実際、普段の王都とあまり変わらない風景になったし、言語を喪失するほどの衝撃はないのだろう。駅に関しても王都の方が豪奢だった。


 デトルの言う通り衛兵が王都よりも多い。王都よりも少々厳戒な雰囲気があるというのは聞いていたが、こんな感じか。同盟で危険は一旦薄れたとはいえ、今までそうして生きてきたのだから今更変えるというのも難しいのだろう。


「王立王都魔術学校、レイ研究室ご一行様ですね。馬車のご用意ができておりますので、出発の際はいつでもお声がけください」


「丁寧にどうも。……とりあえず、今日は泊まっていくか?」


 全員が頷く。特別交流プロジェクトの影響力は絶大らしく、事前に領主の館に6部屋、俺たちのために用意してくれていたらしい。大きな力が動いているのだと改めて感じる。


 とりあえず領主の館に連れて行ってもらうと、領主本人がわざわざ迎えに出てくれていた。互いに軽く挨拶を済ませ、部屋に荷物を運び込もうとしたのだが……。


「オルフォーズ様、ご無沙汰しております」


「お久しぶりですシュバルト様。ですが今の私は一学生ですし、家のことは気にしないでいただいて結構です」


 領主がオルフォーズに頭を下げる。どうやら知り合いらしい。軍備に力を入れているキデンスと軍事方面に大きな力を持つモーデスト家、確かに関係がありそうなものだ。


 しかし、明らかに年上で実務経験も積んでいそうな領主、シュバルトまでもがオルフォーズに頭を下げるのか。五大貴族の力とはかくも大きい。すごいな。


「レイ先生も、ラインハルト様からお話は伺っております。お食事の前に少しお話しさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか」


「え、いいですけど……」


 ここまで話を聞いてしまったら断れないだろう。ラインハルトも俺の話を方々でしてくれているらしい。良いんだか悪いんだか。俺がここで断ればそれがラインハルトにも伝わってしまうだろう。


俺の荷物を使用人に預け、シュバルトの後を追って応接室に向かう。どいつもこいつも俺に話を聞きたいだのなんだのと言うが、俺に特に教えてやれることはない。教師になって余計にそうなった気がする。立場と経歴から自ずとそうなるのは理解はできるのだけれど。


「それで、何の用です?」


「レイ先生は極秘部隊出身と伺いました。有事のために我々もそのような部隊を持ちたいと考えているのですが、選定や訓練についてお話を伺えればと思いまして……」


 それこそ、俺に聞かれてもという案件だ。俺が部隊を率いていたわけではないし、だいいちもしそうだとしても軽々と話すことはできないだろう。おそらくこいつもそれはわかっているはず。俺を舐めているのか、もしくはか細くとも情報が欲しいのか、兎にも角にも俺には話せることなど……。


「器用な駒の周りを色々なエキスパートで固めるのはどうです?」


 少なくとも特務分室はそうだった。実際アーツの飛び抜けた強さは他には真似できないが、器用でうまく動ける奴を中心に、強い魔術師を暴れさせるというのは悪くないはずだ。


「逆ではないのですね。強い者を器用な者が支えるのが良いと考えていました」


「それで上手く回るなら、俺の言ったことにこだわる必要はないでしょう。俺の場合はその方が動きやすい。それだけです」


 そういう意味では俺の研究室も、何の因果かそんな組み合わせになっている。少なくとも魔力は器用を極めたような男であるオルフォーズがいるし、周りの生徒たちも優れた才能を持っている。もしかしたら……。


「お話できてよかったです。ありがとうございました」


 お陰で可能性を見出すことができた。むしろ、礼を言うべきは俺の方かもしれない。


「こちらこそ。いい刺激になりました」

次回、670:帝都直行便 お楽しみに!

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