580:未熟と不満
「んで、二人……と、あとデトルとロプトだな。なんて言ったらいいだろうか」
問題点を挙げろと言われれば、いくらでも挙げられる。だがその多くが練度不足、経験不足によるものだ。今どうこう言ってすぐ解決するものではないが、その一方で放置していい問題でもない。とりあえず、直近の課題から潰させていくしかないだろうか。
「えーと、まずはデトル。お前はまずは魔力制御だな。これに関しては俺よりもオルフォーズあたりに教わった方がいいだろう。で、あとは全体的に大味な動きをどうにかしよう」
「どうにかって、どうするんですか?」
どう伝えてやればいいだろうか。ただ動きを細かく、丁寧なものにすればいいわけではない。彼の持ち味である勢いと爆発力を生かしつつ、ほんの少しの繊細さが欲しい。
しばらく考えてみたが、上手い表現が思いつかない。基礎がある程度できているファルスの兵たちとは話が違う。多少訓練は受けようとも、彼らはあくまで学生だ。戦いを学ぶ下地が身に付いてはいない。
とはいえ、全て生徒のせいにもしていられない。なにしろ俺は先生だ。生徒に理解を任せてはいけない。生徒が理解できないのならそれは俺の責任だ。
「そうだな……常に全力じゃなくて、程よい力の出し方を意識してくれ。魔術においても体術においても大事なことだ」
完全には伝わらなくてもいい。俺の伝えられる範囲で、少しずつ教えていけばいい。それに、結局彼らの望みを叶えるのは彼ら自身。こうして実戦を繰り返すうちに自分なりの成長もしてくれるはずだ。
「オルフォーズとロプトに関しては、基礎が出来上がっているからほとんど言うことはないな。ただ、二人ともまだ戦略の組み立てが甘い。ゴリ押しに押し切られない自分を作るといい」
「先生〜、それってどうやって作ればいいの?」
正直、よくわからない。俺で言えば頑強さだろうか。相手に無理やり力押しされても、丈夫さでどうにか持ち堪えることができる。そういう戦い方しかしてこなかったから、彼らのような戦い方の完成形が……。
いや、わかる。彼らの完成形のような男が身近にいるじゃないか。アーツの力押しへの対抗手段は、いや。そもそも力押しを許した場面がなかった。結局は押し切られるような場面を作るなということなのだろう。
「やっぱり、自分の領域から逃さないのが一番だな。だけどオルフォーズの体術なんかは一種弱点補完的に備えておくといいと思う」
「今後も精進します」
「体術かぁ。ま、覚えておくに越したことはないか」
ある程度納得はしてくれたようだが、満足はしていないはずだ。今度アーツにそれとなくコツを聞いておこう。応用できることがあるかもしれない。
「最後にルーチェル。技の冴えはなかなかのものだが、動きがまだぎこちないな。まずは一撃と一撃の間をもっと自然に処理できるように気をつけてみてくれ」
「はい。もっと実戦経験を積まないとですよね」
「ま、そうだな。普段家でもやってるのなら、いろんな型を連続で練習するのもいいと思うぞ」
返事こそしたが、ルーチェルはどこか思うところがありそうだ。だんだんわかってきたが、ルーチェルは実戦を求めている。訓練、演習ではなく、実戦の中で強くなることを望んでいる。
気持ちはわかる。実践経験を積むことは急速な成長に大きく寄与する。しかし、その分計り知れないほどの大きな危険も付き纏う。そこまで焦らなくとも、彼女にはまだ時間があるだろうに。それとも、何かそこまで実戦を求めるような理由があるのだろうか。しばらくしたら聞いてもいいかもしれない。
なんにせよ、今彼女が本当の殺し合いに身を投じることはない。それまでここで演習という形で実践に近い体験を与えてやるのがいいだろう。
そのためにも、誰よりも成長すべきは俺だ。手近な椅子に腰掛けると、丸い演習場の壁で切り取られた空を見上げる。
「まさか、こんな真面目にやることになるとはな」
思ったよりも頑張ってしまった。今日はこのあと仕事があるというのに。
次回、581:後続任務 お楽しみに!




