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59:王族

「アイラの使者の方だね。よくぞいらっしゃった」


 30歳くらいの男がにこやかに現れる。服装と周りの人間の態度からしてこの男が国王だろう。威圧感こそあまりないが、異様なほどの落ち着きを感じさせる。これまで敵意、警戒心を剥き出しにしていた他の者と違い、穏やかな雰囲気だ。


 お互いに軽く挨拶を済ませ、同盟の内容についての協議に移る。俺達は政治はよくわからないし、全てアーツとキャスに任せることにしたが、細かい調整以外は順調に事が進んでいるようだった。


 アーツに教えてもらったが、この同盟の最大の目的はアイラ王国北の海の制海権を握ることらしい。革命、戦争と度重なる争いによって国全体が疲弊している今、攻められにくい状況を作ることは何より大切だ。


 造船、操船技術においてアイラとガーブルグは大きな差はないが、物量差は比較にならない。現在アイラで即戦闘に利用できる船は300程度だが、ガーブルグはその3倍はあるという。


 そこで海上戦闘をニクスロット船に支援してもらい、地上での戦闘に人員を割くつもりなのだ。


 長い間保たれてきた平穏が崩れた今、対話をするにしても最低限対等なパワーバランスを作らなければ待っているのは相手にばかり都合の良い半ば支配のような関係だけだ。


 だが、ニクスロット王国の戦力は思った以上だ。あの嵐の海を渡る船に、超高速の雪上装甲車。強力すぎてむしろアイラ王国の立場がなくなりそうだ。


「一つ、いいかね?」


 ほとんどの内容が決まったところで、国王が話を始める。どうでもいいが見た目の割に言動が妙に老人めいている。貫禄とか言われればまあ一応納得できるが、中身が別人のような感じがする。


「我々は今国内に跳梁する盗賊集団に完全に兵力を持っていかれてしまっていてね。もともと争いなどない国だから、兵力は必要最低限だったんだがこの状態では有事の際に兵を出撃させられない。情けない話だが、彼奴らの掃討を手伝ってはもらえないだろうか」


「陛下、異国の者に頼ると!?」


「我々がおります、必ずや盗賊を討伐してご覧に入れましょう!」


 相談をしていなかったのだろう、側近たちが慌てて王を止めようとする。前向きに同盟の話が進んでいるとはいえ、他国の人間にこんなことを頼むのは普通に考えて非常識だ。


「君たちが賊を撃退したと聞いてね。我らの戦力では食い止めるのが精一杯なのだよ」


 話を聞けばこの国でまともな陸上戦ができるのは雪上装甲車のみ。歩兵を出すにしても一度停車させて脱出しなければならず、そんな隙があれば攻撃されてしまう。


 装甲車同士の戦闘では勝敗が決まりにくいのは納得がいく。大した兵装を持たない装甲車では突撃くらいしか相手にダメージを与えられないからあの金属装甲を破る有効打がなく、両者軽微な損害で帰還することになるのだろう。


 だからといって俺たちがあれを相手しきれるだろうか。跳梁する盗賊を遊撃で潰していく分には問題ないが、おそらく存在する本隊との戦闘は難しいだろう。


 またも物量だ。個々の能力で圧倒的に上回ろうとも、数の力を覆すにはその個々が複数必要になる。


 せめてあの魔導機関を一撃で破壊できる武器か魔術が必要だ。俺の銃ならばおそらく可能だが、一発ずつ弾を交換しなければならず数が稼げない。さて、この状況でアーツはどうするのだろうか。


「ええ、引き受けましょう。私たちにお任せください」


 まあ、言うと思った。そしてアーツがやるというのだから、俺達は絶対に盗賊を殲滅できる。腹の底で何を考えているのかは一向に知れないが、出来ないことはしないしさせない男だ。何か策があるのだろう。


 討伐のために人員と物資の提供を約束してもらい、用意された寝室へと向かう。広間を一つ使わせてくれるらしく、作戦会議はここでできる。場所は変わっても、なんだかんだすることは変わらない。


 廊下を歩いていると、王に似た男とその側近らしき者たちとすれ違う。一見王とそっくりだが、雰囲気は全然違う。王は限りなく、それこそ不気味なくらいに温和な気配があったが、この男はその逆。ここに来るまでに向けられてきた敵意を凝縮したくらいに鋭い怒りのようなものを感じる。


 だが、これは俺の気のせいだろうか。敵意、怒りの奥底に恐怖と願いが眠っているように見えるのは。悠久の孤独の果てに辿り着いた祈りだろうか。俺には理解できなかった。


「下兄様が申し訳ございません。どうにも外国嫌いのようで」


 突然の気配に身体補強フィジカル・シフトを最大限まで引き上げる。すぐに敵ではないことに気が付き解除する。確かに気が緩んでいたのと王に似た男に気をとられていたのはあるが、カイルも驚いているあたり尋常な気配の消し方ではない。


「申し遅れました、私王女のクレメンタインでございます。以後お見知りおきを」


 格好からしても間違いなさそうだ。侍女より上質な服を着ているし、ここでわざわざ嘘を吐く必要もないだろう。


 どうやら現在ここにいる王族は王、弟、クレメンタインの三人だけのようで、内治派の王と外征派の弟で意見が割れているらしい。先王が生きている間は兄弟仲もよかったようだが、それも現王の即位と共に崩れたとか。


「私は下兄様と歳が離れているので良いのですが、上兄様と下兄様は30しか差がございません。王位争いにならないといいのですが。……すみません、関係のないことまで」


 俺は耳を疑った。否、俺だけではないだろう。


「ちょっと待ってくださいクレメンタインさん、歳の差30と仰いました? わたしにはそんなに離れているようには見えなかったんですが」


 一番先にハイネが口を開く。そうだ、あの見た目でその差はあまりにもおかしい。何らかの魔術で身体の変化を止めているのか。


「上兄様は211歳、下兄様は181歳なので差は30ですよ。確かに見た目はほぼ同じですからね」


「ねぇ王女様、ニクスロット王国の人間の寿命ってのはどれくらいなんだい?」


「普通の方は200強、私たち王族は少し長くて300前後といったところでしょうか。もしかしてアイラの方は違われるのですか?」


 愕然とした。アイラ王国とファルス皇国、文化は違えど同じ土台で生きている人間が住んでいるからそこに大きな衝撃はなかった。


 しかし、この国は根底から俺たちとは造りが違う。何故嵐に閉ざされた孤島で、外との関係をほとんど断って過ごしてきたのか。その答えは単純だ。立っている地平が違うから。嵐という形で可視化された、大きな隔たりがあるから。


「俺達は長生きしてもせいぜい80かそこらさ。普通の人間は50か60で死ぬ」


 アーツも笑顔こそ崩していないが、戸惑いと混乱を隠しきれていない。だって、何もかもが違うのだ。俺達の人生の半分以上の30年を、『たった30年』と言えてしまう精神性の持ち主なのだ。


 確かに王位を継いでから30年では短すぎる。俺達で言えば10年にも満たない期間だ。何かを為すには物足りないだろう。


 とりあえずこれ以上の話を聞くと脳がキャパシティを超えてしまいそうだから、一度クレメンタインとは別れて俺達で今後の方針を決めることにした。


 クレメンタインが俺達に好意的に接してくれたのは、実は今日一番の収穫かもしれない。王が全面協力を約束してくれたとはいえ、それだけではまだ不十分だ。こうして王族に興味を持ってもらえたことで何か利益が発生することも十分に考えられる。


「きっと、この島の人たちは神もしくはその眷属の血がかなり濃いんだろうね。ここまで誰の魔術行使も確認できなかったけど、魔力量は少ない人でも大陸の平均の倍はある」


「もしかして、王が内治派なのは『神に近い』という優位性を人の行き交いによって失いたくないからなのかもね。国民全員が切り札になり得るから」


 ニクスロット王国に来てからアーツとキャスの独壇場だ。年の功、なんて言ったらキャスに殺されそうだが、俺達より深い事情を知っていそうだ。カイルとリリィは「もう訳が分からない」といった様子でお茶を啜っている。


 考えることが能わないというのなら、俺は戦うことしかできない。漠然とした不安だが、俺達は、どこへ向かうのだろうか。


なんだかんだで年が変わってしまいました

できるだけ今のうちに書き貯めたいです


次回もよろしくお願いします!

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