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58:ニクスロット王国2

 雪上装甲車の車内は思った以上に快適だ。揺れは少しあるが基本的に魔力の圧で少し地面から浮いているために凸凹や障害物にあまり左右されない。相変わらず視界は狭いが雪を跳ね飛ばしながら進むのは心地良い。


 やはり定員は運転手も合わせて4名だそうで、リリィハイネキャスとカイルアーツ俺の二手に分かれることにした。風景もさすがにすぐに見飽き、使った弾丸の装填を終えるとカイルに身体の異常がないか確認してもらうことにした。


 本来ならば俺に触れれば俺のことだけを把握することもできるのだが、俺の身体のせいでカイルの魔術を消してしまうからそれはできない。


 カイルの固有魔術【キャッチ・ザ・ワールド】の有用なところは対象に魔術的干渉なしで空間把握が行えることだろう。カイルの空間認識力を極限まで強化しているという仕組みらしいが、普通ならばいくら魔力をつぎ込んでもそうはならない。カイルの突出した才能があるからこその魔術ということだろう。


 このまま止まらず王都に向かうようだが、進んでいくとふと白一色だった景色が変わってきていることに気が付く。鮮やかな緑、陽光を思わせるような穏やかな色が山の向こうに見えてきた。


「この国にも植物の育つ土地があるのか」


 明らかにあれは植物の色だ。それに規模も建物と言えるようなものではなく、大地と形容するのが相応しい。俺の問に運転手が答える。


「あれは国王陛下の御力の賜物ですよ。王家に伝わる魔法で『春』の領域を作られているんですよ」


 聖遺物か、もしくは魔力特性の偏りによって生み出された術式か。魔法というくらいだから古代から残っているものなのは確かだろうが、なかなかに便利な代物だ。この雪に満ちた大地を春の陽気に変えるなどそうそうできることではない。


 さらに王都に近づいたことで分かったが、『春』の範囲は王城らしき大きな建物を中心とした円形に成っており、その切れ目もはっきりしている。そのせいかこの領域そのものが異界になっているような、そんな考えが俺の頭を過った。どこか現世と隔絶されているような、そういう雰囲気がしたのだ。


「さながら辛苦を破却する理想郷という体だね。なるほど確かに素敵な土地だよ」


 理想郷。アーツも上手い例えをするものだ。確かに雪と嵐に覆われたこの国では、そよ風の吹く温暖な土地は理想的だろう。逆に理想が体現されているのはここだけという皮肉をこっそり織り交ぜるあたりが余計にアーツらしい。


 そしてついに『春』へと突入する。雪の代わりに色とりどりの花弁が舞い、生い茂る草や流れる水は清らかだ。アイラ・エルマ叙事詩に登場する聖地の挿絵がこんなイメージだったような気がする。ある意味聖地も俗世との隔離という意味では結界や異界と同じようなものだろう。


 さすがに広さ的には『春』は『冬』には遠く及ばず、すぐに中心の王城に辿り着く。石造りの円形の城。アイラやファルスのように城下町や城壁はなく、ただ王の居城としての機能を果たしているだけに過ぎないように思える。もっとも、嵐がどんな城壁よりも強固な護りになっている気もするが。


「へぇー、アイラで見る遺跡みたいな様式の建物だねぇ。外との交流がなかったから影響がなかったのかね」


 なるほど、俺はあまり遺跡などは行ったことはないが、キャスなら色々見ていてもおかしくない。


 さすが『春』らしく、空気は暖かく心地が良い。微かに花の香りの混ざる風と舞い散る花弁。確かに、これは理想郷と形容するのが正しいだろう。生涯をここで過ごせるのなら、どれだけ幸せか。ただ一つ、これが小さな箱庭の中だということを除けば。


 人が生きる上で許容できる世界というものは、それぞれに限度があると思う。それはただ広さとか範囲とか、そういう意味の世界ではなく人との繋がりも含めた世界で。人によって大きさは違えども、誰もが自分の世界を持っている。


 ただ俺は、『春』は人が持つには狭すぎると思うのだ。広すぎても抱えきれずに破綻してしまうが、狭すぎる世界は心を知らず知らずのうちに圧迫する。その末路はただ圧死だ。貧民街という狭すぎる世界から一歩も外へ踏み出せなかった者がそうして死んでいったのを、俺は知っている。


「ブーケ……いや銀細工かな」


 アーツが何やら妙なことを呟いている。キャスがいろいろと意見しているあたり二人の間では意味が通じているのだろう。自身の範疇に収まらないことをいくら考えても仕方がない。どうせこういうのは存在を忘れた頃にわかるのだ、今は無視して問題ない。気にするのは身体と心に悪い。


 城内に入って正面、まっすぐ行った先に円形の小さな庭園があるのが見える。ちょうど城の中心にあたる部分だ。あそこが気候操作魔法の起点であり要所であることが直感的にわかった。


「王の執務が落ち着くまで、少々お待ちください」


 侍従に案内され応接室に通される。椅子に全員座ることができなかったので、リーダーであるアーツと次点のキャスに座ってもらい、他は立っていることにした。荷物は泊まる予定の部屋に運び込んでもらったし、身軽でむしろいい。


「さて、やっと監視がなくなったか」


 ついさっきまで空気を張りつめさせていた敵意がやっと消え、思わず呟く。船に乗ってからずっとそうだった。もはや牽制のために分かりやすく尖らせているのかと思うほどに見え透いた敵意。それとも、疑いの心を隠す術を知らないのか。


「未知は時に恐怖を生む。私も、孤児院の外に出るのがしばらく怖かった」


 本島に到着してからほとんど口を開かなかったリリィがぼそりと言う。気が付かなかったがリリィ本人がそれに近い状態なのだろう。気付かせない努力をしていたのだろうが、それをフォローするのは俺達年長者の役割なはずだ。過ぎたことは仕方がないが、少し気を付けよう。


 そうだ。あまり意識してはいなかったが、俺達のいるこの国は、まだ味方になると決まってはいない。むしろ問答無用で処刑……はこの面子だとない気がするが、襲撃されることだって容易にあり得る。


 ただ追われるだけならまだいいが、この国には逃げ場がないのもかなり痛い。ファルス皇国から脱出するときは馬車だけで済んだが、島の周辺を覆う雲と『冬』の雪に退路をことごとく断たれてしまうせいで、安定した戦闘を行おうとするとここから離れることができない。


 先程はどうにかなったが、雪上装甲車もかなりの脅威だ。リリィとアーツが本気を出せば何とか捌けるが、あれは量産されている。討ち漏らしが発生した場合最悪体当りで俺達は壊滅する。あの速度と硬度、あれはただ走らせるだけでも十分に兵器となり得る。見た限り大した攻撃手段はなかったが、ありのままであれはそれすら果たせるのだ。


「未知って話は置いておいて、この国のおかしいのは明らかに魔導工学の技術だけが進歩しているって点だよ。一般民の家は見たところ石造りではあるけどアイラの辺境よりも簡素で粗末な構造だった。俺はここに思惟があると思う。為政者以外の何者かのね」


 合理的で良いのだか、機械的で悪いのかは分からないがアーツは相変わらず冷静だ。感情の考察も必要だが、今すべきは事実を整理しそこからできる限りの方策を考えておくことだ。感情や想いに頼るのは真実が存在しない場合か、何をしてもどうにもならない時でいい。


 確かに、アーツの言うとおり。あれだけの技術がありながら、その他生活水準などは直轄領も含めた大陸と比べてかなり劣っている。魔導工学のみが抜きん出て発展するというのは不自然だ。


 そもそも魔導工学が成ったのは約300年前なのに、それまで島を出られなかったはずのニクスロット王国が大陸の魔導機関をベースにした動力を使用していること自体おかしい。魔力特性などの関係で島から出られた者がいたにしろ、これだけの技術がありながら魔導機関をただ乗り物の動力にしか使わないというのも変な話だ。


「国内に、国の発展を望まない者がいる……なんてこと、あるんすかね」


 それから導き出されるのはカイル言う通り、それくらいしか思いつかない。おそらく王か王に近い誰かが意図的に技術を独占、または隠匿して必要以上の開発を阻止している。なぜそんなことをする必要があるのか。


「まあとにかく、王様と話してみないことには何もわからないわね」


 足音を聞く限り5人。ちょうどよく王の執務が終わったようだ。話を聞いてから考える、というのは楽観的過ぎるとは思うが、話を聞かないことには手の打ちようがない。はなから敵対するつもりはさらさらないが、備えられる事態には備えておかねば。


 足音が止まり、応接室の扉が開く。


ここ最近更新が安定しなくて本当にすみません!

絶対に更新自体は継続するのでお待ちいただければと思います。

できるだけ執筆の時間を捻出します、これからも応援よろしくお願いします!

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