602:新式装備
「うーん、ちょいと窮屈だな……」
まだ着慣れていないからというのもあるし、使っていくうちにどうにでもなるだろう。俺がに合わせてかなり手を加えてあるようだし、使い心地は良さそうだ。
しかし、こんなものを俺が着てもいいのだろうか。俺なんて服をすぐ粗末に扱うし、魔術を受けるせいですぐにボロボロにしてしまう。気を付ければいいと言われればそれまでだが、そこまで簡単な話でもない。
俺の身体は確かに魔力を喰らい尽くせるが、反面広範囲の守りやらは向いていない。とにかく触れないことにはどうにもならないから、魔術が身体のどこかに触れるまで、それこそ【魔弾】であっても場所によっては服を貫いて肌に触れるまでは消えない。戦闘が終われば穴だらけなんてこともあった。
「お、いい感じだね」
「まあな。だけどこれが本番じゃないってのはどういうことだ?」
そう。アーツは俺たちに新しい服を手渡す前に言っていた。これはあくまで前祝いだと。これ以上、俺たちに何があるというのか。
アーツの言う通りに用意された部屋に入ると、そこには見慣れたようでどこか目新しい装備がいくつも置いてあった。その全てが、俺たちそれぞれのためのものだと一瞬でわかる。
「正直に言うとね、今回の作戦が成功したところでおそらく違法魔導具の流れは止まらない。多くの悪党が、少しずつ魔導具に頼る方が楽だし強いと気付き始めているところだろうね」
今までの魔導具の在り方は主に魔術師の補助、人によっては使う魔術師を馬鹿にするような流れだってあった。しかしそれは簡単には威力を上げながらの安定した運用という技術が確立していなかったから。
あくまで魔導具は低燃費低威力が常識だった。しかし、今回の一件でそのイメージは崩れ始めている。違法な威力の魔導具を買ったのはおそらく俺たちが潰した一団だけではないはずだ。
「だから、不法には不法で対抗しようと思ってね」
「うわ、びっくりした!」
部屋の隅に座っていたのはミトラだ。置いてあるモノに紛れていて気付かなかった。
「今まで魔導工学には触れてこなかったんだけどね。ふふ、確かにこれは、この時代を変えられるほどの分野かもしれないね……」
とりあえず、ミトラが押収した魔導具の設計を利用しつつ新しい装備を作ってくれたということでいいのだろうか。
「ま、レイくんの分はほとんどないけどね〜。キミちょっと特殊すぎるのよなぁ〜」
ぶつぶつ言いながら俺の頬をぺちぺちとたたくミトラ。俺の分と言われたのはおそらくこの妙に口径の大きい銃だろう。
近くに置いてある弾らしきものと『仕様書』と書かれた紙をポケットに入れる。仕様書は読んでおくこととして、今度の実践でその真価は見定めさせてもらうこととしよう。
アーツによれば敵の本拠地は王都ではない。王都から南東にしばらく進んだところにある深い森だ。まさかそんなところに居を構えているとは思いもしなかった。
人がなかなか通らない地域に拠点を用意するというのはよくあることだ。だがあの森は如何せん王都からは近すぎる。付近を通る商人や旅人も多いから露見する危険が高いのだ。そんな視線を掻い潜れるような実力者、と考えていいのだろうか。
アーツも注意しろと言っていたし、今回はこれまでの任務のようには簡単に済むものではないかもしれない。
ここのところ弛んでいると実感することばかりだ。ティモニのこともそう。この作戦が成功し次第すぐにでも彼女の捜索に少しでも貢献しなければ。
「そう気負わなくてもいいさ。なにせ、次の作戦には俺も参加するからね」
次回、603:自然の迷宮 お楽しみに!




