648:不器用
倒れた人影。報告は受けていたけれど、まさか軍の人までもが負けてしまうなんて。急にここにいることが不安になる。
でも、せっかく信じてここに送り出してくれたのだ。仕事はできるだけしなければ。なれていないけれど、この前練習した通りに……。
魔力を前方に大量に撒き散らす。波のように広がっていく魔力は自分の身体の一部のように、上手に操作できる。魔力密度が高くなければ、操作は難しくない。ここまでの練習でなんとか身につけた。
「光れ、爆ぜよ、閃明よ……!」
煮えた油のような魔力が、一瞬の輝きに反応して全部が爆発する。そして伝わる確かな手応え。これが伝え聞いていた相手の武器、空を飛ぶ、魔術を使う宝石というやつなのだろう。
よくわからないけれど、オルフォーズさんはそれに気をつけろと言っていた。最初の一撃で破壊できたようでよかった。あとはここにいるという二人を制圧するだけだ。
『君のことは先生が指名した。自信を持つんだ』
俺を励ますようなその言葉には、隠せない悔しさがあった。オルフォーズさんは強い。俺なんかよりもよほど。そしてなによりも戦いの場と、強さを求めている。そんな彼が、俺にこの場を譲ってくれた。これだけあれば、もう何もいらない。
状況が、言葉以上に全てを語ってくれている。あとは、やるだけだ。
「な、学生……!?」
「アエニアさんの予想にはあった。行かせなきゃいい」
身体から溢れてくる魔力を手のあたりに溜めながら、前に出る。今倒れている、この人たちは皆不意打ちされただけだ。手の内がわかっている今なら、どうにか持ち堪えるだけはできる。
『イゾルデ先輩のスピーチが終わるまで耐えてくれればいい。そうすれば、少なくとも相手の最大目標は打ち砕ける』
「はい!」
微かな違和感。だけれど、今はそれを考えている余裕はない。最初の実践だというのに、なぜか俺が、こんな不利なところに連れてこられてしまった。
戦闘のコツは近付かないこと。よくわからないけれど、男の方の魔術をもらうとここにいる兵士の人たちのように気を失うらしい。
女の方の魔術は攻撃を無かったことにする類のもの。先生によれば上限値はあるようだけれど、厄介なのは確かだ。ガンガン攻撃をぶつけて潰してしまえ、ということらしい。
「砕け、這い出づれ。赤熱以て塵芥と化せ!」
「マジかよッ……!?」
学校の校舎は、魔術に強くなるよう手を加えられた素材で作られている。これくらいの魔術ならば、撃っても問題ない。座学はどうにも得意ではないけれど、これは覚えている。『魔力物質論』の授業で言っていた。
俺のこの魔力ならば、構成が複雑ではない魔力でも威力が保証できる。構成が簡単な分、魔力の制御も楽だし連発も難しくない。余った魔力をぶちまけて、それに術式を通すだけ。不器用な俺でも簡単にできる。
でも、簡単なのはそこまで、男の方は多少余波を受けたようだけれど、その男を庇って魔術をそのまま受けたはずの女は完全に無傷。風の煽りを受けて少し後退したが、身体へは全く影響がないようだ。ならば……。
「砕け、這い出づれ。赤熱以て塵芥と化せッ!」
効いていないのならば、何度も撃つのみ。どこが上限なのかはわからないけれど、防げなくなるまで続けてやる。そうすれば、いずれは勝機が出てくるはず。
「おわっ!?」
爆風で視界が封じられた一瞬で【魔弾】が飛んでくる。こればっかりは仕方ないけれど、確かにレイ先生の言った通りだ。爆風や砂埃で前が視野が狭まると、相手からの不意打ちや運任せの攻撃を許してしまうことになる。
そして第二に、魔術の発生が読みにくい。これも授業で習ったのに。先生は魔術の発生、起こり、微量の魔力の動きや構成が変わるその気配で魔術を事前に察知すると言っていた。演習の時は、オルフォーズさんの魔術でさえその動きを感じることができたのに。
やっぱり、マズいんじゃ。俺一人でこんなところに来てしまったけれど。できると思って、言われて、来てしまったけれど。やっぱり本当は、ダメなんじゃ……。
折れかけた心にぐっと力を込めて、さらにへし折ろうと腕を伸ばしてきたのは、爆風が晴れたそのすぐ後、無傷で立つ女の姿だ。
「俺……俺は……」
次回、649:リモート・コントロール お楽しみに!




