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564:祖父と専属顧問

「さっきあいつにも話したが、5人の生徒が揃わないと研究室は設立できない。おれも協力はするが、あと3人は必要だ」


「研究室の人数制限、ですか。少なすぎるのが問題なのはわかりますが、なかなか厄介ですね」


 どうやらオルフォーズもやる気らしい。デトルよりは建設的な方法で勧誘をしてくれそうだが、そもそも俺は別に人数が集まることを望んでいるわけではない。


 とはいえ、彼の祖父、ラインハルトに評価されたのであればそれは少し嬉しい。それに応えられないというのは残念ではある。しかし、どんなことを話してオルフォーズに俺を勧めたのだろうか。


「ライ……お祖父さんはなんて言ってたんだ?」


「良い目をしている、信用できる男だと。顧問も実力を保証してくれましたし」


「顧問……?」


 さっきは出てこなかった言葉だ。この男の周辺に、なぜ俺のことを知っている人間が何人もいるのだろうか。変わったこともあるものだ。


 顧問、顧問……。そういえば、聞いたことがある。有名な貴族は幼少期から専属顧問を雇い特に王立学校入学に向けての教育をしているとかなんとか。きっと顧問というのはそれのことだろう。


 しかし、貴族の顧問に採用されるような人物が俺の周囲にいただろうか。特務分室の面々は他の仕事についているはずだし、エルシあたりもあり得ないだろう。あとは、もしかして……。


「ジェイム……?」


「ええ。この国で最高クラスの剣術の使い手と仰っていました」


 皮肉か。現状俺のせいで身体が弱ってしまって使えなくなってしまったが、ジェイムの方が明らかに俺よりも技術は上だった。


 しかし、やっと全てがつながってくる。そういえば以前ジェイムに会った時には貴族の子どもに何か教えていると言っていた気もする。まさかこの家だったとは。


 さすがは仲介なしで仕事を請け負う殺し屋、相手をする貴族も肝の座った武闘派ということか。俺も歳を取っても食いっぱぐれなければ良いのだが。


「とりあえず、なんで俺のところに来てくれたかはわかったよ。もう時間も遅い、期間中に人が集まるかは明日考えよう」


「ええ、ありがとうございます。では、また明日研究室に伺いますね」


 そう言って頭を下げると、オルフォーズは頭を下げて学校を出ていく。かかっている期待の数がだんだんわかってきて、だんだん逃げることもできなくなってきた。俺の方も真面目にやるか。


 俺にできること、思いつくことはそう多くはない。明日話し合いつつ、俺の方でも情報を集めるとするか。


「君、それは規則違反だぞ。こういう活動はきちんと規範に則って……」


「そんなこと言ってたら何もできないですよ! もうちょっとインパクトがないと……」


 建設的な話し合いができると思っていた俺が馬鹿だった。よくも悪くも極端なこの二人、ぶつかり合わないわけがない。少し真面目なオルフォーズは規則を完全に遵守しようとするし、デトルはとにかく好き放題やりたがる。


 二人とも意見自体はそうそう悪いとは思わないのだが、如何せん突き抜け過ぎてしまっている。もう少し温和にというか、程度の緩やかな方法を提案してくれないものだろうか。


「俺は先生の凄さをわかってもらいたいんですよ!」


「先生が優秀なのはわかるが、それと勧誘は必ずしも一致しない! きちんと先生の力が必要な生徒に働きかけるべきだ!」


二人とも言っていることはそこまでおかしくないはずなのに、なぜこうなってしまうのか。かたや俺を校舎の目の前で戦わせようとするデトルと、文章がびっしり書かれた張り紙を掲示しようとするオルフォーズ。どちらもやり方が極端すぎる。見ているだけで疲れてお腹が空いてきた。


「二人とも、食堂にでも行こう。飯食ったら良い案も出るだろ」


 二人とも空腹は感じていたようで、同意してついてきてくれる。まだ授業は始まっていないが、見学やら質問、それから研究室の活動に来た生徒で食堂は賑わっている。


 適当に揚げ物を挟んだパンを買って席に座ると、真面目に案について考えながらパンを齧る。


「あん時の先生、カッコよかったなぁ〜! 魔術を一切使ってないのに乾杯でした!!」


「ジェイムさんも似たようなことを言っていましたね。魔術を使わないと」


 そういえば、この学校に来てからは言っていなかったか。大事なことではあるが、最近あまり意識していなかったから忘れていた。


「使わない、んじゃないんだ。俺、魔術が使えない体質でな」


 デトルとオルフォーズが口と目を大きく見開いてこちらを見る。信じられないといった顔だ。まあ俺のような人間はそう多くない。驚きもするだろう。


 しかし、やっと二人の動きが揃った。このタイミングで揃うのは少し不本意ではあるが、正反対の二人が同じ反応をするというのは面白い。


 表情が動かない二人を可笑しく思いながらパンを齧っていると、昨日の夕方のような視線を感じる。しかし、今回は例の女子生徒ではないようだ。視線は感じるのに、その気配と存在を掴めない。


 気のせいではないはずなのだが、見つからないものは仕方ない。また今度探すことにしよう。






「レイ、先生……。魔術の使えない人」


「私と、同じ人……」

次回、565:奇妙な噂 お楽しみに!

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