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612:ティモニのこと

 どうしようかと困ってしまいアーツを見る。こんな男連れて行っても足手纏いになるだけだ。使える奴なら俺たちのことを多少なりとも苦戦させているはず。


「何があっても助けない、そういう条件ならいいんじゃない?」


 一応邪魔にはならないが……。とはいえ何を言っても着いてきそうだしこうして条件を突きつけておくのもいいかもしれない。一旦条件を飲ませて、都合よく動くしかないだろう。


 とはいえここまで殺さずにおいたこの男を、本気で見殺しにするわけにもいかない。俺もそれくらいはわかっている。面倒なことになりそうだ。


 アインザーに森の外まで案内させると、馬に乗って王都に向かって出発する。


「なぁ、ティ……じゃなくて、お前の妹のこと、聞かせろよ」


 ずっと気になっていたのだ、彼女がなぜ頑なに『サボる』ことに拘るのか。積極的に参加して欲しいというわけではないが、しかしせっかくならば皆ともっと仲良くできたらとは思う。


 それにルーチェルの件もある。なかなかに優れた才を持つメンバーが集まったとは思うが、それでも実質4人で勝つのは厳しいだろう。できることならティモニにもある程度の強さは身につけておいてもらいたい。


「あの子は……とても真面目な子でした。現当主の母の言いつけをよく聞き、勉学も魔術も優秀。少し前までは私ではなくあの子が当主を継ぐと目されていました」


 やはり素養はあったわけだ。でなければ王立魔術学校、それも最高峰の王都校に入学できるわけがない。


 その積み重ねを、今彼女は必死に殺そうとしている。そう、それだ。その理由が知りたい。


「でも、いつの間にか心が折れてしまっていたんでしょう。気が付いた時には家業も勉学も魔術も、全てを投げ出し家から出て行ってしまいまし

た」


「きっかけに、心当たりは?」


「ありません。あの子は頑張っていた、それゆえに、心が折れてしまったんでしょう」


 急にぱったりと、全てから逃げたくなったということか。積み重なった負債が、遂に逃走という形で表に出た、そういうことなのだろう。


 しかし、それでもティモニは学校に入った。今まで疑問だったが、その理由も今ならわかる気がする。


 彼女は逃げる場所が欲しかったのだ。家族に認められつつも、家族の目から逃れられる、そんな場所が。王立学校ならば文句のない居場所だし、そこでなら彼女は縛られない。


そんな彼女にオルフォーズは眩しすぎたか。しかし、どちらが悪いという話でもない。うまい具合に和解できたらいいのだが。俺が関与できることはあまりないし、こればかりは本人たちがいい具合に歩み寄ってくれることを期待するしかない。


「だから私は、あの子に居場所を作ってやりたい。あの子が家のことなど気にしなくていいように、私が家を継ぐべき優秀な人材になって、不安を取り去ってやりたい。そのために、今まで……」


「いい兄貴だな」


「そう、でしょうか……?」


 才覚においてはティモニの方が圧倒的に上、それを覆すだけの努力を、自分ではなく人のためにしてきたのだ、褒められてもいいだろう。


 ティモニのサボりが込みでも、今は当主を継ぐべきはアインザーであると思われているのならば彼の思惑通りだ。現状成功していると言っていいだろう。


 あとはティモニを救い出すだけ。結局ここに辿り着くのか。これさえ成功させれば、全てがうまく回り始める。逆に、失敗すれば。


 想像もしたくない。こう、一見小さな任務に大きな責任を乗せるのがアーツは得意だ。確かに気持ちは引き締まるが、プレッシャーは計り知れない。胃に穴が開きそうだ。だが、もう戦闘は直前、そんな泣き言を言っている暇はない。


「絶対救出するぞ」

次回、613:人質確保 お楽しみに!

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