568:訪れる真相◇
ロプトがどんな人間なのかまだ読めないが、一応は研究室に入ってくれるということで一歩前進と言っていいだろう。一応メンバーも半分を超えた。あとは二人だけ。期限も少しずつ迫っているが、このペースならば、もしかしたら。
演習場を出たところで再び感じる視線。しかし、今回はいつもとは違った。きちんと気配がある。立っていたのは目が前髪で少し覆われた、内気そうな少女。制服は研究科のものだ。
「お前か、ちょっと前から俺のことを見てたのは」
「す、すみません……!」
確認しただけなのだが、どうやら怒っていると思われてしまったらしい。話し方か、もしくは言葉選びが悪かっただろうか。俺が悪いのだが、なかなか難しい。
悪意や敵意、殺意は感じていなかったから俺も困りはしていなかったのだが、この女子生徒だったか。俺でも気配が感じられないほどに隠れることに優れているのは突出した才能だ。目的は何だろう。
「さっきの戦いも、見てました。先生は、なんで魔術を使わないんですか?」
「使えないんだ。……それはお前も、だろ?」
俺を追う、気配が異常に薄い少女。しかも研究科の制服を着て、魔術について質問してくる。イゾルデの噂を聞いていたから、正体はすぐにわかった。
おそらく、彼女こそがその噂の正体。魔力を持たないという少女だろう。話してみたいとは思っていたが、まさか向こうからコンタクトを接触してくれるとは。しかし、なぜ俺の様子を窺っていたのだろうか。
「えっと、先生が魔術を使わないって噂を、食堂で聞きつけて。それで、あの……」
俺がどんな人間か見に来た、といったところだろうか。せっかく来てくれたのに、怖がらせてしまったのは申し訳ない。
「私を、先生の研究室に入れてくれませんか……!?」
「は……?」
確かに規定には研究科の生徒を受け入れてはいけないという取り決めはなかったが、いいのだろうか。特に俺の研究室など、向こうの扱っている内容とは程遠いというのに。
確かに彼女が入ってくれれば残すは一人。ジェイムやラインハルト、オルダーからの期待に報いることはできるが……。
「少し校長に相談してみよう。お前も来てくれ」
これはちょっと、俺の独断で動ける範囲を超過している。校長よりもさらに上、オルダーやアーツ、キャスに頼れば簡単に解決するだろうが、それではこの少女がその皺寄せを受けかねない。
それに、俺はあくまで軍から推薦されて赴任した教師だ。俺が快適に過ごすためにあまりに『上』の力を使い過ぎれば、関係性も疑われる。場合によっては、俺の過去、軍属でない時代の人殺しが明らかになる可能性だってなくはない。安易な行動は慎まなければ。
綻びはいつか生じる。今は俺の力を求め集ってくれた生徒たちも、俺のことを知れば離れていくかもしれない。しかし、今すぐにではなくともいいだろう。もう少しだけ、俺が求められた責務を果たそう。
「研究科なのに、なぜ俺の研究室に?」
「入学するには、研究科しかなかったので。本当は戦術科の内容が勉強したかったんです」
そういえば、イゾルデも言っていたか。実技に重きを置いた戦術科に対し、知識を重視する研究科であれば合格の可能性もあると。しかし、そのまま研究方面に進むことを希望していないのは、少し意外というか……。
「戦いなら……いえ、何でもないです」
俺は不便ばかりで息の詰まるような空気は感じたことはなかったが、おそらく優秀な人材に育つことを求められる貴族ゆえの、魔力を持たない苦労というのがあるのだろう。俺にはわかるまい。
少し重たい沈黙の中、校長室の前にたどり着く。校長室に入る前に、一つ聞いておかなければ。
「名前は?」
「ルーチェル・デルン・エフィリーン……です」
次回、569:特例のための特例 お楽しみに!




