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64:ハイネ・フェイル

 ニクスルへと帰還した俺達は、通話宝石を通じて王に砲台の存在を報告し、追加物資の到着を待つ。王としてもあんな規模の砲台が設置されていることは脅威でしかないようで、かなり手厚い対応をしてくれた。


「うーん、国を打ち砕くかもわからない脅威を前にあの落ち着きようか。大物なのか、事の大きさのわからない阿呆なのか、まあどっちでもいいか」


 通話を終えてアーツが呟く。目の前ではないとはいえ、一国の王を阿呆かもしれないと宣うその神経の太さには感心する。


「確かに、そんなに大きな大砲があるってわかったら普通焦りますよね」


 長年争いがなかったせいで、感覚が麻痺しているというのはあり得るだろうか。俺達の知る限りこの地では神話以来戦争が起きていない。戦争の何たるかを、彼らは理解していないのではないだろうか。


「もしも知っていたとしたら?」


 一番考えたくない可能性を、キャスが口にする。王がこのことを知っている。それはつまり王が俺達を欺いているということ。


 俺達の力を測りたいのか、俺達を討ちたいのか。どちらにしろそれが本当なら迷惑でしかない。


「まあとりあえず、疑ったりするのは俺とキャスで引き受けるよ。みんなはとりあえず盗賊を殲滅することに集中してね」


 アーツの言う通り、俺のような者がいくら考えてもアーツのただの思い付きにも及ばないだろう。もちろん念頭には置いておくべきだが、それに囚われてはいけない。


 あんなものが建造されている以上、今までのように悠長には戦っていられない。ニクスルの防衛、砲台の調査、敵根拠地の発見の全てを並行して進めなければならない。


 協議の結果俺はハイネと一緒に砲台の調査に向かうことになった。ハイネの隠密性と俺のフィジカル面でのタフさが理由らしい。


 防衛はカイルとリリィ、調査はアーツとキャスで行うらしい。カイルとリリィの二人が守るのであればとりあえずニクスルは安心そうだ。


 脅威の排除が優先ということで、俺達砲台班が残っている装甲車に乗ってニクスルを発つことにした。ハイネとは二度も殺し合った仲だが、ジェイムとも上手くやれたのだ、今回も問題はないだろう。


「こうして話すのは初めてですね」


 早速出発し、すぐにハイネが口を開く。そういえば確かにまともな話をしたことがなかった。禁呪の影響で理性を失っていたから当然とも言えるが、それでも初めてなものは初めてだ。


「そういえば、これの操縦は魔術に含まれないんだな。アーツもハイネも問題なく扱えているみたいだし」


 禁呪持ちは他の魔術を使えない。ハイネは一部の魔術を例外的に使うことが出来るが、これの操作はそれには含まれないだろう。


「あくまで魔力が必要なだけですからね。魔力が操作盤に通せれば禁呪使いでも関係ないのでしょう」


 今回の任務では俺は完全に予防線、事が大きくなってハイネだけでは対処できなくなったとき用の安全装置だ。メインで動くのはハイネなのに、こうして操縦まで任せてしまっているのは少々心苦しい。


「リリィちゃん、私の事認めてくれますかね……」


 ぽつりとハイネが言う。リリィに良く思われていないことを気に病んでいるのだろう。正気を失った彼女は確かに恐ろしかったし、二人の溝は深いように思える。


 曰く、初めて、つまり俺が特務に入る前にハイネがリリィと出会ったのは2年前のことだという。


 なんでもディナルドの革命を起こす計画はその頃から進んでいたようで、ハイネはたびたび暗殺やら仲介で王国を出入りしていたらしい。


 【鏖殺の鎌(インビジブル・デッド)】による凄惨な殺害現場を訝しんだ王周辺によって依頼が来たらしく、『殺戮の人形師』という二つ名を付けられていた彼女に辿り着いたのだろう。


 ハイネ曰く、ディナルドの傀儡にされた人間は自律活動用に与えられた思考力が禁呪によって暴走し、あのような姿になったのだとか。


「理性のある、今の私はただお友達になりたいだけなんですけどね。あんな姿で迫られて、そのイメージをそう簡単に払拭することは難しい……ですよね」


 実際、正直俺もまだハイネを完全に信用できない。カイルは背中を預けて戦ったおかげか初対面の時の豹変っぷりも許容できるようになったが、はっきり言ってしまえばハイネにはまだ信用に足る根拠がない。


「別に無理をする必要はないだろ。ハイネは既に行動で信頼を示してるはずだ」


 好かれようと無理をして取り繕っても、それは恐怖をもたらしたあの姿と大差ない。下手に偽るよりも、自分がどんな人間なのか、行動で示すのが最も早い。


「禁呪を暴走させられていたことも、ディナルドの支配下に置かれていたことも、今のハイネが穏やかな奴なのもリリィは知ってる。今すぐ好かれなくとも嫌われることはないはずだ」


 そう。リリィはまだ小さいが物事をしっかり考えることのできる人間だ。今は嫌な記憶が尾を引いているとしても、事情を理解しているのであれば今のハイネは大丈夫だと認められるはずだ。


「レイさんは、見た目より優しい人ですね」


 悪戯っぽくハイネが笑う。まあ愛想のいい見た目はしていないし、性悪だとか思われるのも仕方のないことだ。これでも仲間や子供にはできる限り親切にしているつもりなのだが、第一印象というのは大きいだろう、お互いに。


 戦闘要員が少ないのもあるし今回は二日かけての道行きだ。時間だけは切り売りするほどある。これを機に少しでもハイネのことを知れたらリリィとハイネが仲良くなる助けになるかもしれない。


「そういえば、禁呪なんてどこで拾ってきたんだ? 一応魔術黎明期の産物なんだし滅多に手に入るものでもないだろう」


 禁呪は人が鍛え上げた魔術の結晶。魔力特性が混ざり合い抽象化してきた現代ではただ一つに特化したそれを見つけるのはかなり困難だ。人類は時代の流れと共に、利便性を手に入れて専門性を失っていった。


 俺の周りには禁呪を生み出せそうな者が妙に多いが、意図的に集めなければこうはならない。アーツがそういう基準で選んでいるのだろう。


 カイルみたいなのは禁呪を創れるいい例だ。空間把握系にのみ特化し他の魔術は凡庸、今は固有魔術程度だが成長すれば禁呪になり得る。


 そうして自分で禁呪を創れるのであれば苦労はしないが、他人のものを取り込むとなれば話は違う。


 禁呪の結晶、禁呪刻印を通してその技能を取り込み、浸透すれば禁呪の取得は可能だが、まず禁呪刻印を探すのが至難の業だ。秘伝をそう大人数に配る者はそうそういない。


 もちろん近親者から受け取ったという可能性も考えられるが、彼女の禁呪の持つ二面性と攻撃性はこの時代のものとは考えにくい。


 現代で発生する禁呪はだいたい大した力を持たず、戦闘に活かせるものもカイルのように応用する程度のものが基本だ。


「では、少し話しましょうか。私の禁呪、【静寂の一刈り(インビジブル・デッド)】について」


次回ハイネ一人称にするかどうかまよってます

もしそうだったら前書きに書きます


次回もよろしくお願いします!!

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