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660:歪んだ正義

「印象?」


「奨学金を使うのは貴族以外。言っちゃ悪いけど、僕たちの方が優秀だ。いつからか、奨学金は弱者のレッテルになっちゃったんだよね」


「ロプト君、そんな言い方は……」


 なるほど、事情はなんとなく理解した。オルフォーズたちのような人間がチャンスを広げるために奨学金の権利を譲ったものの、それが逆に貴族であるならば奨学金を利用するのが恥だと思われてしまったということか。


 そしてそれはいつからか、入学までの時点で差がついている平民を差別するものに変化してしまったと。在り方自体は正しいのだが、一方でやはりその差別的な意識は決して快いものではないだろう。


「へぇ〜、そういうことだったんですねぇ」


 と思っていたのだが、当の本人、デトルはほとんど気にしていないようだった。自分に何かしらの視線が向けられていることには気付きつつも、気に留めていなかったらしい。これに関してはロプトの勝利とでもいうべきだろうか。


 実際、俺も気にするかしないかでいえば気にしないだろう。実害があるのならばともかく、ただ単に煙たがられるだけならばさして問題はない。


 こういうのはむしろオルフォーズのような真面目な貴族ばかりが気にしていることなのかもしれない。彼らはそう在ることが幸せなのかもしれないが。


 特にデトルが嫌な思いをしていないとはいえ、彼ら信念ある貴族たちの行動が歪んだ捉え方をされてしまっているのは残念なことだ。俺もこの間彼の熱意を押さえつけるようなことをしてしまったし、どうにか報いてやりたいが……。


「旅費が問題なければ、デトルも許可はもらえそうってことでいいのか。とりあえず、全員いけるってことで話は進めるぞ」


 全員が頷く。計画書はだいたい読んでくれたようで、皆旅行に関しても前向きみたいだ。それもそのはず、ガーブルグ帝国は近隣、というか世界一の大国。その強さの片鱗に触れることができるとなれば彼らに行かない理由もないか。


「ガーブルグの軍人さんって、その、どんな方なんですか……?」


 どんなやつか、か。結局誰が彼らのへの対応をしてくれるのかはわからないが、全員気のいいやつではある。特に【影】とか【破】、それから【静】あたりは俺もかなり一緒に仕事やらをこなしたし、信用できる。


 それはおそらく向こうにとっても同じこと。互いによく知った人を指導役にしてくれるとは思うのだが……。


 少し気になるとすれば、四国会議で見かけた、【縛】の代わりとして立っていた男くらいか。全く俺と面識のない隊員をわざわざ寄越すことはないだろうが、もしものことも考えないと。


「俺の知ってる限りだが、変わってるけどいい奴ばかりだな。指導も俺より断然うまい。ああでも……」


 純粋な魔術師は少ないな、と言いかけて、やめる。これは隠しておいた方がいい。初めから彼らの強さについてネタバラシしてしまってはつまらないだろう。実際に目の当たりにして、自分で考えてみる方がいい。


「でも何なのさ!! なんかあたし怖くなってきたんだけど……」


「だ、大丈夫ですよティモニさん。一緒に頑張りましょう……」


 別にそこまで辛いことを強要するつもりはなかったのだが、怖がられてしまった。あの一言をもう少し早く、言わないべきだと気づけていればこんなことにもならなかったのに。もう少し考えて話さないと。


 そんなことを言っていても、ティモニも参加してくれるはず。未だ彼女のやる気はかなり高いし、朝の体力作りも継続しているのを俺は知っている。


「大丈夫だ、そんなに怖いことじゃ────」


 扉が軽く叩かれる。ドロシー先生やイゾルデ、リティアあたりのこの研究室によくきてくれる人の音ではない。害意は全く感じない。感じないのだが、ほんのり胸騒ぎがする。


「こ、校長先生!?」

次回、661:一大交流プロジェクト お楽しみに!

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