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63:孤軍奮闘

 朝早く、毛布にくるまったままのリリィを抱えて装甲車に乗り込む。


 昨夜の襲撃で俺達がニクスルに来ていることが相手にとっておそらく確定してしまったため、カイル組を残して俺達が遊撃に出ることになった。


 防衛するにしては少々対物破壊能力の物足りない人員だが、俺達が戻るまでくらいの時間は確実に稼いでくれるだろう。できれば頼りたくはないが、ハイネの禁呪もある。あれを暴走させればあの程度の装甲は難なく切り裂けるはずだ。


 三日分の食料と魔力結晶を積み込んで西へ進む。一応の目標は既に占拠された村、エストへの到達だ。ここが本来の最西端であり、手掛かりがあってもおかしくない。


「なんで村を使うの? 村は場所が分かってるからどこにいるのか知られやすい気がするけど」


「人の住むところを、それもこんな雪の積もったところで一から作るのは大変だからな。もともとあるものを利用した方が手っ取り早い」


 相変わらずアーツに操縦を任せきりで暖まりながら、リリィとぽつぽつと喋る。アーツもこの短い期間でかなり慣れたようで、俺達と共に無駄口を叩けるくらいには余裕ができていた。


 エスト村まではまたも約一日。馬車や列車より速い装甲車でこれなのだから、ニクスロット王国は相当に広いのだろう。一面真っ白な景色のせいで距離の感覚がうまく掴めない。


 距離感が曖昧なのは敵装甲車の狙撃にも支障を来す。今のところ確実に当たる距離でしか撃っていないが、ずっとそれでいいという訳にはいかないだろう。場合によっては一か八かの射撃をすることもあるだろうし、これには慣れておきたい。


「レイくん、敵襲だよ。右方から3台、10秒くらいで射程内に入ると思うよ」


 アーツの報告を聞くなりハッチを開けて外へ飛び出る。車上に人影は見えないし、十分に引き付けてから確実に討ち取るのがいいだろう。


「アーツ、少しだけでいいが減速だ。奴らを追いつかせる」


『了解~! しっかり倒してね』


 屋根の上に取り付けてもらった通話宝石を通してアーツに指示を出す。通話宝石を自力で使えない俺のために、魔導機関の魔力を一部回してくれているらしい。


 車上に寝そべり銃を構える。俺達の減速をどう思ったか、追手はさらに速度を上げて迫ってくる。


 確実に当たる距離まで近づくのを待って引き金を引く。かなり近い距離で放たれた弾丸は装甲車を粉砕して雪を穿つ。


 先頭が撃破され引き返そうとする後続を次々に撃破し、ハッチを開けて車内に戻る。定員がいっぱいだから今回は捕えずに撃破しろと指示が出ている。


「やっぱり大したことないね。近距離とはいえ一切避ける様子もなく直撃じゃないか」


 言いたいことはわかる。銃を持っている相手に迫っているのだからそれで迎撃されることを想定しておけということなのだろうが、もしそうだとしてもあの場で咄嗟の判断では動けまい。


 あの速度の弾丸をあの距離で避けるなど俺だって難しい。尋常ではない威力だし避けられても余波で傷つくのは免れられないだろう。


「なあ、奴らが来た跡を追えば何かしら拠点に辿り着けるんじゃないか?」


 装甲車は地面から浮いているとはいえ魔力の圧で跡が残る。それが柔らかい雪ならばなおさらだ。それを辿った先にはその装甲車が出発した地点があるはずだ。


「それはそうだけどね、俺はまずこの先にある怪物の正体を確かめたいのさ」


「怪物? 大きい魔獣でもいるの?」


 リリィが首をかしげて問う。この先にいるというのなら、もう見えているのだろうか。見た感じそんなものは見当たらない。


「ああ、魔術的に隠蔽されているからわからないのか。大丈夫、今回は近付くだけさ」


 いつだかキャスに聞いたが、アーツの複数ある禁呪のうちの一つは一定の強度を下回った魔術を看破するというものらしい。一見すると大したことはないが、見えているものが偽りだと気付くことは想像以上に大切だ。


 どれだけ大きなものでも隠蔽魔術をパッチワークのようにかければ隠すことが出来る。つまり、時間と根気さえあれば何かの隠蔽、視覚改変なんてものは誰にでもできてしまうのだ。


 誰にでもできる割にその効果は強力で、俺も殺し屋時代に床に偽った落とし穴に落とされたことがある。


 アーツの目に見えているものは何なのだろうか。アーツが怪物と評するくらいなのだから、それは本当に『怪物』なのだろう。


「さあ、そろそろ見えるよ」


 アーツの声と共に一瞬で視界が切り替わる。そして目の前に今まで見えなかったそれが飛び込んでくる。


「なんだよ……これ」


 それは鈍色の塔。ファルス皇国の教皇庁よりも高いかもしれない。天を衝くようにそびえる巨塔はアーツが怪物と呼ぶだけの迫力を備えていた。


「魔力砲さ、多分ね。神様でも殺そうかって規模の代物だね」


 これは下手をすると【奉神の御剣】の神話顕現状態、【天衝く白雷の槍(アスタ・カエルム)】すら凌駕する威力になるかもしれない。


 もちろん魔力効率など諸々の事情も踏まえれば神話顕現の方が断然上手だろうが、それでも一撃の威力だけで言えばこれを凌ぐものは他の聖遺物を含めても多くないだろう。


 神代の力の結晶をも凌駕する怪物に恐怖を覚えながらも、俺は一つのことを確信した。


 現在この国に蔓延る盗賊は、おそらく盗賊ではない。力で人から物資を奪い生活の糧にする彼らとは違う。


「西を制圧した理由は、これだったんだ」


 こんな大きなものを作るには、広い土地と誰にも邪魔されない環境が必要だ。それが破格の力を持った兵器であればなおさらだ。


「あーあ、やっぱり相当数陣取ってるよね」


 音で接近に気付いたのか、何らかの手段で察知したのか、巨砲の麓には多くの盗賊が並んでいた。


 合図とともに一斉に発砲される。ただの猟銃と言っても数が数だ。直撃を喰らった正面から、少しずつ車体が歪んでいく。


「これはさすがにまずいね、撤退だ!」


 アーツが勢いよく車体を180度回転させる。このまま弾丸を浴び続けていれば近接戦闘に持ち込む前に装甲車が死ぬだろう。そうなれば俺でもあの弾幕は抜けられない。


「あれが本拠地なの?」


「あそこは砲台の機能しか果たしていないだろうな。本部は別にありそうな気がする」


 軍団の指揮と砲の制御を両立するにはあまりに建物が小さすぎる。そして詰めているのはほとんどが戦闘員のようだし、ここは超重要な基地の一つといったものなのだろう。


 ハッチを開けて【フォッグ・スモーク】の込められた宝石を後ろに投げる。煙が満ちて弾幕が薄くなったところで射程の外に出る。


 まだ車体は無事だが、これ以上背後に攻撃を受けると魔導機関が破損しかねない。万が一そうなれば雪の中で置き去りか殺されるかのどちらかだろう。


 王城のハイネまで連絡をして、替えの装甲車を手配してもらうことになった。俺達が再度出撃するときには到着していることだろう。


「うーん、ここはとりあえず後回しだ。他の拠点を探ってみようか」


 何も見えない虚空に、来るときはなかった威圧感を覚えながら俺達はニクスルへと撤退していった。

先日初めてレビューをいただきました!!


更新速度は依然ゆっくりですがこれからもたくさんの人に読んでもらえるように頑張ります、これからも応援よろしくお願いします!!

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