633:イゾルデの秘策
友達なのは前から知っているが、こんなふうにあらたまって会うなんて何か特別な用でもあるのだろうか。特別な用といえば、俺も関係のない話ではない。発表会があったか。
「そう、なんですかね……? 私にもよくわからなくて……」
俺はなかなか前に出にくいが、ハイネはニクスロットに行った時にもイゾルデの手伝いをよくしていたし、そういう関係で呼ばれたのかと思ったのだが、ハイネの方に心当たりがないらしい。
俺としてもイゾルデの要件をわざわざ根掘り葉掘り聞いて探るつもりはないのだが、やはり少し気になる。なにせただ遊ぶだけなら学校にハイネが行く必要はない。
「美人先輩と友達の女の子と友達の先生、何者……? とりあえず皆にバラしておくか……」
なにやらロプトが不穏なことを言っているが、研究室の皆にこれを知られたところで大した問題ではないのだろう。ティモニあたりは嫌な顔をしそうだが。
俺がイゾルデやハイネと知り合いだというのも、考えてみれば変な話ではあるか。俺はどう見ても堅気ではないが、二人はそうではない。
イゾルデはロプトの言う通り整った顔をしているし、ハイネも可愛らしい表情をする。特務分室に入ったばかりの頃は全身至る所に包帯を巻いていたが、今はそれもなくなった。とても殺しをしているようには見えないだろう。
どんなに「普通」に見えても、二人とも少なからず血には接点がある。イゾルデですら、その本懐はエルシの助手。死に触れることもある。俺よりも見かけで判断できない分厄介かもしれない。
「もしかして、競技祭のことじゃないですか……?」
デトルが手を挙げる。そうか、イゾルデはハイネの実力を知っている。戦術を強化するためにハイネを呼び出したということも考えられるだろう。
基本的に王都校は学生と教職員以外は立ち入り禁止だが、申請することで関係者を敷地内に入れることができる。イゾルデは以前もエルシを図書館に呼ぶためにその制度を利用していたはずだ。
「確かに、聞きたいことがあるって言っていたような……」
デトルの予想が当たったか。つまりは外部から教師を呼び寄せて部隊の強化をしようということだろう。イゾルデは経験も実力もあるが、毎年メンバーは入れ替えられる。イゾルデを除いた4人の訓練が主な目的だろう。
これが連覇を確実にするためのイゾルデの秘策というわけか。なかなかまずい状況だ。そもそも相手は凛雷帝。入学直後から競技祭を支配する王者だ。そこにハイネの指導まで加わったら。
俺の研究室の面々も十分に勝ちうるだけの力はある。だが、イゾルデを筆頭に過熱しつつあるこの状況で、負けずに勝ち残れるかどうか。
なにより、本戦が始まってからも俺たちには活躍しなければいけないという制約がある。必ずしもイゾルデたちに勝つ必要はないが、優勝するのが確実だろう。
「じゃあ、レイさんとも勝負ってことになりますね」
「ああ、そうだな」
可能であれば避けたかったのだが。これで俺が負けようものなら生徒たちの評価が、『戦闘術』の効果がまるでなかったかのように見えてしまう。それだけは避けたい。俺にも意地がある。簡単に負けてやるわけにはいかないのだ。
と、いうのは簡単だが。ハイネは少なくともイゾルデよりも強い。つまり単純に俺と同じやり方をしたとしてもイゾルデに伸びしろがあるということ。そこを補強するだけでもかなりの戦力の増強につながる。なかなか厳しい。
「大丈夫です、先生。俺たち頑張りますから!」
なんとも頼もしい言葉だ。教師になって一つ、気付いたことがある。俺がいくら頑張ろうとも、結局本人が動かなければ何も変わらない。だからこそ、自分からこうして何かしてくれるというのならそれほど頼もしいことはない。
「任せたぞ、お前ら」
次回、634:デトルの秘策 お楽しみに!




