618:ハッキング
目指すは魔術競技祭。
しかし事態は思わぬところからその進路を侵す。
学院を飲み込まんとする怨嗟を祓うのは。
第二部 ep.2 悲しみと勇気と、覚悟のリーベ
第9章 《孤月崩落迷猫》 開幕。
「成果はいかがですかな、レイ先生」
「さあ。まだそういう段階ではないんで」
名前は忘れたが、戦術科の教師が嫌味っぽく聞いてくる。おそらく俺がアンガーレに絡まれたのを聞いて引き摺り下ろそうとしているのだろう。実際俺は少し目立ちすぎた。反感を買うのも仕方のないことだろう。
とはいえ、こんな会議の場でそんなに敵意を向けなくてもいいだろうに。出るわけのない成果を聞いてどうしようというのか。そう言うのなら生徒全員の魔術の腕を、三日で上達させてみろ。
とはいえそんなことを言っても角が立つだけ。俺が暴れれば俺の後ろについてくれている皆に迷惑をかけることになる。ティモニにも言ったが、強くても自分を縛るものはあるものだ。
こいつら全員より、それこそ全員でかかってきても俺の方が強いのに、多分。いや、真面目に取り合うのがいけない。どうせ俺に関係のない話ばかり。適当に聞き流しておけばいいだろう。
つまらない議題、興味のない自慢話。使いもしないペンをくるくると回しながら聞き流す。早く終わらないだろうか。
「ええと、最後にですね、城の方から警告が来ていますのでご連絡しますね」
城からの警告。これは聞いておいた方が良さそうだ。他の適当な教師ではなく校長の話だし。何か気をつけるべきことがあるのなら、知らなかったでは済まない。
「最近王都の、特に王立の施設で管理用魔術に不正侵入される事件が多発しているようです。未だこの王都校には来ていませんが、不審な人物には気をつけてくださいね」
違法魔導具の次は不正侵入か。管理用魔術についてはよくわからないが、多分アレだ。城や大きな施設、あとは街灯なんかにも取り付けられている決められた動きをする魔術。今のところ大きな問題にはなっていないようだが、割と大きな問題なんじゃないだろうか。俺の方にも個人的に連絡が来るかもしれない。
「なあ、ドロシー先生はどう思います?」
「少々迂闊ですねぇ。とはいえなかなかに技術のある魔術師でしょう」
やはりそうか。詳しいことはわからないが、警備や侵入対策も十全なはず。そこにちょっかいをかけられるというのなら、相当の実力者ということになる。
この王都校にもそういう侵入されたらまずい領域もあるのだろうか。まああるか。確か演習場にも魔術が外に漏れないように、しっかりと防御はされている。
俺たちが安心して魔術をバカスカ撃てるのもそういうシステムがあるからだ。もしそれを滅茶苦茶にされたら。結構困りそうだ。他の面々がどう捉えているかは別として、俺は俺で警戒しておこう。
どうせ授業は一つ、研究室でもやるべきことは少ない。俺の方でも情報を集めつつ、可能であれば犯人の正体にも迫りたいところだ。毎度エルシやアーツの手を煩わせるわけにもいかないし、頑張らないと。
「あ、そういえば……」
バタバタしていてジェイムに会いに行くのを忘れていた。オルフォーズをあそこまで育てた技術、しっかり盗まないと。犯人の確保も大事だが、俺の今の本業は一応教師。もう少し頼れる先生になってやらないと教わり甲斐もないというものだろう。
何か酒でも持って行くか。俺はあまり飲まないから詳しくないが、なんとなくラベルや名前は把握している。ジェイムと養父が好きな酒を持って行くとするか。
次回、619:先達 お楽しみに!




