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574:毒林檎

「先生〜、どうせ入れるなら可愛い子にしましょうよ〜」


「ひどい態度だな君……。研究室をなんだと思っているんだ……」


「どんな場だろうと快適に、ね。ルーちゃんは整った感じだから、次はふわっとした感じだといいな〜って」


「る、るーちゃん……?」


 会って間もないのにあだ名で呼ばれたからか、ルーチェルが困惑している。オルフォーズも困惑、というよりもはや驚いている。ロプトと初めて話した時は妖しげで読めない感じだと思っていたが、だんだんわかってきた。


 あれはある意味での威嚇と品定めを兼ねていたのだろう。ロプトはロプトなりに自分の生きやすい場を探していた。だからこそ、あの不遜な態度で俺との面会に臨んだのだ。あの態度を許容するような相手ならば、学校生活が送りやすいと考えたのだろう。


 実際他の教師陣は厳格そうだし、あの態度を取ったら確実に放り出されるだろう。態度という面で言えば俺とロプトは近しい。うっかり素が出れば俺も疎まれることは想像に難くない。校長は寛容だから今のところ助かっているが。


 だから、俺は不遜も怠惰も責め立てるつもりはない。いい具合に小言を言ってくれる同級生もいるわけだし、そうそう暴走はしないだろう。もっとも、オルフォーズに止められなくとも自分でどこか行動をセーブしているようにも見えるが。だが、今は何も言うまい。何か考えがあるのだろう。


「結局どうしましょうね、張り紙貼っても全然人来ませんし。やっぱ文字が多すぎなんですよ〜」


「あれでも減らしただろう。あの程度の文字も読めないのなら願い下げだ」


「いやぁ、あれはデザインが悪いよ。あれ作った人はセンスないね」


 俺とデトル、そしてオルフォーズの全員が硬直する。できるだけシンプルなものと思って作ったのだが、『センスない』のか、あれ。いや、俺はそこまで関わっていないし、関係ないだろう。きっと他の二人だ。


 固まってお互いの顔を探り合うように見る俺たちがそんなに可笑しかったのか、ロプトはけらけらと笑っている。完全に掌の上だ。こんな調子で俺は大丈夫だろうか。


「と、まあ。実際みんな大きな研究室に入りたがるしねぇ。やる気の有無は置いておいて、友達いなそうな人を適当に引っ掛けるのがいいんじゃないの〜?」


「本当に酷いな君……」


 確かにひどい言い草だ。しかし、ちょっとしたヒントにはなった。事情はわからないが、もしかしたら。この状況をどうにかできるかもしれない。そろそろ帰るにもいい時間だ。動くなら今だろう。


「少し思いついたことがある。今日はここで解散にするから、皆も今日は帰ろう」


 急なことで少し驚いたようだったが、皆素直に受け入れ、鞄を持って研究室を出て行った。俺も皆を見送った後、もう一度校舎に戻る。


 ロプトの発言で思いついたのだ。『友達いなそう』、それはつまり一人ということ。陽が落ちる頃まで一人で時間を潰すような不良生徒もそのうちの一人だろう。


「さて、この辺りだと思うんだけどな……」


 わずかに気配がする。しかし、いつもこんなところに来ていたとは。なかなかに危険なことをする。実際ここは入ることを想定して作られてはいない。そもそも人が来るべき場所ではないのだ。


 足場がものすごく悪い。こういうところは俺も慣れていないわけではないが、学生がここに来て、よく怪我をしないで済んでいるものだ。こんな、校舎の屋根の上なんかに。


「え、あんた……」


 向こうも俺の気配に気付いたのか、驚いた様子でこちらを見る。まあ驚くのも仕方がないか。やっと屋根を登り終え、隣に並び立つと、一息つく。悪くはないだろうとは思っていたが、ここは……。


「いい眺めだな、ここ」

次回、575:勧誘 お楽しみに!

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