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56:上陸

 いつも通り、ゆっくりと目を覚ます。戦闘こそ規格外だが、普段のんびりしていられるのはこの仕事のいいところかもしれない。


 さて、観光と題していろいろと見て回ろうと思ったが、オルのように一般の市民が多く住んでいる訳でもなく、意外と気軽に買い物ができるような店は少ないようだ。肝心の店も一つのエリアに大半が固まっており、見て回るのに時間はかからなかった。


 しかし、宿に戻ってみるとキャスとリリィがいない。他に見るところでもあっただろうか。二人とも見た目はいいから連れ去られた……なんてことは絶対にないだろうし、俺が何か見落としているのだろう。


「なあ、リリィとキャスはどこ行ったんだ?」


 ちょうど宿の主人と遊んでいたアーツに尋ねる。アーツの好きなボードゲームをやっているようだが、どう見ても劣勢だ。あれだけやっていて逆になぜそこまで負けられるのだろうか。悪手ではないが最善ではない手を打ち続けていれば勝てるはずもないのに。


「二人は多分賭場にいるよ。ああ見えてどっちも稼ぐからね、遠征用の資金も倍増さ」


 キャスはともかくとして、リリィが賭けに興じる姿はあまり想像できない。暇だしとりあえず教えられた場所まで行く。


 酒と煙草の匂い、そしてテーブルごとに上がる声。見回してみるとカードを使った賭けが主らしい。リリィとキャスのいるテーブルはすぐわかった。そこだけやけに観客が多い。こんな港の賭場に女二人で来れば注目されて当然だろう。


 俺も観衆の間から顔を出し、二人の様子を眺める。リリィたちと相対している男は今にも泣きそうな目をしている。積まれた金の量を見ればわかる、男はもう手持ちぎりぎりだ。いつ潰されてもおかしくない。


「ん、あたしの勝ちだね」


 キャスがほいとカードをテーブルに投げ、男から金をごっそり持っていく。少し見ていてわかったが、リリィは少額をちくちくと継続的に削っていくタイプで、キャスは一か八かの大勝負をきっちり決めることで一挙に金を稼ぐタイプのようだ。


「そのへんにしてやれよ。そいつ破産しちまう」


 人混みをかき分けてキャスの方を叩く。二人とも楽しくて夢中になってしまっていたのだろうが、このままでは有り金を全て持っていく悪魔だ。対戦していた男が神を崇めるような目で俺を見てくる。数日食い扶持に困らない程度には残ったようだ。ここなら仕事もたくさんあるし、それだけあればなんとかなるだろう。


 ところで金を稼いだはいいが、王家から受け取った資金の両替はどうするのだろうか。俺達アイラ王国はウォルを使っているが、ニクスロット王国はラルという単位を使っている。価値自体は大して変わらないようだが、ファルス皇国に行くときと違って王国に全くラルが流通していないために準備できなかったのだ。


 賭場の掛け金くらいの金額であれば外貨を珍しがって交換してくれる者もいるだろうが、特に貿易などの関わりもないアイラ王国の金、しかもかなり高額なのを交換してくれるだろうか。


 賭場に来て何もしないのは申し訳ないから従業員に少し多めに金を払って揚げ物を貰う。これをつまみながら次に名乗り出た男との駆け引きを眺めようという算段だ。こういう場所の食べ物は基本酒の肴のようなものが多いが、俺は酒はあまり飲まないからできるだけ食事らしいものを食べたい。


 鳥の卵の小さいのを茹でて揚げただけだが、甘みの強いタレがアクセントになって楽しく食べられる。小さな櫛で卵を一つずつ突き刺してのんびり食べ進める。


 食事が終わってもリリィたちの快進撃は止まらず、結局挑んだ男たちの財布を空に近い状態にして帰ることになった。借金を作る者が一人もいなかったのは奇跡的だろう。キャスはもしかしたらある程度負かし過ぎないように調整していたかもしれないが。


 宿に戻ると主人が生の魚を使った料理を用意して待っていてくれた。新鮮な状態でないとそのまま食べられないため、今朝から準備していてくれたようだ。


「お客さん方内陸部に住んでて魚食べたことないって聞いたんでね、たらふく食べて本島に行ってくださいな。あっちじゃ海が荒れてて近海に魚が住まないんでね」


 島国といってもあちらでは魚は食べないのか。言われてみれば大型船が余裕で沈むほどの海で漁をする人間などいないだろう。いくら嵐の海を渡る船があろうと、陸で食糧が確保できるのであればわざわざ出ていく必要は無い。


 主人も本島には行ったことがないようで、船には乗った経験こそないが安全性には太鼓判を押してくれた。この歳まで働いてきて一度も沈没の知らせを聞かなかったらしい。意図的に隠蔽されている可能性も考えられるが、俺たちの迎えが来る日時が詳細に伝えられているように、普段から予告があるのであれば主人の言葉も確かなのだろう。


 それからは特にすることもないので賭場に通うリリィとキャスを眺めつつ、部屋で新しく仕入れたナイフを手に馴染ませようと努めた。なかなか自分に合った刀は見つからないが、ナイフくらいだったら割とどこの店にもある。遠距離での攻撃力は結局高位の魔術師には敵わないのだから、だとすれば近接戦闘の手段を増やすしかない。


 宿の空き地で少しアーツに相手をしてもらったが、今までの相棒ほどではないものの実戦に持ち込んでも問題ない程度には勝手がわかった。アーツと少し立ち会って分かったが、この男どこかで訓練されている。俺のように経験から来る感覚と勘での動きではなく、計算と予知による動きだ。考えながら戦うやり方を叩き込まれていない人間にこれはできない。


 3日が経って船が到着した。驚いたことに船体は全て金属で、そのうえ帆がない。甲板から上を全て取り除いたような見た目だ。少し弾丸を思い出させる。よく見ると上部には扉のようなものがある。あそこから中に入るのか。


「お待たせ致しました、アイラ王国の皆様。これから約5時間の船旅となります、航行中は席をお立ちになれませんのでご注意ください」


 宿の部屋で忘れたものがないかしっかりと確認し、船に乗り込む。船内には魔力が充満しているのが分かった。この雰囲気は魔導列車と同じだ。船体後方からの魔力の波は魔導機関が発しているのだろう。水上を走るような力が引き出せるとは思いもしなかった。


「ふむ、これは俺もびっくりだね」


 うっすら笑いながらアーツが言う。外見も異様だったがそれは内部も同じこと。ここまで来なければこんなものは一生見ることはなかっただろう。


 数人の男が操縦席に着くと、周囲に無数の魔法陣が展開される。なるほど、それで速度や方向などを調整している訳だ。これならばどんな荒れた海でも渡れるのも納得がいく。魔力に頼り切るのは俺の能力的に少し安心しきれないところはあるが、普段利用している風や波を動力の勘定に入れないことでそれらによって被るデメリットも排除しているのだ。


 だが今のアイラ王国に、というか大陸のどの国にもこのような金属の加工技術はない。魔法陣を視力強化で詳しく見てみるが、明らかに速度は俺の乗ったことのあるどんな乗り物よりも速い。これだけの技術のある国と戦争をしたならば、アイラは為す術なく敗北するだろう。


「この先海がかなり荒れています。大きく揺れるのでお気をつけください」


 その言葉通り、十数秒後に船が暴れ出す。馬車で畦道に乗り込んでしまった時と同じかそれ以上に船体が揺れる。しかも揺れは前後左右だけではなく上下にも大きい。この感じは陸上では味わうことのできないものだろう。


 20分程揺れが続き、だんだんと穏やかになっていくのが分かる。船はゆっくりとスピードを落としていき、停泊する。


「外は氷雪の世界となっております。寒さに不慣れであればそれは尚更のこと、十分に着込んでから外に出てください」


 冬だとか、そんなものとは比べ物にならないほど寒いと聞いていたからこれでもかと買っておいた冬服やら上着やらを着る。さすがに少し良いものをといつもよりかなり多めに金をはたいたし、きちんと役に立ってほしい。


「ようこそ、ニクスロット王国へ」

また更新にしばらくかかってしまいました……

次回更新は来週あたりになってしまいますがよろしくお願いします!

今回もありがとうございました!

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